表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/182

第4章4話 君には責任を取ってもらう

 なすべきことは成した。

 今度は自分たちの心配をする番であろう。


「さてと、俺たちはこれから――」


 言いかけて、俺は不機嫌な叫びに言葉を遮られてしまう。


「貴様ら、そこを動くな!」


 メイティを脱出させるのに少し手間取りすぎたか。

 余裕のかけらもない怒鳴り声が、俺の鼓膜から脳までを震わせる。


 辺りを見渡してみると、俺たちは帝國軍兵士たちに銃口を向けられ、囲まれてしまっていた。


 兵士に紛れ拳銃をこちらに向けたのはカーラックである。

 カーラックは顔を歪ませ、への字に曲がった口から反吐を出す勢い。


「よくも我がストレロークを破壊し、魔術師を逃がしてくれたな! 許さないぞ、反逆者!」


 少しでも刺激を与えれば、おそらく彼女は引き金を引く。

 それほどまでに、カーラックは激しくのたうち回る感情をむき出しにしていた。


 ただし、感情に素直なのは俺も同じ。

 頭に浮かんだ言葉をそのまま俺は言い放った。


「俺たちをお子様だなんてバカにするから、そういうことになるんだ」


「貴様ァァ! それ以上、その憎たらしい口を開くな! 次は撃つぞ!」


「せっかくの皇帝陛下への献上品、撃てるもんなら撃ってみろよ。まあ、そんなことしたら、カーラック艦長の出世はパアだけど」


「この……!」


 己が野心のため殺意を抑えたカーラック。

 フユメは挑発的な俺を諌め、束の間の落ち着きがやってくる。


 兵士の1人は銃を構えたまま、カーラックに質問した。


「艦長、いかがいたしましょう?」


「こいつらを捕らえろ! 絶対に逃がすな! メイティ=ミードニアを逃してしまった現状、皇帝陛下に謝罪するにはこいつらが必要だ」


「かしこまりました」


 二度は逃がすまいと、兵士たちはぴったりと俺たちに銃口を突きつける。

 これではさすがの俺たちも下手なことはできない。

 あのシェノがおとなしくしている時点で、今は反撃のときではないのだ。


 一方でカーラックは、頭を抱え爪をかじる。


「リー総督に何と弁明すれば……」


 どう自らの経歴に傷がつかぬよう任務失敗の報告をしようか。

 それだけに全意識を集中させた様子のカーラックだが、続く部下の言葉に彼女は追い詰められた。


「艦長、リー総督閣下から通信です」


「なに!?」


 帝國の内部事情に何らの関わりを持たぬ俺でさえ、部下の言葉が死刑宣告に近しいことは理解できる。

 カーラックは背筋を凍らせ、目玉を右往左往させていた。


 だが総督からの通信を無視するわけにもいかない。

 残酷なまでに淡々と通信装置の準備を進める部下たちを前に、ひたすら考えるカーラック。

 用意された通信機が起動し、1人の老人――リー総督のホログラムが出現すると、カーラックは瞬時に笑顔を浮かべた。


「リー総督閣下、ご無沙汰しております。本日は――」


《新たに2人の魔術師を捕らえたそうだな、カーラック艦長》


「は、はい! 先日、敵対者リストに加えられたばかりの魔術師と、その仲間の3人を捕らえました!」


《まさか君が、魔術師の捜索などという難題をやり遂げるとはな。君の能力を疑っていた私は、君に謝罪しなければならないようだ》


 芝居のような口調、人を見下したような視線、尊大な態度。

 何もかもが一歩上を行くリー総督の褒め言葉(・・・・)に対し、カーラックは当然、素直に喜びなどしない。


 カーラックの反応など、リー総督にとっては想定内だったのだろう。

 彼は表情を変えることなく、冷酷な問いを投げつけた。


《ところで、メイティ=ミードニアは、今どうしている?》


「そ、それは……」


 もっとも聞かれたくなかったであろう問い。

 いよいよカーラックは言葉を失い、リー総督と目を合わせることすらできない。


 さすがの俺も、今のカーラックは少しばかりかわいそうに思えてきた。

 ここまでカーラックを追い詰めたのは俺たちなのだから、かわいそうだ、などと思うのもおかしな話なのだが。


 リー総督は容赦なく言葉を続ける。


《先ほど、第二艦隊のディミオスから報告があったのだ。ストレロークの機関部が爆発、直後に脱出ポッドが何者かに奪われたと》


 もはや逃げ道はない。

 覚悟を決めたカーラックは、悔しさを滲ませ事実を報告する。


「実は……メイティ=ミードニアを……逃しました……」


 拳を強く握り、唇を噛むカーラック。


 ところがリー総督は、やはり表情を変えない。

 それどころか、カーラックの失敗を当たり前のように受け入れる。

 彼にとって、カーラックの失敗は怒るほどのことでもない、当然のことであったのだ。


《そうか、それは残念だ。やはり君は、君の父上には遠く及ばないらしい。君には魔術師の世話など、少々荷が重すぎたのだろう。君にこのような任務を与えたハオス提督には、深く反省してもらわなければ》


「お待ちください! 必ず、必ずメイティ=ミードニアを取り返してみせます! 私こそが、父に代わり帝國の未来を担うにふさわしい軍人であることを、必ずや皇帝陛下に示してみせます!」


 自分にはそれだけの力があると、カーラックは強く確信しているかのよう。

 是が非でもリー総督の思い通りにはならないと、抗っているかのよう。

 しかしカーラックの訴えはリー総督には届かなかった。


《その必要はない。我ら帝國は銀河連合に宣戦布告した。間もなく下等生物たちの支配は終わりを告げる。もはや帝國に魔術師は必要ない》


「で、では、捕らえた3人の魔術師は?」


《私が責任を持って、皇帝陛下の期待を裏切った無能ごと始末しよう》


 冷たい意志が俺たちに突き刺さった。

 ついにリー総督は、俺たちにも牙を向けたのだ。


 もちろん、最も混乱しているのはカーラックである。


「今、なんと!?」


《ストレローク艦長ケイ=カーラック大佐、君は栄えある帝國臣民としての務めを果たすことに失敗した。君には責任を取ってもらう》


「リー総督閣下! お待ちを! 私は――」


 切り捨てられた者の叫びは雑音でしかない。

 カーラックの最後の訴えを聞くこともなく、リー総督は通信を切ってしまった。


 静寂に包まれた艦内。

 だがその静寂も、兵士たちの報告により吹き飛んでしまう。


「僚艦がこちらに砲を向けています!」


「通信途絶! 応答ありません!」


 次々寄せられる報告は、そのどれもが不穏なものばかり。

 嫌な予感がする。


「なんか、すげえ面倒事が起きてるぞ」


「帝國軍は、カーラック艦長ごと私たちを葬り去る気でしょうか……」


 間違いないだろう。

 リー総督からすれば、俺たちとカーラックの処刑をまとめて行える良い機会だ。

 そして帝國軍は、上の命令に従順なのだ。


「僚艦がストレロークに向かって砲撃を開始!」


「艦長! 彼らは本気です!」


「間もなく着弾します!」


 悲鳴にも似た兵士たちの声を聞き、カーラックは呆然としたまま虚空を見つめている。

 俺とフユメ、シェノの3人は、こんな場所では死ねないと姿勢を低くした。


 刹那、俺たちの体は凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、耳をつんざく爆発音に包まれる。

 数発の艦載レーザーが俺たちの乗る巡洋艦――ストレロークを撃ち抜いたのだ。


 艦体にあいた穴からは兵士たちが宇宙に吸い出されていく。

 俺たちも例外ではない。数十メートル先の穴に吸い込まれていく俺たちは、ハッチや壁に必死で張り付き、生き残ることを祈った。


 けれども、フユメは酸素の流れに逆らうことはできず、宇宙に繋がった穴へと誘われてしまう。


「危ない!」


 フユメを死なせるわけにはいかない。


 蘇生魔法で蘇るという道が残されている俺は、壁から手を離し土魔法を発動、廊下を完全に塞いだ。

 おかげでフユメの命は助かり、一方で俺は宇宙に放り出されるのであった。


 宇宙空間にて、今にも死にそうな寒さに凍え眺めるストレロークの姿は、あまりに絶望的。

 3隻の巡洋艦から集中攻撃を受け、ストレロークはまさに穴のあいたチーズのよう。


 俺はただ死を待った。

 できることならば、このまま静かに失神し息を引き取りたかったのだが――


「マジかよ、クソッ!」


 1隻の巡洋艦、その甲板に積まれた三連装砲から放たれる、極太の緑のレーザー。

 明らかに人間を狙うものではないそれが、まっすぐと俺に向かってきたのだ。


 回避行動も取れず、俺はレーザーの光に包み込まれる。

 瞬時に体が消し飛ぶ感覚は、五感にしっかりと刻まれ、俺は死を迎えた。


「ソラトさん! 蘇りましたよ!」


「ひどい目にあった……」


 見慣れたフユメの顔は俺の心に安心感を作り出す。

 安心感は冷静さを生み出し、俺は現状を確認。


「これ、逃げるチャンスかもな」


「逃げる前に、巡洋艦が破壊されてしまいますよ!」


 誰もがフユメと同じツッコミをすることだろう。

 宇宙空間から眺めたストレロークは、いつ崩壊してもおかしくはなかった。

 ストレロークの寿命は、長くともあと数分程度。


 そんなストレロークから脱出したければ、こちらを攻撃する3隻の巡洋艦を沈めれば良い。


「俺、ちょっと魔法修行をしてきてな」


「え!? いつですか!?」


「さっき。新しく覚えた魔法、試してみる」


 俺は窓の外に見える巡洋艦に向けて腕を突き出し、五感に刻まれたばかりの感覚を呼び起こす。

 続けて艦砲射撃の瞬間を想像した。

次回 第4章5話『帝國軍に追われています!』

ラグルエル「カーラックさんは失意の中だけど、クラサカ君たちは諦めず、帝國軍から逃げようとするわ。カーラックさんと一緒にね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ