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第3章22話 わたくしたちに協力してはくれませんか?

 アイシアは腕を組み、人差し指を立て、おとぎ話でも口にするように語り出した。


「わたくしたちエルフィン族には、少し特別な歴史がありますのよ。数千年前の記録を探ると、実はエルフィン族は、最初から惑星サウスキアに暮らしていたわけではないと記述されているんですの」


 別段、驚くような話ではない。

 ここ『ステラー』で、新たな惑星に移住することは、別の国に移住するのと大差ない。


「ではエルフィン族はどこから来たのか? 記録にはこうありましたわ。曰く、我らは『パラミシ』と呼ばれる世界の住人であった。しかしあるとき、ラグルエルという名の女神に導かれ、我らは『ステラー』に〝転移〟し、はじめに降り立った地をサウスキアと名付けた、と」


 エルフィン族と神の出会い、そして異世界への移住。

 まさに神話、壮大な記録である。

 にもかかわらず、俺たちにとって非常に馴染み深い人物の名が登場した。


「今、ラグルエルって言ったよな」


「言いましたね」


「種族ごと別の世界に転移させることって、あるのか?」


「あります。一種族をまるごと他の世界に転移させることは、決して珍しいことではありません。オオサンショウウオとかもそうですよ」


「へ~」


 考えてみれば、『ステラー』はラグルエルが管理する世界だ。

 ラグルエルは『ステラー』の神に等しい存在だ。

 であれば、エルフィン族の神話に彼女の名が登場しても不思議ではない。


 あのサボり魔が神話の登場人物。なぜだか笑えてくる。


「どうやら『パラミシ』という世界は、魔王という存在に滅ぼされてしまったようですの。女神ラグルエルは、世界の崩壊からエルフィン族を救ってくれたようですわ」


 たまには仕事をするラグルエル。

 ひとつの世界が魔王に滅ぼされている時点で仕事に失敗しているような気がするが、そこは触れないでおこう。


「そして、エルフィン族に伝わる古い伝承に、救世主伝説というものがありますの。これは、魔王を倒すため異世界からやってきた、不思議な力を持つ救世主に関する話で、女神ラグルエルから伝えられたものらしいですわ」


 アイシアの話は、ついに俺の正体にたどり着いた。

 なんと、俺は神話に登場するような存在であったのだ。

 救世主としての威厳が坂を転がり落ちる昨今、アイシアの語った神話は、救世主の偉大さを思い起こさせてくれる。


 夢を取り戻した俺は、つい笑みをこぼしてしまった。

 その笑みが持つ意味をアイシアは理解したらしい。


「これ以上、説明は必要ですの?」


「いや、十分だ」


 俺はアイシアたちにとって神話の登場人物。

 神話が事実であったことを証明する存在。


「あなたは、ソラさんたちは、救世主伝説に登場する救世主で、間違いないですわね?」


 ラグルエルという名が出た時点で間違いない。

 俺もフユメも、アイシアの確認に対し首を縦に振る。

 するとアイシアは、クイズの答えを当てたかのように表情を明るくした。


「やっぱり! わたくしの見立ては正しかったですわ!」


 怖い顔したおじさん2人の間で、子供のように喜ぶアイシア。


 これは自分の見立てが正しかった喜びか、神話の登場人物である救世主に出会えた喜びか。

 救世主である俺としては、後者の喜びであってほしいところだ。


 ただ、勘違いされてしまっては困ることがある。


「ひとつだけ言っておくぞ。俺は『ステラー』の救世主じゃない。俺は別の世界の救世主だ。『ステラー』には魔法修行のためにやって来たんだ」


「あら? そうなると、どうして魔王の下僕である魔物がわたくしたちの世界に?」


「さあな、そこは分からん。ただ、メイティが勇者――救世主みたいなもんに選ばれてるから、この世界にも危機が訪れてるのは確かだろう」


「そうですの……」


 新たな疑問を抱いたか、アイシアは顎に手を当て考え事。

 ドレッドは俺たちを一瞥(いちべつ)し口を開いた。


「殿下、彼らを味方につけるのであれば、我々の目的を彼らに伝えるべきではないかと」


「分かっていますわ」


 フユメの説明が決定打となったか、アイシアは決意したようである。

 彼女はついに、世界の裏側で起こっている秘密を明かした。


「エクストリバー帝國に魔物が出現しましたの。同時に、私の祖父であるフセペが行方不明に、さらにはカムラ陛下に異変が起き、帝國軍のハオス提督と何かしらの協力関係を築いた可能性がありますの」


 そこまで言って大きく息を吸うアイシア。

 さらに彼女は、腰に両手を当て堂々と胸を張った。

 王家の威風と気高さが俺たちを覆っていく。


「わたくしたちは、この世界で起きようとしている危機に立ち向かうため、銀河連合の一部勢力やヒュージーンさんたちと協力し、うごめく影を秘密裏に追っていますの。世界を救うのがお仕事の皆さん、わたくしたちに協力してはくれませんか?」


 未来の俺たちが言っていたのは、これのことなのだろう。


 影を追う影。

 なんとも魅力的な話ではないか。

 救世主、真の英雄、伝説のマスター、哀愁ある主人公であるならず者にはぴったりだ。


 もちろん、俺の答えはとっくに決まっている。


「当然、協力してやるさ」


「一緒に世界を危機から救いましょう」


「まあ! 頼もしいことですの! ありがとうございますわ!」


 両手を合わせ満面の笑みを浮かべたアイシアは、どこかホッとした様子だ。

 ドレッドとヒュージーンも表情を緩め、喜ぶアイシアを娘か孫のように眺めている。


 とは言っても、話はまだ終わっていない。

 俺は無条件でアイシアに協力する気はない。


「ただし、お前らも俺たちに協力しろ。俺たちは俺たちで、魔法修行をしたり過去の自分たちを守ったりで忙しいからな」


「もちろんですわ」


 この程度の言葉は想定の範囲内だったか。

 では次の条件だ。


「あと、自分たちでできることは自分たちでやれ。いくら救世主や勇者でも、全知全能じゃないんだ。何でも神頼み(・・・)にするようなヤツらが世界を救えると思うなよ」


「それっぽいことを言ってますけど、単に面倒くさいことはやりたくないってだけじゃ――」


「フユメ、本当のことを口にしてはいけない」


 本音は隠すべきだ。

 面倒事は全てアイシアたちに押し付け、俺たちはコターツでくつろぐだけ、という狙いは決して表に出してはいけない。

 夢のニート生活を目前にボロを出してはいけないのである。


 まあ、それは良い。

 もうひとつ、大事なことをアイシアに伝えなければいけない。


「最後に、これだけは注意しろ。絶対に俺たちを裏切らないことだ。もし少しでも俺たちを裏切るようなことをすれば、世界を救う力でお前らを潰してやるからな。そうだろう、シェノ、メイティ!」


 俺の背後には鬼のシェノと勇者メイティがいる、はずだった。

 しかし俺の背後にいたのは、長話に飽きて居眠りするニミーとメイティ。そして、ニミーを抱っこしメイティに寄りかかられたシェノ。


「ちょこれーとぱわ~」


「……うみゃ~……」


「なんかプーリン食べたくなってきたかも」


 和やかである。

 見ているだけでも癒されるほどに和やかである。


「優しそうなシェノさんも良いですわ。ムフフ」


 妖しく笑うアイシアが何を考えているのかは知りたくない。

 ドレッドとヒュージーンは呆然とシェノたちを眺める。


 これは完全なる脅迫失敗。

 フユメは苦笑いを浮かべて俺に言う。


「脅迫だなんて慣れないこと、やるものじゃありませんね」


「だな」


「どうせなら、裏切るたびにサウスキア国民を数万人殺していくとか、そういうことを言うべきだったかもしれません」


「フユメ、容赦ないな。次からはお前が脅迫係をやってくれ」


「脅迫係ってなんですか!?」


 何やらツッコミを入れるフユメだが、知らん。

 きっとフユメなら、素晴らしい脅迫係になってくれるだろう。


 さて、俺たちはアイシアたちと協力し、世界に迫る闇と危機を追うことになった。

 それはつまり、ヤーウッドが俺たちの新たな居場所になったということ。

 デスプラネットの残骸から機密情報を奪う仕事を請け負った際、俺たちを援護してくれたあの軍艦が我が家になるとは、世の中どうなるか分からないものである。

次回 第3章23話『思い出すだけでも胸糞悪いな』

ラグルエル「過去の再現と過去のクラサカ君たちの護衛は、これからしばらく続くわ。というわけで、いざ懐かしのドゥーリオへ!」

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