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第2章26話 あんたが世界を救う? 冗談でしょ

 マリーが去っていったことに安心する俺。

 フユメは辺りを見渡し、現状を把握することに努めた。


「他に魔物の姿は見えませんね。魔族四天王が倒されて、みんな逃げ出したのでしょうか?」


「……敵意、感じない……」


 冷静かつ慎重に戦場を分析するフユメの言葉。

 そして、魔力と直感から戦場を眺めたメイティの言葉。

 彼女らの言葉から、俺はひとつの答えを導き出す。


「魔物が逃げ出したとなると、今回の任務はこれで終わりか」


「そろそろマスターがお迎えに来る頃ですかね」


「いや、ラグルエルはニミーのお世話をしてる最中だろ」


「あ、そうでした。となると――」


 俺たちの頭に思い浮かんだのは、眉間にシワを寄せる唐変木の男の顔。

 その顔が、俺たちの背後に現れた。


「まったく……他の世界の勇者を連れ込むとは、あの女は何を考えている!?」


 開口一番に不満と怒りを吐き出したコンストニオの登場に、俺は残念な気持ち。

 メイティに至っては、彼に対する警戒心を隠そうとしない。


「……この人、敵意、感じる……」


「大丈夫だ。コンストニオさんは誰にでも敵意をむき出しにしてるタイプだからな」


「ソラトさんの言う通りです。あの厳しい表情も、普段の表情ですよ」


「我らプリムス人が与えた力で調子づきおって……あの女、なぜこんな紛い物たちを救世主や補佐、勇者に選んだのだ……理解できん!」


 ますます表情を厳しくしたコンストニオ。

 俺たちに向けられた彼の視線には、『ステラー』で見慣れた侮蔑の感情が込められている。


 どうしてコンストニオは、そこまで俺たちを嫌うのだろう。

 フユメやラグルエルを見ているだけでは分からぬ『プリムス』の特殊な事情があるのだろうか。


 何にせよ、俺たちにとってもコンストニオにとっても、早くお別れするのが良さそうだ。


「コンストニオさん、『ステラー』への転移をお願いします」


「お前らに指図されなくとも分かっている」


 お役所仕事と割り切ったか、コンストニオは淡々と転移の準備をはじめた。


 氷、マグマ、溶岩石にまみれた地面。そこに敷かれた、幾何学模様付きの紙。

 さっさと紙に乗れ、と言わんばかりのコンストニオに従い、俺たちは紙の上に立つ。

 紙の上に立った俺たちが強い光に包まれるのに、それほど時間はかからなかった。


    *


 光が収まると、そこには小首をかしげたニミーの姿が。


「あれ? おねえさん、どこいっちゃったの? あ! フユメおねえちゃんたちだ~!」


 グラットンの前、沼地でミードンを抱えたニミー。

 彼女は俺たちを見つけるなり、朝の小鳥のように喋りはじめた。


「あのねあのね! ラグおねえさんがね、フユメおねえちゃんとソラトおにいちゃんのせかいのこと、おしえてくれたの~!」


「そうか。どんなこと教えてくれたんだ?」


「え~とね、えいがでね、『かんとく』がしょじじょーで『こうばん』したときとかにね、すたっふくれじっとでは、アラン=スミシーっていう『おなまえ』をね、つかうんだって!」


「なんだその、ハリウッドでは20世紀までしか通用しない情報は……」


「それとね、『アンリにせー』がしんじゃってね、それから『しゅーきょーたいりつ』がひどくなってね、アンリとアンリとアンリがケンカして、アンリがかったせんそーが、『ユグノーせんそー』っていうんだって!」


「唐突に難しい話になりました。マスターは昔から変わりませんね……」


 ラグルエルの話の基準に頭をひねる俺たち。

 同時に、ニミーはラグルエルの話をよく覚えられたなと、俺たちは驚く。

 付け加えれば、ラグルエルの謎教育に対するフユメの苦労が、少しばかり理解できた。


「フユメおねえちゃんたちは、なにをしてたの?」


 ニミーの興味は俺たちの行動に移ったらしい。

 崩壊したダムから押し寄せる激流のような彼女の興味に、俺は何と答えるべきか。


 嘘をつく必要はないだろう。

 俺はわざとらしいまでに胸を張り、救世主を気取って口を開いた。


「実はな、俺たちは世界を救ってきだんだ」


「ホント!?」


「嘘じゃない。本当だぞ」


「おお~! ソラトおにいちゃん、すご~い!」


 キラキラと目を輝かせるニミーは、まさに夢の世界を覗き込んだかのようだ。

 きっと彼女は、世界を冒険し悪と戦う、往年の英雄の姿を思い浮かべているのだろう。


「あんたが世界を救う? 冗談でしょ」


 そんな冷淡な言葉を放ったのは、宇宙を旅して金を稼ぐ悪人——シェノであった。


「おいシェノ、信じてないな。俺はついさっきまで、異世界で魔族四天王と戦ってんだぞ」


「妄想の中で世界を救うなんて、誰でもできると思うけど」


「ふざけるな! 妄想の世界だったら、世界を救うより破壊する方が好きだ!」


「あ、それは同感」


 意外なところで意見が一致した俺とシェノ。

 救世主云々については、長い時間をかけてシェノに伝わればそれで良い。

 最悪、俺が救世主であることをシェノが知らずとも、問題はないのだ。


 俺とシェノの会話が終わると、メイティが前に出た。

 メイティは珍しく、自分からシェノに声をかける。


「……お仕事、終わった……?」


「うん、まあね。あとは報酬が口座に入るのを待つだけ。フフフ……」


 心の底から湧き上がる喜びがシェノから滲み出していた。

 自分の口座の数字が増えていくのは、確かに人生最大の楽しみだ。


 しかしシェノの場合、せっかく稼いだ金も、すぐに借金返済のために消えていく。

 そちらの悲しみの方が大きいのでは、などと思ってしまうのが俺である。


 シェノの生活が楽にならなければ、俺が自由に使える金も増えることはない。

 是非ともシェノには、借金返済を急いでほしいものだ。


「『ムーヴ』の救世主も、『ステラー』じゃならず者の居候か……」


 思わずため息が漏れてしまう。

 救世主という職業(・・)は、なかなかに苦労するものだ。

次回 第2章27話『……だから、これからも魔法修行、頑張る……』

ラグルエル「次回で第2章は完結よ。最初は無表情だったメイティちゃんも、クラサカ君たちと一緒にいると楽しそう」

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