第3章24話 お前の死を、堪能させてくれ!
振り返った俺たちの視界には、歪んだ笑顔を浮かべるあの男の姿があった。
「アハハ! 喜べ同志よ! ここに帝國軍が隠れているぞ!」
両腕を広げ、自分の存在を誇示するデイロン。
「お前、あそこにいるはずじゃ……」
あり得ない。
スコープの先、ドゥーリオの街にデイロンはいたはず。
彼は民間人を殺害し、理性の外側で笑っていたはず。
なぜデイロンが俺たちの背後に立っているのか。
俺の直感はひとつの答えを導き出す。
「まさか、過去の俺を殺しにタイムスリップした帝國軍って、お前が率いてたのか?」
「おや、おやおや、アハハ、これは驚いた! どうしてお前がそのことを知っているんだ?」
「お前らを追って、俺たちもタイムスリップしてきたんでな」
「過去に戻ってまで追ってきてくれたのか! これは嬉しいねェ」
「過去に戻ってまで俺を殺しにくるなんて、迷惑だ」
ストーカーとは恐ろしいものである。
それも、狂気に陥った人物となれば、こちらはため息をつくばかりだ。
できる限りの拒否感をあらわにし、俺はデイロンを突き放す。
だがデイロンは嬉しそうに頬を歪めた。
「なあ同志よ、ここはお前と出会った思い出の場所だ」
「ああ、最悪の思い出だ」
「最高だとは思わないか? はじめて出会ったこの地で、最後のお別れができるだなんて」
「そうだな。そのムカつくにやけ顔を葬り去るには最高のシチュエーションかもしれん」
「アハハ」
ダメだ。何を言うとデイロンは笑顔を浮かべる。
「同志よ! お前の力を見せてくれ! お前の死を、堪能させてくれ!」
そうデイロンが叫ぶと同時、複数の黒い影が空から降りてきた。
赤い目に黒い翼をはためかせる、『ステラー』には存在しないはずの生物。
「ガーゴイルです!」
ファンタジー世界の侵略とも言うべきか。
空から降りてきたガーゴイルの群れは、デイロンの指示に従い、俺たちを殺そうとこちらへ突撃してくる。
俺はすぐさま両腕を突き出し、土の壁を作り出した。さらには氷柱魔法を発動、可能な限りガーゴイルの進路を塞いでいく。
土の壁はガーゴイルの突破を許すも、氷柱魔法は数匹のガーゴイルを倒すことに成功した。
生き残ったガーゴイルたちは、風を切る氷柱を回避しようと低空飛行をはじめる。
今度はシェノの番だ。
ライフルを構えたシェノは、低空飛行するガーゴイルに向けてレーザーを連射した。
山頂の岩肌をかすめる無数のレーザーは標的に命中。
ところが、レーザーはガーゴイルの岩のような肌を撃ち抜くことができない。
「無駄に硬い」
舌打ちに悔しさを込め、それでも銃を撃ち続けるシェノ。
俺も氷柱魔法とマグマ魔法を放ち、空を舞うガーゴイルを倒し続ける。
正直、今の俺にとってガーゴイルは雑魚敵でしかない。
最初は不意打ちを食らったが、もはや戦況は俺たちに有利だ。
狭く小さな谷地に隠れた俺たちを倒すには、ガーゴイルたちも谷地に飛び込むしかない。
しかし谷地に飛び込んだガーゴイルは、射的の的のよう。
1匹ずつ確実に、俺はガーゴイルを地上に叩き落としていった。
まるでゲーム感覚。敵を倒しているうち、俺は重要な存在への注意を怠ってしまう。
「油断が過ぎるぞ。アハハ!」
響き渡る笑い声。
自分に危機が迫っている、と気づいたときには、俺の胸にはデイロンのナイフが突き刺さっていた。
痛みに意識は薄れ、視界は暗くなり、俺は死の世界へ。
だからどうしたというのか。
「お前こそ、油断が過ぎるんだよ!」
フユメに蘇生されたと同時、シェノの銃撃を避けるデイロンに土魔法をお見舞いする。
土魔法により作り出された土の槍は、デイロンの腹を貫通した。
「アハハ! それだ! それを見たかった! 何度も何度も死の瞬間を見せてくれるのは、お前だけだ!」
体に槍が貫通しているというに、なおも笑い続けるデイロン。
やはり、こいつはどうかしている。
幾度も死んだ俺からすれば、死を楽しむデイロンの感情が理解できない。
この男の望みが分からない。
いや、そんなことを考えている場合ではなさそうだ。
「ソラト、危ない!」
シェノの忠告により、1匹のガーゴイルが目と鼻の先にいることを知る。
これ以上、俺の死でデイロンを喜ばせる気はない。
俺は死を遠ざけるため、目と鼻の先にまで迫ったガーゴイルめがけてマグマ魔法を発動した。
振り払われる煮えたぎったマグマの柱。
ガーゴイルは回避が間に合わずマグマに両断され、左右に裂かれた体が地面に落ちる。
この隙にデイロンは俺たちから距離を取ってしまったが、問題はない。
まずは邪魔な小鳥たちの排除だ。
「フユメ! シェノ! 集まれ!」
俺の叫びを聞き、フユメとシェノはすぐさま俺の側へ。
同時に、俺とシェノがそれぞれに相手していたガーゴイルも合流、総攻撃を仕掛けてくる。
砲弾のように迫り来るガーゴイルの群れとはなんとも壮観だ。
彼らには、さらに壮観な景色を見せるとしよう。
「氷柱魔法!」
両手を天に掲げ、氷柱魔法を発動。
想像により創造された無数の氷柱が、大空から一斉に降り注いだ。
鋭く尖った氷の槍は、狙いを定めることもなく、無差別にガーゴイルの群れへと突撃していく。
俺は自分たちの身を守るため土魔法で天井を作るが、ガーゴイルたちにそれはない。
狭い谷地、俺たちへと一直線に進むガーゴイルたちは、無数の氷柱を避ける場所も余裕もないのだ。
土の天井が俺とフユメ、シェノの頭上に完成した直後、地獄が訪れた。
無数の氷柱はガーゴイルたちの体を貫き、彼らを地面に串刺しにしていく。
次々と地面に突き刺さった、ガーゴイルを貫通した氷柱たち。
阿鼻叫喚と冷ややかな風切り音、断続的に地面を伝わる鈍い響き。
俺たちを守る土の天井にも氷柱が突き刺さったか、青の血が滲む氷柱の先端が、俺とフユメの間に割り込んだ。
数百本の氷柱を使った攻撃は、わずか数秒の出来事である。
しかし、この数秒で、山頂に静寂が訪れた。
もはや空を飛ぶガーゴイルは存在しない。赤く目を輝かせるガーゴイルすら存在しない。山頂に存在するのは、死体となったガーゴイルのみだ。
氷柱が水となり消えていくと、残ったのは体に穴をあけたガーゴイルの群れ。
まさに死屍累々、ひどい光景である。
「デイロンが見当たりません。どこに行ったのでしょうか?」
俺とシェノの背中に隠れ、周囲を見渡したフユメの疑問。
確かに、デイロンの姿はどこにもない。死体もない。
「逃げたか隠れたか……まあ、体に土の槍が刺さった状態だったんだ。放っておいても、どうせ長くはないだろう」
「どうだろうね。ああいうヤツって、結構しぶといよ。だいたい、ドゥーリオの地下世界に放り投げても生きてたヤツだし」
「それもそうだな。じゃあ、やっぱり探し出して始末するべきか?」
二度と出会いたくないと願い、すでに何度も出会っているデイロン。
シェノの言う通り、あの男が簡単に死ぬとは思えない。
危険な男を野放しにするわけにはいかないだろう。
「とりあえず、デイロンを探してみよう」
ガーゴイルの死体を乗り越え、俺たちは狭く小規模な谷の外へ。
次回 第3章25話『あいつ、もうぶっ壊れてるね』
ラグルエル「ドゥーリオで起きていた、クラサカ君とデイロンのもうひとつの戦い。その決着は、果たしてどんなものかしら?」




