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第4章3話 あれが、俺たちとメイティの出会いか

 気づけば俺は、蘇生魔法を使ったフユメを見上げている。


「俺、また死んだのか?」


「はい」


「なんか、すまん」


「あ、謝らなくても大丈夫です! もう慣れてますから」


 人を蘇らせるのに慣れた人物は、おそらくどこを探してもフユメただ1人だろう。

 死ぬのに慣れた人物は、おそらくどこを探しても俺ただ1人だろう。


 シェノは拳銃と敵から奪ったライフルで帝國軍兵士を蹴散らしている。

 廊下の角を利用したシェノは、不用意に近づく敵を1人1人確実に撃ち抜いていった。


 幸い、敵がいるのは俺たちの後方であり、行き先ではない。

 蘇ったばかりの俺はシェノに呼びかける。


「迷惑かけたな。先を急ごう!」


「追っ手が多すぎる。もう少しあいつらを始末したいんだけど、あんたさ、どうせ蘇るなら盾になってくれない?」


「それは断る!」


 嫌な出来事を繰り返すのはごめんだ。俺はシェノの言葉を断固拒否。

 対するシェノはいたずらに笑う。

 苦笑したのはフユメ。


 笑えぬ冗談などを言っている場合ではないだろう。帝國軍兵士たちは数に任せて、徐々に俺たちとの距離を縮めてきている。

 ここでシェノは、飛び抜けるレーザーをやり過ごしながら言った。


「あそこを火で炙って」


「わ、分かった!」


 言われた通り、俺はシェノが指差した天井へ向け炎魔法を発動。

 火炎放射器のごとく揺らめく炎が天井を焦がすと、けたたましい警告音が響き渡る。


 直後、分厚い壁が現れ廊下を封鎖した。

 先ほどまで俺たちを狙っていた帝國軍兵士たちは皆、壁の向こう側へ。

 きっと天井に備え付けられた火災感知器が俺の炎魔法で発動し、防火扉を起動させ、廊下を塞いだのだろう。


「さすがシェノさんです!」


「でしょ。ほら、行こ」


 フユメに褒められ機嫌を良くしたシェノは、俺たちの案内を再開した。


 時折出現する敵兵士を倒し廊下を進むと、ようやく目的地に到着。

 俺たちは金庫のように固く塞がれた独房の入り口を眺める。


「ここが独房ですね」


「独房を開けるには、この操作室で――」


「いや、これでいける」


 扉にマグマ魔法を当てれば、扉は液状に崩れその機能を失った。


 歪な穴をくぐり独房に踏み込むと、俺たちはメイティを探す。

 陰湿な鉄柵の隙間を覗き確認する独房の中身。


 それほど時間はかからず、フユメが叫んだ。


「いました!」


 代わり映えしない独房の一室に横たわる、猫耳と尻尾を丸めた少女。

 世界から距離を置くようにスヤスヤと眠るメイティは、鉄柵を開けても起きる気配はない。

 そんなメイティの頭を撫でるフユメは、表情をとろけさせた。


「メイティちゃんの寝顔、とてもかわいいです!」


「あ、フユがふわふわモードになった」


 早速フユメの母性が暴走したようである。


「いきなり起きるなよ。過去を変えたくないからな」


 はじめてメイティが出会った俺たちは、今の俺たちではなく過去の俺たちだ。

 もしここでメイティが目を覚ませば、過去が変わってしまう。

 だからこそ俺は、慎重にメイティをおんぶする。


「で? どうやって逃げる?」


「グラットンで逃げるのは無理だからね」


「転移魔法を使うのはどうでしょうか」


「ニミーとグラットンを置いていけないだろ」


「そうですね。だとすれば……」


 迷った時は過去を思い浮かべれば良い。


「あのとき、俺たちは脱出ポッドに乗ったメイティを回収したんだよな」


「はい、その通りです」


「ってことは、これから俺たちはメイティを脱出ポッドに乗せて、この船から脱出させないとならないってことか」


 今の俺たちがやるべきことは過去の再現である。

 問題は、どうすればその過去を再現できるのかだ。


「メイティちゃんを脱出ポッドで脱出させるとして、まずは巡洋艦をハイパーウェイから脱出させないといけませんね」


 最大の課題を口にするフユメ。

 ハイパーウェイ内での脱出ポッドの使用は危険すぎる。


 何より、メイティが脱出ポッドに乗せられ巡洋艦を脱出したのは、ハイパーウェイの外であった。

 でなければ、俺たちが帝國の無人戦闘機を振り切り脱出ポッドを回収することはなかったであろう。


 この課題をクリアするため、シェノは俺たちに提案する。


「機関部を壊せば、勝手にハイパーウェイを脱出すると思うよ」


「なるほど。機関部はどっちだ?」


「あっち。そんなに遠くない」


「あっちだな」


 シェノに教えられた方向に、俺は両腕を突き出した。

 両腕を突き出し、目をつむり、感覚を呼び起こし、想像する。 

 疑問を口にしたのはフユメだ。


「ソラトさん? 何をしているんですか?」


「ちょっと噴火魔法を使おうかと思って」 


「え!? ここで大規模魔法を使う気ですか!?」


「機関部まで歩くのは面倒だからな」


「大規模魔法で巡洋艦が吹き飛んじゃったら、機関部に歩くより面倒なことになりますよ!」


「ま、大丈夫だろ」


「それは何を根拠にした余裕ですか!?」


 詰め寄り激しくツッコミを入れるフユメだが、知ったことか。

 俺は噴き上げるマグマと噴煙を思い浮かべ、躊躇なく噴火魔法を発動した。


 突如として振動する巡洋艦。どこからともなく聞こえてくる、地鳴りのような轟音。

 続けて獰猛(どうもう)な破裂音が突き抜け、激しい揺れに俺たちは立つこともままならない。


 巡洋艦艦内は赤い光と警告音に支配された。

 もしやこのまま死ぬのでは、と俺の心がつぶやく。


《緊急事態発生、ハイパーウェイを脱出する》


 状況に似合わぬ機械的な報告。

 間もなく巡洋艦は再び細かく振動した。


 今のはハイパーウェイを抜け出した衝撃であろう。

 どうやら俺の狙いは的中したようだ。


「うまくいったろ」


「結果論に頼るの、怖すぎます……」


 真っ青な顔をしたフユメは、膝を抱えて一点を見つめている。

 俺の背中では、あれだけの衝撃に襲われながら、メイティがなおも眠り続けていた。

 シェノは銃を構え辺りを警戒。


「脱出ポッドはこっちにある。ついてきて」


 敵がいないの確認したシェノは、そそくさと廊下を歩き出した。

 メイティを背負った俺は、恐怖に怯えるフユメの手を取り、シェノの後を追う。


 脱出ポッドまでの道のりはそれほど遠くない。

 機関部の爆発に大混乱の乗組員たちはダメージコントロールに集中、俺たちに構っている暇はないようである。


 これといった妨害もなく、俺たちは脱出ポッドが並ぶ部屋にやってきた。

 まるで巨大な卵売り場のようなこの部屋。

 俺たちは近場の脱出ポッドにメイティを乗せ、救難信号を発信させる。


 脱出ポッドの扉を閉める直前、フユメはメイティのモフモフの頭を撫で、不安げにつぶやいた。


「メイティちゃん、大丈夫でしょうか……」


「おいおいフユメ、メイティが最強の勇者だってのを一番知ってるのは、俺たちだろ」


「そうですね。心配はいりませんよね」


 朗らかに笑ったフユメはメイティから離れ、彼女の明るい未来を確信している。

 俺はさらにフユメを安心させようと胸を張った。


「しかも、これから真の英雄である俺がメイティを救うんだ。何の問題もないぞ」


「うん? 確かあのとき、ソラトさんは脱出ポッドなんか放っておけと言っていたような気がしますが」


 脳みそに浮かび上がる、あのときの俺の言葉。

 力強く発した、放っとけ、という言葉。

 いやいや、俺はそんなことは言っていない。


「き、記憶違いだろ」


「あんた、過去を改ざんする気? フユの記憶は正しいよ」


「…………」


 もう言い逃れはできないだろう。

 言い逃れができないのであれば、話を変えるまで。


 俺は脱出ポッドの扉を閉め、手元の操作パネルをタッチした。

 そして、今にも宇宙に飛び出そうとしている脱出ポッドを眺め、手を振る。


「メイティ、元気でな!」


 そう言った直後、脱出ポッドは宇宙へと放たれていった。


 窓の外をのぞくと、茶色と緑の惑星を背景に、暗闇を突き進み徐々に小さくなっていく脱出ポッドが見える。

 脱出ポッドの向かう先には、ハイパーウェイから抜け出したばかりの小さな輸送船が1隻。


 ここからではゴマ粒も同然の輸送船は、俺たちが乗る巡洋艦に船首を向けた。

 同時に巡洋艦から発艦する無人戦闘機の群れ。


 しかし輸送船は、数で圧倒する無人戦闘機などには目もくれず、レーザーに撃たれようとビクともしない。

 進行方向を180度回転させた輸送船は、ついに脱出ポッドを確保、ワームホールに突入し戦場から逃げ出す。

 なんとも懐かしい光景だ。


「あれが、俺たちとメイティの出会いか」


「これから過去のメイティちゃんは、勇者としての一歩を踏み出すんですね」


 過去の俺たちは、無事に過去のメイティを確保したのだ。

 あの瞬間、俺たちとメイティの旅がはじまったのだ。


 俺たちとメイティの出会いは、未来の俺たちがもたらしたもの。

 だが、メイティが魔法を覚え勇者として成長していったのは、すべて彼女自身の努力によるもの。

 過去の俺たちも未来の俺たちも、ただメイティの成長を見守ることに変わりはないのである。

次回 第4章4話『君には責任を取ってもらう』

ラグルエル「メイティちゃんの救出は完了したわ。だけど、クラサカ君たちが危機的状況にあるのは変わらないのよね。カーラックさんは怒り心頭なんだから」

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