第4章4話 君には責任を取ってもらう
なすべきことは成した。
今度は自分たちの心配をする番であろう。
「さてと、俺たちはこれから――」
言いかけて、俺は不機嫌な叫びに言葉を遮られてしまう。
「貴様ら、そこを動くな!」
メイティを脱出させるのに少し手間取りすぎたか。
余裕のかけらもない怒鳴り声が、俺の鼓膜から脳までを震わせる。
辺りを見渡してみると、俺たちは帝國軍兵士たちに銃口を向けられ、囲まれてしまっていた。
兵士に紛れ拳銃をこちらに向けたのはカーラックである。
カーラックは顔を歪ませ、への字に曲がった口から反吐を出す勢い。
「よくも我がストレロークを破壊し、魔術師を逃がしてくれたな! 許さないぞ、反逆者!」
少しでも刺激を与えれば、おそらく彼女は引き金を引く。
それほどまでに、カーラックは激しくのたうち回る感情をむき出しにしていた。
ただし、感情に素直なのは俺も同じ。
頭に浮かんだ言葉をそのまま俺は言い放った。
「俺たちをお子様だなんてバカにするから、そういうことになるんだ」
「貴様ァァ! それ以上、その憎たらしい口を開くな! 次は撃つぞ!」
「せっかくの皇帝陛下への献上品、撃てるもんなら撃ってみろよ。まあ、そんなことしたら、カーラック艦長の出世はパアだけど」
「この……!」
己が野心のため殺意を抑えたカーラック。
フユメは挑発的な俺を諌め、束の間の落ち着きがやってくる。
兵士の1人は銃を構えたまま、カーラックに質問した。
「艦長、いかがいたしましょう?」
「こいつらを捕らえろ! 絶対に逃がすな! メイティ=ミードニアを逃してしまった現状、皇帝陛下に謝罪するにはこいつらが必要だ」
「かしこまりました」
二度は逃がすまいと、兵士たちはぴったりと俺たちに銃口を突きつける。
これではさすがの俺たちも下手なことはできない。
あのシェノがおとなしくしている時点で、今は反撃のときではないのだ。
一方でカーラックは、頭を抱え爪をかじる。
「リー総督に何と弁明すれば……」
どう自らの経歴に傷がつかぬよう任務失敗の報告をしようか。
それだけに全意識を集中させた様子のカーラックだが、続く部下の言葉に彼女は追い詰められた。
「艦長、リー総督閣下から通信です」
「なに!?」
帝國の内部事情に何らの関わりを持たぬ俺でさえ、部下の言葉が死刑宣告に近しいことは理解できる。
カーラックは背筋を凍らせ、目玉を右往左往させていた。
だが総督からの通信を無視するわけにもいかない。
残酷なまでに淡々と通信装置の準備を進める部下たちを前に、ひたすら考えるカーラック。
用意された通信機が起動し、1人の老人――リー総督のホログラムが出現すると、カーラックは瞬時に笑顔を浮かべた。
「リー総督閣下、ご無沙汰しております。本日は――」
《新たに2人の魔術師を捕らえたそうだな、カーラック艦長》
「は、はい! 先日、敵対者リストに加えられたばかりの魔術師と、その仲間の3人を捕らえました!」
《まさか君が、魔術師の捜索などという難題をやり遂げるとはな。君の能力を疑っていた私は、君に謝罪しなければならないようだ》
芝居のような口調、人を見下したような視線、尊大な態度。
何もかもが一歩上を行くリー総督の褒め言葉に対し、カーラックは当然、素直に喜びなどしない。
カーラックの反応など、リー総督にとっては想定内だったのだろう。
彼は表情を変えることなく、冷酷な問いを投げつけた。
《ところで、メイティ=ミードニアは、今どうしている?》
「そ、それは……」
もっとも聞かれたくなかったであろう問い。
いよいよカーラックは言葉を失い、リー総督と目を合わせることすらできない。
さすがの俺も、今のカーラックは少しばかりかわいそうに思えてきた。
ここまでカーラックを追い詰めたのは俺たちなのだから、かわいそうだ、などと思うのもおかしな話なのだが。
リー総督は容赦なく言葉を続ける。
《先ほど、第二艦隊のディミオスから報告があったのだ。ストレロークの機関部が爆発、直後に脱出ポッドが何者かに奪われたと》
もはや逃げ道はない。
覚悟を決めたカーラックは、悔しさを滲ませ事実を報告する。
「実は……メイティ=ミードニアを……逃しました……」
拳を強く握り、唇を噛むカーラック。
ところがリー総督は、やはり表情を変えない。
それどころか、カーラックの失敗を当たり前のように受け入れる。
彼にとって、カーラックの失敗は怒るほどのことでもない、当然のことであったのだ。
《そうか、それは残念だ。やはり君は、君の父上には遠く及ばないらしい。君には魔術師の世話など、少々荷が重すぎたのだろう。君にこのような任務を与えたハオス提督には、深く反省してもらわなければ》
「お待ちください! 必ず、必ずメイティ=ミードニアを取り返してみせます! 私こそが、父に代わり帝國の未来を担うにふさわしい軍人であることを、必ずや皇帝陛下に示してみせます!」
自分にはそれだけの力があると、カーラックは強く確信しているかのよう。
是が非でもリー総督の思い通りにはならないと、抗っているかのよう。
しかしカーラックの訴えはリー総督には届かなかった。
《その必要はない。我ら帝國は銀河連合に宣戦布告した。間もなく下等生物たちの支配は終わりを告げる。もはや帝國に魔術師は必要ない》
「で、では、捕らえた3人の魔術師は?」
《私が責任を持って、皇帝陛下の期待を裏切った無能ごと始末しよう》
冷たい意志が俺たちに突き刺さった。
ついにリー総督は、俺たちにも牙を向けたのだ。
もちろん、最も混乱しているのはカーラックである。
「今、なんと!?」
《ストレローク艦長ケイ=カーラック大佐、君は栄えある帝國臣民としての務めを果たすことに失敗した。君には責任を取ってもらう》
「リー総督閣下! お待ちを! 私は――」
切り捨てられた者の叫びは雑音でしかない。
カーラックの最後の訴えを聞くこともなく、リー総督は通信を切ってしまった。
静寂に包まれた艦内。
だがその静寂も、兵士たちの報告により吹き飛んでしまう。
「僚艦がこちらに砲を向けています!」
「通信途絶! 応答ありません!」
次々寄せられる報告は、そのどれもが不穏なものばかり。
嫌な予感がする。
「なんか、すげえ面倒事が起きてるぞ」
「帝國軍は、カーラック艦長ごと私たちを葬り去る気でしょうか……」
間違いないだろう。
リー総督からすれば、俺たちとカーラックの処刑をまとめて行える良い機会だ。
そして帝國軍は、上の命令に従順なのだ。
「僚艦がストレロークに向かって砲撃を開始!」
「艦長! 彼らは本気です!」
「間もなく着弾します!」
悲鳴にも似た兵士たちの声を聞き、カーラックは呆然としたまま虚空を見つめている。
俺とフユメ、シェノの3人は、こんな場所では死ねないと姿勢を低くした。
刹那、俺たちの体は凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、耳をつんざく爆発音に包まれる。
数発の艦載レーザーが俺たちの乗る巡洋艦――ストレロークを撃ち抜いたのだ。
艦体にあいた穴からは兵士たちが宇宙に吸い出されていく。
俺たちも例外ではない。数十メートル先の穴に吸い込まれていく俺たちは、ハッチや壁に必死で張り付き、生き残ることを祈った。
けれども、フユメは酸素の流れに逆らうことはできず、宇宙に繋がった穴へと誘われてしまう。
「危ない!」
フユメを死なせるわけにはいかない。
蘇生魔法で蘇るという道が残されている俺は、壁から手を離し土魔法を発動、廊下を完全に塞いだ。
おかげでフユメの命は助かり、一方で俺は宇宙に放り出されるのであった。
宇宙空間にて、今にも死にそうな寒さに凍え眺めるストレロークの姿は、あまりに絶望的。
3隻の巡洋艦から集中攻撃を受け、ストレロークはまさに穴のあいたチーズのよう。
俺はただ死を待った。
できることならば、このまま静かに失神し息を引き取りたかったのだが――
「マジかよ、クソッ!」
1隻の巡洋艦、その甲板に積まれた三連装砲から放たれる、極太の緑のレーザー。
明らかに人間を狙うものではないそれが、まっすぐと俺に向かってきたのだ。
回避行動も取れず、俺はレーザーの光に包み込まれる。
瞬時に体が消し飛ぶ感覚は、五感にしっかりと刻まれ、俺は死を迎えた。
「ソラトさん! 蘇りましたよ!」
「ひどい目にあった……」
見慣れたフユメの顔は俺の心に安心感を作り出す。
安心感は冷静さを生み出し、俺は現状を確認。
「これ、逃げるチャンスかもな」
「逃げる前に、巡洋艦が破壊されてしまいますよ!」
誰もがフユメと同じツッコミをすることだろう。
宇宙空間から眺めたストレロークは、いつ崩壊してもおかしくはなかった。
ストレロークの寿命は、長くともあと数分程度。
そんなストレロークから脱出したければ、こちらを攻撃する3隻の巡洋艦を沈めれば良い。
「俺、ちょっと魔法修行をしてきてな」
「え!? いつですか!?」
「さっき。新しく覚えた魔法、試してみる」
俺は窓の外に見える巡洋艦に向けて腕を突き出し、五感に刻まれたばかりの感覚を呼び起こす。
続けて艦砲射撃の瞬間を想像した。
次回 第4章5話『帝國軍に追われています!』
ラグルエル「カーラックさんは失意の中だけど、クラサカ君たちは諦めず、帝國軍から逃げようとするわ。カーラックさんと一緒にね」




