第2章24話 我らには神の使い、救世主様がついているのだ!
名も知れぬ辺境の惑星。戦場を脱しハイパーウェイを抜けたグラットンが降り立った場所。
沼地で休息するグラットンを出た俺たちは、大地を踏みしめていた。
少し空を見上げれば、そこにはショッピングモールよりも数倍は大きな軍艦ヤーウッドが、警戒態勢を解かぬまま静止している。
ヤーウッドから発艦した1隻の中型輸送船は、俺たちの目の前に着陸。
シェノはならず者たちと機密情報、そして拳銃をぶら下げ、輸送船から現れたサウスキア近衛艦隊の兵士たちと対面した。
俺とフユメ、ニミー、メイティの4人は、シェノたちを遠目から眺めるだけ。
「あいつら、どんな話してると思う?」
「報奨の話がメインだと思います。ほら、サウスキアの兵士の方、すごく困った顔をしていますよ。きっとシェノさんに、報奨の額を吊り上げられているんでしょうね」
「平常運転だな、あいつは」
相変わらずの苦笑いを浮かべた俺たち。
「ねえねえミードニアおねえちゃん、おかし、たべる?」
「……うん……」
「おお~! それじゃあね、これ、あげる! これね、ニミーのだいすきなおかしなの!」
「……いいの……?」
「ミードンとミードニアおねえちゃんはとくべつ!」
「……ありがとう……」
「えへへ~」
姉のシェノとは天使と悪魔ほどの差がある、ニミーの満面の笑み。
お菓子を食べた途端、無表情ながらも猫耳をピンと立て、尻尾を揺らすメイティ。
かわいらしさを通り越し、尊ささえ感じさせる2人の光景に、フユメの表情がとろけた。
今や滅多にお目にかかれない平和な光景だ。
「メイティちゃんとニミーちゃんって、本当に可愛いわね」
「全面的に同意」
「フユメちゃんが夢中になるのも納得よ」
「夢中になりすぎな感も――って、あれ!? ラグルエルさん!?」
「マスター!? いつの間に!?」
白のワンピースに黒のジャケット、鮮やかなブロンドヘアーを風にそよがせるラグルエルが、俺たちの隣にいた。
ごく自然と現れた彼女に、一瞬だけ言葉を失ってしまった俺とフユメ。
振り返ったニミーとメイティは、ラグルエルに挨拶する。
「あ! おねえさんだ! こんにちは!」
「フフ~ン、こんにちは」
「……女神様、どうしてここに……?」
「メイティちゃんとソラト君に用事があってね」
ラグルエルの言う用事が何なのか、俺はすぐに理解した。
理解した上で、俺はラグルエルよりも先に言った。
「また『ムーヴ』での魔物退治、ですか?」
「ええ、そうよ。そろそろ新しい魔法も覚えただろうし」
「今、『ムーヴ』はどれくらい危ない状況に?」
「前回ソラト君がフロガを倒してくれたおかげで、『ムーヴ』の滅亡は1時間24分後に延長されたわ。少しだけ余裕ができたわね」
「たったの24分の延長……」
女神の力により、『ステラー』とは相対的にゆっくりと時間が進む『ムーヴ』。
24分という数字は、ラグルエルからすれば余裕の数字なのだろう。
それでも、俺の感覚――というよりは一般人の感覚からすれば、24分はあまりに短い。
救世主として、俺はすぐにでも『ムーヴ』に向かうべきだ。
フユメも俺と同じ答えを口にする。
「早く『ムーヴ』へ行きましょう」
「ああ、分かってる。ただし、ひとつだけお願いが」
「何かしら?」
「メイティも連れていきます」
「え!? ソラトさん、どうして――」
「フフ~ン、分かったわ」
「マスターまで!?」
俺の言葉の意味が理解できぬフユメと、理解したのかどうか分かりにくいラグルエル。
しかしラグルエルは、俺の願いを受け入れ、転移の準備を開始した。
首をかしげるフユメとメイティは、それでも俺の側にやってきて、転移のための複雑怪奇な模様が描かれた紙の上に乗る。
「ニミーちゃんは私がお世話をするから、安心してね」
「なんかそれ、あんまり安心できないんですけど」
「あらひどいわ。私、こう見えて小さなフユメちゃんを育てた実績があるのよ」
「そのフユメが一番不安そうな表情をしてる件に関しては?」
「……いってらっしゃ~い」
俺たちは光に包まれ、ニミーと手を繋ぎ笑ったままのラグルエルは視界から消えていった。
*
約1ヶ月ぶりの『ムーヴ』は、前回訪れた時より十数分後の『ムーヴ』であった。
辺りを見渡せば、そこは中世の街並みとは打って変わり、鬱蒼とした林の中。
どこまでも続く木々は、不気味に俺たちを包み込んでいる。
「到着だな。メイティ、近くに人の気配は?」
「……ある……」
「そうか。とりあえず魔物を探さないとな」
「探す必要はないかもしれませんよ。ほら、あそこを見てください」
前回から十数分後の『ムーヴ』、と言っても剣と魔法のファンタジー世界だ。
転移魔法というのはこの世界にも存在するようで、林の中にやってきた俺たちの前には、知っている女騎士——マリーの姿があった。
ところが、彼女の周りには複数人の騎士たちが、白銀の鎧を破壊され地面に倒れている。
マリー自身も、膝を土に汚し、かろうじて己の体を剣で支えていた。
「くっ! 殺せ!」
どこかで聞いたセリフを吐くマリー。
しかし彼女の前にいたのは、どこかで見たようなオークではない。
そこにいたのは、マリーが小さな人形に思えるほどの、林の木々よりも巨大な岩の塊。
最初、それが魔物であると、俺は気づくことができなかった。
岩の塊に埋もれた目玉が動き、言葉を発してはじめて、俺はようやくその岩の塊が魔物であると知った。
「弱キ人ノ子。貴様ノ願イ、叶エル。オイラ、貴様ニ、死ヲ与エル。タダシ、オークヲ満足サセテカラ、ダガ」
「好きにするが良い! だが覚えておけ、獣め! 我らには神の使い、救世主様がついているのだ! 救世主様がいる限り、いくらこの私を辱めたところで、貴様らに勝利はない! 我らに負けはない!」
「強ガルナ、弱キ人ノ子。神ノ使イ、貴様ノ危機ヲ知レバ、スグ現レル。神ノ使イ、イツニナッタラ——」
そこで、体に比べ異様なまでに小さな魔物の目が、俺を見つけ出した。
と同時に、マリーの凜とした瞳に俺が映り、彼女はパッと表情を明るくする。
「救世主様! あなた様が現れると、信じておりました! ですが……申し訳ありません! この私が不甲斐ないばかりに、お手を煩わせてしまって……」
頭を下げるマリーと、俺を睨みつける魔物。
あの2人は俺を勇者として扱っている。
そう、ここでの俺は勇者だ。
ならば俺は、勇者らしく振舞うだけ。
「問題ない。むしろ、謝らなければならないのは俺の方だ。もう少し早く来られれば良かったんだがな」
「なんと慈悲深いお言葉……魔族四天王、土使いのゲーよ! フロガを打ち倒した救世主様が現れたからには、貴様の命はない!」
「え!? 魔族四天王!? また!?」
「ウヌボレルナ。フロガハ、オイラタチ四天王ノ中デモ最弱。オイラヲ、容易ク倒セルト、思ウデナイ」
「マジかよ……運が良いんだか悪いんだか……ラーヴ・ヴェッセル!」
どうして俺の前には、魔王の幹部級ばかりが現れるのか。
頭を抱えていても仕方がない。
せっかくの邂逅だ。四天王のゲーには、俺の魔法攻撃をみっちり受けてもらおう。
「フユメ、下がってろ。何かあれば、治癒と蘇生は任せた」
「いつも通りですね」
「メイティ、俺の戦いをよく見ておけ。これは魔法修行じゃなくて、勇者修行だ。世界を救うってのがどんなものなのか、しっかり勉強するんだぞ」
「……うん……」
頼りになるフユメと、かわいい弟子であるメイティを背後に、俺はゲーの前に立った。
次回 第2章25話『貴様、何ヲシタ?』
ラグルエル「クラサカ君 vs 土魔法使いのゲー。私の選んだ救世主は、一体どんな方法で魔物を退治してくれるのかしら」




