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第2章25話 貴様、何ヲシタ?

 マリーは、戦闘の邪魔になるまいと、這々の体でゲーの前から立ち去る。


 ゲーの巨大な岩の体も、俺の強大な魔力の前では小石に過ぎないだろう。

 溢れ出る根拠不明の自信を胸に、俺はゲーに向かって叫んだ。


「よお! 四天王だかなんだか知らないが、土魔法って四大元素の中で一番地味だよな! 土魔法使いのお前って、四天王最弱の人気じゃないのか?」


「愚カ者! 貴様、言ッテハナラヌコト、言ッタ! 許スマジ……決シテ許スマジ! オイラ、貴様、殺ス!」


「おっと、大岩さんの心はガラス細工だったか。まあいい、かかってこい!」


「ソラトさん! 待ってください!」


「なんだ!?」


「魔法使用許可、まだ下りてないです!」


「オウ……ええと、ゲーさん、さっきのは一般論です。俺は土魔法、好きですよ。土魔法ってこう……なんかすごいじゃないですか!」


「殺ス!」


 不用意に他人を挑発してはいけない。

 怒りに支配されたゲーは、樹木よりも太い腕を地面に叩きつけ、魔法を発動。

 地面を覆う土が盛り上がり、俺の体は土の槍に貫かれてしまった。


 当然、俺は死ぬ。


 しばらくして、フユメの蘇生魔法により俺は復活する。

 メイティはマグマ魔法を駆使し、フユメが魔法を使う時間を稼いでいた。


「もう! いきなり死なないでください! ほら、魔法使用許可は下りましたから、メイティちゃんを助けてください!」


 うむ、これは恥ずかしい。

 俺は黙って立ち上がり、再度ゲーを正面に見据える。


「行くぞ!」


 隙を与えぬためにも、今度は前置きなしだ。


 マグマ魔法を避けるゲーに向かって水魔法を発動、激流がゲーの足元をかき回す。

 大量の水が土に染み込み、混ざり合い、ゲーが武器とする土は泥となって崩れていった。

 土の槍も、土の壁も、土煙も、泥となってしまっては使い物にならない。


「無駄ダ」


 嘲笑したゲーは土魔法を泥魔法に切り替え、愚鈍な怒りを晴らすため俺に襲いかかる。

 泥を散らしゲーが腕を振ると、泥は粘り気のある槍に姿を変え、俺の胸を狙った。


 ワンパターンな攻撃だ。


 俺は五感に刻まれた感覚を思い出し、想像し、地面を蹴るだけ。

 すると、氷魔法により地面は凍てつき、水分をたっぷりと含んだ泥の槍は氷の槍となった。

 鋭く尖った穂先は鈍く光り、俺の目と鼻の先で動きを止める。


「サスガ、救世主」


「お褒めの言葉どうも」


「ダガ、我ノ本気ニ耐エラレルカ?」


 氷から立ち上る煙の中、ゲーは両腕を高く持ち上げ、そして地面に勢い良く叩きつけた。

 並外れた力を宿す殴打は地面を揺らし、氷は砕け散り、俺は立つのもやっと。


 だが、ゲーは地面を揺らしたかったわけではない。


 ゲーの背後にあった地面が盛り上がる。それも、林全体に等しい広大な地面が。

 盛り上がる地面は天高く昇り、林であった場所は、ひとつの山となった。

 土魔法によって、ゲーは新たな山を作り出したのである。


「今度コソ、殺ス!」


 その叫びに応じ、ゲーが作り出した山は俺を潰そうと大量の土砂を流した。

 山ひとつが、俺に牙をむいたのだ。

 この状況で常識的な言葉を口にしたのはフユメである。


「て、撤退しましょう!」


「いや、大丈夫だ」


 山ひとつが敵となった時点で、常識など通用しない。

 ならば、俺も常識的な判断など下さない。


 山ひとつが敵となったらどうすれば良いのかって?

 その山を崩せば良いのだ。


「噴火魔法!」


 ゲーの真似をし、俺は両腕を持ち上げ、勢い良く地面を叩きつけた。

 地面を叩きつけたところで、地面を揺らすほどの腕力は持ち合わせていない。

 それでも、俺の魔法は地面を小刻みに震わせた。


「貴様、何ヲシタ?」


「さっきの氷魔法で風邪をひくかもしれないから、少し温めようと思って」


 直後、ゲーの作り出した山の頂上が吹き飛び、山よりも巨大な噴煙が空を覆う。

 山はそのまま噴火の力に逆らえず、山体を崩され、山としての形を失っていった。

 俺の噴火魔法が、ゲーの作り出した山を吹き飛ばしたのである。


 崩壊した山から流れ出す膨大な量の土砂は、風魔法による突風と氷魔法による氷の壁、水魔法による激流で対処可能。

 どれもこれも、五感に刻まれた感覚を呼び起こし、想像するだけだ。

 想像を具現化させているだけだ。


「アリ得ナイ……弱キ人ノ子ガ……コレホドノ魔法ヲ……」


 崩れゆく己の魔法を眺め、ゲーは呆然とした様子。

 俺はゲーに呼びかけた。


「なあ、土魔法が好きだって話、ウソじゃないんだぞ。さっきの山を作る魔法なんか、是非とも覚えたいと思ってる。『ムーヴ』じゃ魔法修行ができないのが悔しいよ」


「……土魔法、好キダト言ウノ、貴様ダケ。忌マワシイ!」


「人気ないと言われて怒って、好きだと言われて不機嫌に? 面倒なヤツだな、お前は。感謝しろよ、人生――岩生最期に土魔法が好きだって聞けたんだから」


「忌マワシイ! オイラ、貴様、殺ス!」


「じゃあな」


 技も魔法も捨て、力のみを振るい、俺を殺そうと走り出すゲー。

 彼の純粋な殺意に対する俺の答えは単純だ。

 迫るゲーの足元に向かって右腕を突き出し、俺はマグマ魔法を発動した。


 ゲーの足元は灼熱の池と化し、マグマがゲーの足に掴みかかる。

 煮えたぎったオレンジ色に沈みゆくゲーは、徐々に岩の体を失っていった。

 数秒もすれば、ゲーはマグマと混じり姿を消す。


 最後の仕上げだ。


 俺はマグマの池に大量の水をかけた。

 マグマと水が接した瞬間、水蒸気爆発が発生、ゲーが溶けたマグマは飛び散り、数多の小さな溶岩が地面に転がる。


「最初からこうすれば、もっと早く勝てたんじゃ……」


 いや、それは気にしてはいけないことだ。

 ゲーの名誉のためにも、それにはあまり触れないようにしよう。


「お疲れ様でした。あっさり終わっちゃいましたね」


 土煙を払い俺の側までやってきたフユメは、そう言って微笑んだ。

 怒りに満ちた岩の顔と比べ、フユメの微笑みは、まるで治癒魔法のように俺の心を癒してくれる。

 軽くなった心は余裕を増大させ、俺は小さな溶岩を蹴飛ばし言葉を返した。


「あっさり終わって当然だ。俺は史上最強の救世主だからな。と言いたところだけど、メイティだって修行すれば、俺と同じくらい強くなれるんだよな」


「いえいえ、ソラトさんは特殊です。いくら強くてかわいいメイティちゃんでも、ソラトさんほどの妄想力はありませんから、あれほど大規模な魔法を使うのは難しいかと。というか、もしかするとソラトさんは、歴代の救世主の中でもトップレベルの強さかもしれませんよ」


「マジ?」


「半分はお世辞です」


 つまり、半分はマジということ。

 歴代の救世主の中でトップレベルとは、なかなかに嬉しいことだ。

 同時に面倒な重荷を背負わされたようにも感じ、素直に喜んでばかりはいられないのだが。


「……ソラト師匠、すごい……わたしも、勇者修行、頑張る……」


 尻尾を揺らし目を丸くしたメイティ。

 彼女の言葉には、素直に喜んでしまう。


 やはり師匠にとって、弟子の成長ほど嬉しいものはないのだ。

 そして、弟子から褒められることほど嬉しいものもない。


「俺の戦いが参考になったみたいで何よりだ」


 胸を張り、出来うる限りの師匠ヅラ。

 続けて俺は、どうしてもメイティに伝えたいことを口にする。


「ただし、ひとつだけ注意しろ」


「……注意……?」


「なんでも真似すれば良いってもんじゃない。俺には俺の、メイティにはメイティの戦い方があるからな。特に、メイティの戦い方だったら、ゲーを粉々にして殺した部分は、真似しない方が良いし、参考にもしなくて良い。分かったか?」


「……うん……命奪うの、真似しない……あと、いきなり死ぬのも、真似しない……」


「いきなり死ぬ? 一体何の話をしているんだね? 俺は今日、一度たりとも死んではいないはずだが?」


「事実を歪めないでください! もう、せっかく師匠らしいことを言っていたのに……」


 前のめり気味のフユメが何やらツッコミを入れているが、知らん。


 ついでに、彼女のすぐ隣でひざまずくマリーのことも知らん。

 それでもマリーはお構いなし。


「救世主様! ああ救世主様! あなた様に二度も命を救われ、あなた様が魔族四天王を屠るその瞬間を二度も目にできるとは、何という誉れ! 神に感謝します!」


「はいはい」


「神に捧げたこの命、どうぞお好きに使ってください! この私に、何なりとご命令を!」


「……前の命令と同じで」


「かしこまりました! このマリー、救世主様のため変わらず魔物どもを駆逐してやりましょう! うおおおお!!」


 剣を掲げ離陸する戦闘機のごとく去っていくマリー。

 従順な騎士を相手するのは面倒なことなのか楽なことなのか、もう分からない。

次回 第2章26話『あんたが世界を救う? 冗談でしょ』

ラグルエル「魔物退治は一段落したみたいね。ニミーちゃんとはもっと遊んでいたかったけど、クラサカ君たちも帰ってくるし、私は私の仕事に戻るわ

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