第3章12話 血迷ったか!?
ハオスや総督の腹の底は見えないが、皇帝はまっすぐと、俺に助けを求めている。
ゆえに、俺もまっすぐと皇帝の言葉に答えた。
「正義の戦い、か。確かに、この世界における人間への蔑視はひどいからな。お前ら帝國が怒り狂うのも理解できる」
「そうであろう。ならば魔術師、君も――」
「けどな、怒りと憎しみで数億の命を奪った行為を、正義なんて言葉で綺麗に飾り付けるのが気に入らない。どうしても俺を味方につけたいなら、本音を言え」
少し挑発的な俺の言葉に総督は顔を歪めるが、皇帝は深呼吸し、一言一言をはっきりと口にした。
「予の本音は決まりきっておる。父の掲げた『人類支配論』を成就させ、正しき秩序を打ち立てる。そして全ての人間が平等に、この世界を統治する。そのためならば皆、喜んで命を捧げよう。罪ある者たちは罰せられよう。予は理想を求める。それが予の本音だ」
「なるほど」
皇帝の心に悪意はないようだ。
皇帝は善意から、戦争を仕掛け命を奪っているのだ。
最もタチの悪い本音である。
「俺はお前らに味方しない。お前らの自己満足に付き合ってやるほど、俺は暇じゃないんだ」
帝國の使命とやら、皇帝の理想とやらを、俺は拒絶する。
当然、ハオスは怒りと呆れた気持ちを俺にぶつけた。
「愚かな。なんと愚かな。同じ人間が、我らの崇高な使命を理解できぬとはな」
しかし、皇帝と総督の反応はハオスとは対照的。
「皇帝陛下、私たちの命運は尽きました。魔術師が敵に回れば、我らに勝利はありません」
「うむ、リーの言う通りだ。リー、サウスキアのカムラに伝えよ。予は銀河連合との停戦を受け入れよう」
「承知しました」
さすがに自分の理想が現実と乖離していることを、皇帝も総督も理解していたのだろう。
最初から勝ち目のない戦に、皇帝は終止符を打とうとしている。
それに対し、瞳から光が消えたハオスは、つぶやくように言った。
「陛下、勝利を諦めるおつもりですか?」
失望感に沈んだハオス。
皇帝は正直な言葉をハオスに返す。
「仕方無かろう。帝國が滅んでしまえば、元も子もない」
「停戦は我らの崇高な精神を捨てるも同じ。それでは、帝國は滅んだも同然」
「予には20億の民の生活を守る義務があるのだ。分かってくれ、ハオス」
「分かりません。オペレーション・トラウトはどうするおつもりで?」
「中止だ。そもそも成功するかどうかも分からぬ作戦に、帝國の未来を預けられん」
「陛下は臆病風に吹かれましたかな? それとも、総督の操り人形にでもなったのでしょうか?」
もはや皇帝を皇帝とも思っていないかのように、ハオスは嘲笑する。
そのあまりに礼を失したハオスの態度に、皇帝は唖然としていた。
総督は怒りを爆発させる。
「提督! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「分かっておりますとも。リー総督閣下は、俺が反逆行為に手を染めていると言いたいのでしょう」
「その通りだ! 進歩派め、ついに尻尾を出したな!」
「勘違いしないでいただきたい。帝國に対し反逆行為を働いているのは、銀河連合と停戦し帝國を滅ぼそうとしているリー総督閣下と、そしてツヴァイク陛下、あなたです」
「血迷ったか!? デイロンよ、ハオスを捕らえろ!」
だがデイロンは笑うだけ。
「アハハ、これは困った。ああ、困った困った」
「何をしている!? 早くハオスを捕らえろと命令しているのだ!」
玉座の間に総督の怒鳴り声が響くも、やはりデイロンは動かない。
それどころか、1人の衛兵も総督の命令に従おうとしない。
「デイロンよ、銃を」
ふとそう言ったハオスに、デイロンは軽い調子で拳銃を手渡す。
拳銃を受け取ったハオスはおもむろに銃を構え、躊躇なく引き金にかけた指を動かした。
玉座の間を突き抜ける1発の赤いレーザーは、皇帝の眉間を貫き大窓にヒビを入れる。
脳を焼き切られた皇帝は力なく玉座から崩れ落ちた。
「なんと……なんということを!」
「頭の固い保守派勢力に支配され操り人形と化し、戦争を投げ捨てる皇帝など、あの方の理想には必要ない。リー、お前も皇帝と同じく死ね」
「……皇帝陛下、すぐに陛下のもとへ殉じまする」
エクストリバー帝國皇帝の死と同時、生きる目的を失った総督。
彼はデイロンら兵士たちが持つライフルに蜂の巣にされ、穴だらけの体が床に倒れた。
わずかな時間、俺の目の前で、エクストリバー帝國の皇帝と総督がハオスらに殺されたのである。
「お前、マジか」
混乱する脳みそが生み出した俺の感想は、たったそれだけ。
フユメは唖然とし口をぽかんとさせているが、おそらく俺も同じ表情をしているのだろう。
皇帝と総督を殺害したデイロンは、俺の顔を見て笑った。
「理解できぬという顔だな、『ムーヴ』の救世主よ」
「お前、今俺のこと……」
「ど、どうしてあなたが……」
「魔王様の邪魔をする者の顔、知らぬはずがなかろう」
「まさか、お前――」
そんなことはあり得ないと思いたい。
だが、帝國軍にはオークやガーゴイル、ミノタウロスの姿があった。
奴らは皆『プリムス』を襲う魔王の部下たち。
ならばハオスが奴らと同じ存在であっても、おかしくはない。
「俺は魔王様に仕える魔族の1人、ハオスだ。今は人間なぞの体を借り、ちゃちな帝國の幹部なぞを務めているが、これも全て魔王様のご意思に従ったまで」
もう俺の脳みそはパンク寸前である。
どうして俺はアイシアらに裏切られたのか? どうしてハオスは皇帝と総督を殺したのか? そもそも、どうして魔族の一員が『ステラー』にいるのか?
何ひとつとして答えが分からない。
ハオスも俺に答えを与える気はない。
「詳しいことを教えてやるほど、俺は寛大ではない。デイロン、2人を殺せ。殺し方は自由にしろ」
「アハハ、やはりハオス陛下は素晴らしい。楽しい任務を与えてくださって、感謝いたしますよ」
歪んだ笑顔が俺とフユメの命を狙う。
俺は、こんな場所で殺される気はさらさらない。
「フユメ、舌を噛むなよ」
「は、はい。でも、どうしてそんなことを?」
「こうするからだ」
マグマ魔法を発動し、床を円状に溶かす。
溶かされた床は崩れ落ち、俺たちは玉座の間から脱出した。
次回 第3章13話『未来の俺たち……』
ラグルエル「突然の皇帝の死。ハオス自身の口から語られるハオスの正体。信じられない出来事が次々と起こるけど、その最もたるものは、未来人からのメッセージかもね」




