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第3章13話 未来の俺たち……

 下の階の床に叩きつけられ、尻の痛みに耐えながら、俺はすぐさま立ち上がり叫ぶ。


「逃げるぞ!」


「逃げると言っても、どこにですか!? どこへですか!?」


「勘に従うんだ!」


「ええ!?」


 ぐだぐだ言っている暇はない。

 俺はフユメの手を取り、勘に従い、全速力で廊下を駆ける。

 とにかく今は、追っ手が来る前に姿をくらませることが最優先だ。


 しばらく廊下を走っていると、突如として明かりが消え、廊下は暗闇に包まれる。


「電気が消えました! 何があったのでしょう……」


 思わず足を止め、暗闇を見渡す俺とフユメ。

 直後、フユメの持つ無線機から聞き慣れた声が飛び出してきた。


《ソラトおにいちゃん! フユメおねえちゃん!》


《おーい! 聞こえてる?》


「シェノとニミー!? どうしてお前らがここに!?」


《あとで説明する。とりあえず、右の壁を壊して》


「は?」


《いいから、早く壊して》


 意味の分からぬ事態には慣れている。

 俺はシェノに言われた通り、右側にあった壁をマグマ魔法で破壊した。


 破壊された壁の向こう側にいたのは、ホバリングするグラットン。

 グラットンのハッチは開かれ、メイティがこちらに手を振り、土魔法でグラットンのハッチまでの橋を造ってくれる。


 橋を渡りグラットンに乗り込むと、俺たちはメイティに連れられ操縦室へ。


「おお~! ソラトおにいちゃんとフユメおねえちゃん、げんきそー!」


「助かったぞ、シェノ」


「シェノさんは命の恩人です。ありがとうございます」


「礼なら言葉じゃなく仕事で返してよ。それより、現状を説明するから聞いて」


 グラットンを加速させ、操縦桿を握りながら、シェノは淡々と口を動かす。


「まず、アイシアとヤーウッドは敵じゃない。あんたらを帝國に引き渡したのは、ある作戦を実行中だから」


「ある作戦? どんな作戦だ?」


「これからはじめる作戦」


「……ちょっと待て。実行中の作戦を、これからはじめるのか? 意味が分からん」


「それはあたしもいまいち分かってない」


 また意味の分からぬことが増えてしまった。

 ただ、今回はシェノが俺たちに答えを与えてくれる。


「帝國はオペレーション・トラウトとかいう作戦をはじめてる。これは、完成したばかりのタイムマシンを使って帝國軍の兵士たちを過去に送り、まだ強くなる前のあんたを殺す作戦」


「過去の俺を殺す……つまりはあの映画みたいな展開か」


 ダダンダンダダン、と某映画のテーマ曲が頭の中で流れた。


 いや、そんなのんきなことをしている場合ではない。

 帝國――魔王軍と言った方が正しいか――は随分と大胆な作戦に打って出たものだ。

 何より、タイムマシンを現実のものとした帝國軍に驚きである。


「あたしたちはそれを阻止する。そのために、あたしたちもタイムマシンを使って過去にさかのぼる。それが、アイシアと未来のあたしたちが実行中の作戦ってこと」


「未来の俺たち……」


 異世界の境界線を飛び越すだけでなく、時間まで飛び越すことになるとは想定外だ。

 いまだタイムマシンに関しては半信半疑の俺ではあるが、こうなれば流れに身を任せるしかないだろう。


 シェノの説明が終わると同時、窓の外に宇宙空間が広がった。

 眼下にあるのは月とも思えるほどに巨大かつ壮大な、わずかな光も見当たらぬ暗い宇宙ステーション。

 ここではじめて、デスティネイションが宇宙ステーションであることを知った俺。


 歪な円環状のデスティネイションからは、こちらもまた円環状の建造物が飛び出している。

 指輪のようなそれは、青白く輝いた光の幕を作り出していた。

 きっと、あれがタイムマシンなのだろう。


 シェノはグラットンの針路を光の幕に向けた。


「帝國の無人戦闘機です!」


 操縦席の後ろからモニターを覗き込んでいたフユメの報告。

 彼女の言う通り、デスティネイションの格納庫からおびただしい数の無人戦闘機が発進し、こちらへ迫ってきている。


 まるでイナゴの大群。孤立無援の俺たちは、果たして無感情な殺意から逃げ切ることができるのか、などという心配をする必要はなさそうだ。

 無人戦闘機の群れの背後に、1隻の乱雑な艦影をした軍艦が出現、無人戦闘機に対する猛攻撃を開始したのである。

 あの軍艦は、間違いなくヤーウッド。


《こっちは私たちに任せてください! 皆さんは、急いでタイムマシンに!》


 グラットンの無線機から聞こえてきたのはフユメの声。

 ところが、俺の隣にいるフユメは一言も発していないし、無線機から聞こえてきた声に首をかしげている。

 続けて無線機から聞こえてきたのは男の声(・・・)だ。


《あーあー、未来のお前から過去のお前に伝言だ。過去に戻ったら、自分を守るのと同時に、過去の自分の足跡を追え。まずはラグルエルに会って、俺を救世主として転移させるんだ。それと、アイシアに協力してやれ。絶対に過去を変えるなよ》


 どこかで聞いたことのある口調。

 彼の言葉を聞く限り、声の主は身近な人物。


「お前は……」


《ま、真の英雄である俺がここにいる時点で、お前はうまくやったってことだ。あんまり気負いすぎず、テキトーにやれ》


 これは俺の言葉。未来の俺の言葉だ。

 自分に話しかけられるとは不思議な気分である。

 良いだろう。俺は俺の言う通りにしよう。


「……帝國軍、4隻の揚陸艇、過去に送った……もう、タイムマシン、起動終了する……」


 メイティの指摘は正しい。

 青白い光の幕は、この数秒間で急速に輝きを失っていた。


「クソ! 急げシェノ!」


「言われなくても全速力で飛んでる!」


 とはいえ、光の幕はまだ遠い。

 このままではタイムマシンの起動終了に間に合いそうにない。


 何かグラットンを今以上に加速させる方法はないか。

 どうやらシェノの頭の中には、タイムマシンの起動終了までに間に合わせる方法があるらしい。


「ああ……もう!」


 破れかぶれという単語が最も似合う叫びと同時、シェノは操縦席側面に配置されたスイッチを押した。


 そのスイッチがグラットンをどう動かしたのか、俺には分からない。

 ただ、スイッチを押した直後、グラットンが発射された砲弾のごとく加速したのだけは確かだ。

 窓の外に広がる風景は一瞬で青白く輝き、グラットンは光の幕に突入する。

次回 第3章14話『まずは『プリムス』に行って、俺を転移させないとな』

ラグルエル「タイムスリップを終え、過去にやってきたクラサカ君たち。みんなは過去を再現するため、過去の私のところに来てくれるみたい」

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