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第3章19話 帝國の兵士が街をウロウロしてた

 今や見慣れたこの街のどこかで、過去の俺とフユメは右往左往しているのだろう。

 同じ時、同じ場所に、もう1人の自分がいるというのは不思議な感覚だ。


 汚なく散らかった街と、牽制し合う者たちの集団をかき分け、巨大な建物に到着すると、俺たちは周囲に耳を傾ける。

 ならず者たちは情報と噂話に飢えた連中だ。

 人混みに紛れているだけでも、何かしらの情報は耳に入る。


「おい、さっき、ボッズのとこの長男が殺されたらしい」


「ウソだろ!? 本当か?」


「さあな、ただの噂だ」


 この話題は、過去の俺たちには関係があるが、今の俺たちには関係なさそうだ。


「新型のSI24を見たか?」


「ああ、話だけなら聞いたことがある。微妙な出来らしいな」


 こちらはまったく関係のない話。無視しても構わない。


「良い情報がある。聞け」


「なに?」


「ベス・グループが、近々ボッズ・グループを襲撃するつもりらしい」


「バカ言え。あのボッズ・グループに誰が喧嘩を売るっての」


 数日後、シェノという少女と俺たちがボッズ・グループを壊滅させることは黙っておこう。


「今日はおとなしくしてた方が良さそう」


「何かあったっか?」


「帝國の揚陸艇と、どっかの国の軍艦が来てる」


 これだ。この情報は、なんとしても聞いておかなければ。


「しかも、帝國の兵士が街をウロウロしてた」


「なんで?」


「知らない。ともかく、今日は北の市場には行かない方が良いよ」


 まさしく俺たちが求めていた情報。

 つまり、帝國軍の兵士たちは北の市場にいるということだ。

 彼らが過去の俺たちを発見する前に、俺たちが彼らを排除しなくては。


 目的地が決定し、俺はフユメに話しかけようとする。

 だが一足早く、別の男がフユメに話しかけた。


「おいフユメ、建物探索は終わったのか?」


 ふと聞こえた男の声。


 名前を呼ばれたフユメは凍りついている。

 当然だ。フユメを呼び止めたのは、ベンチに座り魔物図鑑(・・・・)を手にする過去の俺だったのだから。


 幸い、俺は俺に見つかっていない。

 俺はそっぽを向き、過去の俺の視界に入らぬよう柱の裏へ。


「ソ、ソラトさん!?」


 過去の俺に見つかってしまったフユメは、声を裏返らせ数歩退く。

 その行動が、過去の俺に疑念を抱かせてしまった。


 もちろん、自分の正体を正直に口にするわけにはいかない。

 フユメは過去の俺から視線を外し、柱に隠れる俺を眺め、つぶやくように言った。


「いえ、実は……その……市場に行きましょう! 市場なら物の値段の相場も分かりますし、情報通がいるかもしれませんし」


「オッケー、そうしよう」


「あ! そうだ! ちょっと待っててください! 忘れ物しました!」


 ありがちな嘘、しかし効果的な嘘をつき、フユメは過去の俺の前から立ち去った。

 過去の俺が再び魔物図鑑に視線を落とすと、フユメは俺の側までやってきて、深く重いため息をつく。


 俺はそっと、フユメの震える肩に手を置いた。

 すると、フユメの目に涙が溢れる。

 おそらく彼女は、どんなお化け屋敷よりも恐ろしい体験に肝を冷やし、心臓が止まる思いだったのだろう。


「すごく、怖かったです……」


「心中お察しします」


「ううぅ……ううぅ……」


 さて、降って湧いた危機は脱した。

 今は北の市場に向かい、帝國軍兵士たちを始末するのが最優先だ。

 逃げるように巨大な建物を後にし、俺たちは北へ向かって歩く。


 布切れとガラクタ、敵意むき出しの目つき、空を飛び交う宇宙船、歩行者など気にせずスピードを出すフロートカーやスピーダー、鉄の匂いと混じる酸っぱい匂い。

 誰もがぶら下げる拳銃、前触れもなくはじまる大げんか、路地裏に転がる死体。


 いつ来てもこの街は最悪だ。

 よくもまあ、過去の俺たちはこの街を生き抜いたものである。

 シェノとニミー、エルデリアに出会っていなければ、路地裏に転がる死体の仲間になっていてもおかしくはなかっただろう。

 こればかりは、シェノたちに感謝である。


「帝國軍兵士、見当たりませんね」


「ああ。いたらいたで困るが、いなけりゃいないで不安になってくる。面倒だな」


 最悪のタイミングで現れるくせ、こちらから探しに向かうと姿を現さない帝國軍。

 まるでかくれんぼでもしているのかようだ。


 面倒事を早く終わらせるためにも、俺は血眼になって帝國軍を探す。

 結果、とんでもない人物を見つけてしまった。


 ガラクタとゴミにまみれた道で、俺たちとすれ違った一団。

 その一団の先頭を歩くのは、茶色いローブに全身を隠しながら、しかし尖った耳だけは隠さぬ1人の女性。

 すれ違いざま、その女性の、メイスレーンには似合わぬ気高い顔を見て、俺は思わず叫んでしまう。


「アイシア!?」


 サウスキア王国の王女(・・)であり、俺を帝國に売り渡した裏切り者。

 厳密に言えば、ここにいるアイシアはまだ裏切り者ではない。

 だが心には怒りが湧き上がり、俺は煮えたぎった言葉を吐き出した。


「お前! よくも俺にウソをつきやがったな! お前も父親も、帝國の仲間なのか!? どうなんだ!?」


「あなたは……」


「ちょっと、ソラトさん! 落ち着いてください! アイシアさんは敵じゃないって、未来の私たちが言っていたじゃないですか! アイシアさんに協力しろとも!」


「そうは言ったって、どうにも信用ならないんだよ、こいつは!」


「気持ちは分かりますが、今は帝國軍の兵士を探さないといけません! アイシアさんを敵に回すのは、得策ではありませんよ!」


 早口でまくしたてながらも、その内容は冷静なフユメ。

 俺もじっとこらえ深呼吸。


 わずかな沈黙が俺の冷静さを引き出すと、怒りはしばし心の奥底へ。

 おかげで俺は、アイシアの周りにいた者たちから銃口を向けられていることに気がついた。

 やはり怒りで行動を選択するのは良くない。


 救いだったのは、アイシアが俺の怒りの言葉に興味を持ってくれたことだろう。


「あなたが何を言っているのか、わたくしにはさっぱり分かりませんわ。ただ、カムラ陛下と帝國のつながりを指摘したことは、興味深いですの。帝國軍の兵士を探していることも」


 ローブの奥で妖しく笑ったアイシア。

 相も変わらず腹の底が読めないヤツだ。

 まるで作り物の感情を浮かべた人形と話をしている気分である。


「これも何かの縁ですの。少し話を――」


 兵士たちの銃口を遮るように、アイシアは一歩前に出た。

 だが、彼女の言葉はそこで遮られてしまう。


「いたぞ! 魔術師だ!」


「撃て!」


 探し求めていた集団に、俺たちの方が見つかってしまったらしい。

 ゴミのような街で、自分たちの存在を声高に主張するかのごとく厳粛な軍服に身を包んだ帝國軍兵士たちの登場だ。


 彼らは俺を過去の俺と勘違いしているのか、勝利に酔いしれた表情をしてライフルをこちらに向けている。


 実際、彼らは短い勝利を手にした。

 アイシアに気を取られていた俺は帝國軍兵士たちに対処できない。

 帝國軍兵士たちが撃ち放ったレーザーは、見事に俺の頭や胸を貫いた。


 俺の意識は吹き飛び死の世界へ。

 だからなんだというのか。

 数秒後には、俺はフユメの蘇生魔法によって息を吹き返す。


「ありがとうフユメ」


「いえいえ。それよりも、アイシアさんを救わないと!」


「気が進まないが……まあ仕方ないな」


 俺が死んでいたわずかな時間、アイシアが従える兵士たちと帝國軍兵士たちは銃撃戦を開始していた。


 赤と青のレーザーが飛び交う北の市場。

 殺意の応酬がボロ屋の壁に焦げ跡を作り、ガラスを砕き、ガラクタに穴を開ける。


 街行く者たちは戦場を逃げ出すが、ならず者たちにとって銃撃戦は大好物。

 少なくないならず者たちが、楽しげに銃撃戦を見物していた。

 誰かが死ぬたび――流れ弾に当たり死んだ者にでさえ――歓声が上がる戦場とは、なかなかに堕落した光景である。

次回 第3章20話『帝國軍兵士を片付けるぞ!』

ラグルエル「エルイークでの銃撃戦。こういう場所にシェノちゃんが現れたらどうなるかは、分かるわよね」

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