表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/182

第3章9話 着艦完了! ようこそ、ヤーウッドへ!

 惑星サウスキア。

 そこはまるでファンタジー世界であった。


 グラットンから見えたのは、雪をかぶった雄大な山脈、豊かな深緑が風にそよぐ森林、動物たちがくつろぐ平原、それらを突き抜け繋げる澄んだ大河。


 自然が織りなす調和に溶け込んだ石造りの建物たちは、エルフィン族の住処である。

 中世の雰囲気と宇宙時代の建物が並んだ街は、美術館に飾られた絵画のようだ。


 もし『ステラー』で最初に訪れた惑星がサウスキアであれば、俺は間違いなくこの惑星に定住していただろう。

 それほどまでに、空から眺めるサウスキアの景色は美しい。


 ただし、俺たちが向かう先は、残念ながら美しい景色の中ではない。

 俺たちが向かう先は、ファンタジー世界ではなく、れっきとした宇宙世界。


《データ受信、完了! 識別信号、確認、問題なし! データ転送、完了! ヤーウッドへの着艦を許可します! 自動操縦に切り替えてください!》


 機械的でありながら、活力に溢れた口調の女性がグラットンに指示を出す。

 シェノは指示に従いモニターを操作、自動操縦に切り替え、操縦桿から手を離した。


 グラットンの正面に見えるのは、1隻の巨大な軍艦――ヤーウッド。

 改装に改装を重ねたのだろう。ドミノを積み上げたような艦橋、艦体から突き出す大小さまざまなアンテナ類、短・中距離用の砲によって、ヤーウッドの艦影は雑然としている。

 そんなヤーウッドの、まるでクジラが大口を開けているかのような格納庫入り口に、グラットンは向かっていた。


《着艦完了! ようこそ、ヤーウッドへ!》


 自動操縦のおかげで、スムーズにヤーウッド格納庫内に降り立ったグラットン。

 客室から操縦室にやってきたアイシアは、俺たちをグラットンの外に連れ出した。


 大きな擦り傷が目立つ、布をかぶった数隻の宇宙船だけが置かれた格納庫では、アイシアが両腕を広げ言う。


「さあ! 我が家を紹介しますわ!」


「我が家?」


「わたくし、家庭の事情で、ここ数ヶ月はヤーウッドに住んでいますの」


「そのお嬢様な格好で軍艦に? お前の家庭はどんな家庭だ?」


「恐ろしく居心地の悪い家庭ですわ」


 笑顔が消え、そう吐き捨てたアイシア。

 家族と何かあったのだろうかと、俺とフユメは顔を合わせてしまう。


 対してシェノは、アイシアに同情したような表情を浮かべていた。


 メイティは、おもむろにアイシアの手を握る。


「フフ、わたくしったら、皆様に不要な心配をかけさせてしまったようですわね。わたくしの家庭のことは気にする必要ありませんわ」


 アイシアの無理矢理な笑みが、俺たちをさらに心配させる。


 だが、他所様の家庭の事情に首を突っ込むのは避けるべきだ。

 何より、この話はすぐに吹き飛ばされてしまう。


「おお~! すごいすごい! アイシアおねえちゃんのおうち、ひろ~い!」


 目を輝かせ辺りをキョロキョロとするニミーの声。

 彼女のあまりの無邪気さに、俺たちの心配も、アイシアの重荷(・・)も消え失せた。


「まあ! ニミーちゃんはわたくしのお家が、気になりますの?」


「きになる~!」


「でしたら、ヤーウッドを冒険してもよろしいですわよ」


「ほんと? やった~! おねえちゃん、アイシアおねえちゃんのおうち、ぼうけんするよ~! いこいこ~!」


「え!? ちょ、ちょっと待って! こら! 走らない!」


 ワクワクを胸に走りだすニミーと、彼女を追いかけるシェノの2人。

 ハル姉妹はヤーウッドの冒険に旅立ってしまった。

 残された俺とフユメ、メイティは、アイシアの話に耳を傾ける。


「そろそろ、ドレッド艦長がやってくる頃合いですわね。ドレッド艦長は気さくな方ですから、あまり緊張しなくとも大丈夫ですわよ」


「あ、緊張してるのバレてたんだ」


「バレバレですわ。そうですわよね、フユメさん、メイティさん」


「はい。ソラトさんは緊張すると目の下に力が入りますからね、分かりやすいです」


「……落ち着いて……」


「おいおい、そういうお前らだって、ちょっと緊張してるだろ」


「いえ、緊張なんかしてません――とは言い切れないですね。どうにも、軍人さんと会うときは緊張します」


「……わたしも……」


 素直な2人だ。


 成り行きとはいえ、俺たちはならず者の一員である。

 治安を乱し違法な手段に訴えることも少なくない俺たちにとって、軍人は敵にもなり得る存在なのだ。


 だからこそ、軍人を相手するときは緊張してしまう。

 シェノがいないとなればなおさらだ。


「殿下、お待たせしました」


「まあ! ようやく来ましたわね、ドレッド。今さら(・・・)かもしれませんけど、魔術師さんたちに自己紹介を」


「かしこまりました」


 複数の部下を従え俺たちの前に現れた、軍服が似合う1人の男。

 白髪に深いシワを刻んだその老人は、しかし背筋を伸ばし、眼光鋭く俺たちを見据える。


「私はサウスキア王立近衛艦隊旗艦ヤーウッドの艦長、ジェイムズ=ドレッドだ。会えて嬉しいよ、魔術師の御一行」


 低い声による短い自己紹介を終えたドレッドは、可笑しそうに笑っていた。

 彼の隣に立つアイシアもまた、可笑しそうに笑っている。


 俺たちはどう言葉を返そうか悩んでしまう。

 悩んでいる間、ドレッドが先手を打った。


「そこまで緊張するほど、私が怖いかね?」


「い、いえ! そんなことはないです!」


「私の顔は昔から、人を怖がらせてしまうようだ。すまんな」


 やはりどう言葉を返せば良いか分からない。

 ドレッドが(まと)う歴戦の勇士の雰囲気に、フユメまでもが圧倒されてしまっているのだ。


 そういえばドレッドは、人間ではなくサバリクレイ人だとアイシアは言っていた。

 信じられない。サバリクレイ人は、驚くほど人間そっくりである。

次回 第3章10話『魔術師は世界を破壊しかねぬ存在』

ラグルエル「不穏ね。ヤーウッドで待っていたのは、サウスキア王国のトップたち。そして、クラサカ君たちの敵だったわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ