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第3章11話 予は、君たちが帝國に味方してくれることを願っている

 窓のない船内。

 視界に映るのは、数多の銃口と兵士たちの疑念に満ちた表情。


「こいつらが魔術師だなんて、冗談だろ」


「ニンゲンのガキ2人を護送とか、近衛隊のすることじゃないよな」


「お前たち、陛下の命令に不満があるのか?」


「いえ! そんなことはありません! ですが――」


「何か言いたいことでも?」


「なぜ帝國の本拠地、デスティネイションに向かう必要があるのでしょうか……」


「銀河連合と帝國の停戦条約のためだ」


「では、魔術師を連れていく理由は?」


「陛下のお考えだ。お前らは黙って命令に従っていれば良い」


「――了解しました」


 サウスキアの兵士たちも、現在の状況を理解しきっているわけではないらしい。

 カムラやアイシアの思惑を引きずり出すのは、まだまだ先になりそうだ。


 連行されてから数時間。

 細かい振動が俺たちの体に伝わり、宇宙船のエンジンが停止した。

 俺たちを乗せた宇宙船はどこかに着陸したようである。 


 先ほどの兵士の言葉を思い返せば、宇宙船が着陸したのは帝國の本拠地『デスティネイション』という場所だろうか。


「降りろ」


 平手打ちでもするかのようなトゲトゲしい兵士の命令。

 彼に従い、手錠をかけられたまま宇宙船を降りると、俺は苦笑いを浮かべてしまった。


 宇宙船を出て最初に目に飛び込んだのは、ずらりと並ぶ黒の無人戦闘機。

 続けて辺りを見渡すと、整備中のため内部をむき出しにし、数え切れぬ管をぶら下げた巨大な軍艦が目に入る。

 どれも敵として見たものばかり。


「あれ、帝國の巡洋艦だよな」


「帝國の巡洋艦ですね」


「ここ、サウスキアの兵士の言う通り、帝國の本拠地だよな」


「帝國の本拠地ですね」


「とんでもない場所に連行しやがって……」


 苦笑いに加えて大きなため息が漏れてしまった。

 どこもかしこも敵。俺たちはまさしく、敵地のど真ん中に立たされている。


 これ以上に悪いことは起きるのだろうか?


 起きるのである。

 俺たちの前に、黒のマントを身につけた初老の男と、胸糞悪い笑顔を浮かべたあの男が現れたのだ。


「こうしてお前らと直接に顔を合わせるのは今日がはじめてか。俺はエクストリバー帝國軍提督のハオスだ」


「お前が……ハオス……」


「アハハ、デスプラネット以来の再会だな。これは運命か?」


「お前とはさっき顔を合わせたばかりだろ、デイロン」


「そうだったか? それにしても嬉しいなァ、再会した途端に笑顔を浮かべてくれるなんて」


「笑顔? 勘違いするな。顔が引きつってるだけだ」


 なぜ二度と会いたくない人物と、1日に2度も会わなければならないのだろう。

 まるで泥沼に引きずり込まれているような感覚である。


「皇帝陛下がお前らをお呼びだ。ついてこい」


 マントをはためかせ、どこかへと歩き出すハオス。

 帝國軍兵士たちとデイロンに銃を向けられた俺とフユメは、ハオスについていく他に選択肢を持たない。


 俺たちはハオスとともに小さな乗り物に乗せられ、デスティネイションの奥へと連れていかれた。


 乗り物の中で、俺は暇を持て余し窓の外を眺める。


 帝國の本拠地『デスティネイション』は、一言で表現すれば巨大な集合住宅だ。

 何層にも重なった建築物は高層ビルとなり、大勢の人間がそこに詰め込まれている。


 まさしく世界の端っこ追いやられた人々が頼る最後の砦。

 帝國の闇は『ステラー』の闇そのものだと、俺は思わずにいられなかった。


 窓の外を眺めること数十分。

 動きを止めた乗り物から降ろされ、俺たちは赤い絨毯が敷かれた大廊下を進み、重厚な扉をくぐる。


 扉の向こうに広がっていたのは、帝國の旗が垂れ下がる、黒と灰色の空間であった。

 空間の壁は宇宙空間を眺められる大窓となっており、その大窓の前に、シンプルなデザインの玉座が置かれている。


 玉座に座るのは、まだ30代と思わしき平凡な雰囲気の1人の男。

 そんな男に対しハオスはひざまずいた。


「陛下、魔術師をお連れしました」


 ハオスの態度と言葉から、玉座に座るのが帝國の皇帝であるのは明白。

 想像していた人物とは正反対に、覇気のない皇帝を前にして、俺は肩透かしを食らった気分だ。

 皇帝のすぐ側に立つ老人の男の方が、よっぽど皇帝らしい。


 そのよっぽど皇帝らしい老人の男が、ハオスを見下し口を開いた。


「ご苦労であった、提督。皇帝陛下に代わって、総督であるこの私が提督への感謝を示そう」


 尊大な態度を隠そうともしない総督。

 対してハオスは立ち上がり、敵愾心(てきがいしん)をむき出しにする。


「お言葉ながら、俺は魔術師の連行を陛下(・・)にお伝えしたのです。リー総督閣下にお伝えした覚えはない。どうしてリー総督閣下がお応えになるのか、理解できませんな」


「軍部の言葉は総督である私が陛下にお伝えする。これが栄えある帝國の掟だ。提督は掟に背く気かね?」


「何を世迷言を。我ら帝國は全てにおいて陛下の御意志が優越する。魔術師を捕らえろという命令は、陛下直々のご命令。リー総督閣下が口を挟んで良い案件ではありません」


「うぬぼれもそこまでくると見苦しいぞ。これだから進歩派の連中は……」


 俺たちのことなど眼中になく、さらには皇帝すらも忘れて言い争うハオスと総督の2人。

 帝國の内部闘争を見せつけられ、俺もフユメも困惑中だ。

 どうやら皇帝も困惑していたらしい。


「2人とも、それは予の前でしなければならぬ話か? 言い争いはもう良い」


「これは皇帝陛下、お見苦しい姿を晒してしまい、申し訳ございませんでした」


「陛下、我が忠誠心は常に陛下のお側に」


 覇気がなくとも皇帝の権威は十分。

 あのハオスと総督も、おとなしく黙り込んでしまった。


 さて、これでようやく本題のはじまりである。

 皇帝は俺たちをじっと見つめ、少しだけ玉座から体を乗り出した。


「それで、君たちが魔術師のクラサカ=ソラトと、その補佐であるコイガクボ=フユメか」


 敵対する相手とはいえ、これは皇帝の言葉だ。

 あまり失礼なことも言えず、俺とフユメは黙って首を縦に振った。


 すると皇帝は表情を明るくし、続ける。


「君たちと予は同じ人間だ。ならば分かるはず。人間は劣等種と蔑まれ、下等生物にも等しい扱いを受けている。この宇宙を生きていて、君たちもひどく差別されただろう」


 そう言う皇帝の表情は、声色は、戦争で数億の命を奪った者のそれではない。

 彼の胸には、間違いなく善意が燃えている。


「本来ならば全宇宙を支配すべき人間が、不当にも虐げられているのだ。予はこの不条理を打破しようと戦争を決意した。だが、帝國は危機にある。このままでは、帝國は銀河連合に敗北し、20億の民たちが、劣等種と呼ばれ弾圧されてしまう」


 わずかに震える声。


「予は、君たちが帝國に味方してくれることを願っている。予は、君たちが正義を執行してくれると信じている。魔術師クラサカ=ソラト、どうか帝國の正義の戦いを支えてくれぬか?」


 これは嘘ではないと、俺でも分かる。

 きっと皇帝は、本気で俺たちのことを信じているのだ。

次回 第3章12話『血迷ったか!?』

ラグルエル「皇帝からのお誘いに、クラサカ君はどんな言葉を返すのかしらね? ただ、クラサカ君たちが思っている以上に、事態は最悪の方向へと動き出すわ」

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