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第2章23話 ……わたしが、戦って救った命……

 グラットンに向かう最中、俺たちをかすめるレーザーや戦闘機の数が明らかに増えていた。

 いつの間に帝國軍の無人戦闘機と同盟軍の無人戦闘機、サウスキアの無人戦闘機、ならず者たちの機体が入り混じり、戦場は混迷を極めていたのである。

 それどころか、帝國軍の巡洋艦や駆逐艦、同盟軍の駆逐艦までもがデスプラネットの残骸内に進入していた。


 これはもう、生身の人間が漂う場所ではない。早いところ、この戦場を脱しなければ。


「見てください! あそこに人が!」


 そう言ったフユメが指差した先には、分厚い宇宙服に身を包み、宇宙を漂う2人の人影。

 おそらく俺たちと同じくように宇宙へ放り出されたならず者たちだ。


「どうする? 助けるか?」


「助けないという選択肢があるんですか!?」


「あると思ってたけど……」


「あると思ってたんですか……」


 冷たい視線が突き刺さり、フユメの手から力が抜ける。


「分かったよ、助けりゃ良いんだろ。その代わり、あいつらが襲ってきたら容赦なく始末するからな」


 機密情報収集の際にならず者たちに撃たれた俺は、ならず者たちへの不信感を抱いていた。

 ならず者の世界に味方などいないと、俺は学んだ。

 だからこそ、俺はならず者の救出などしたくはなかったのだが、人としてはフユメの方が正しいのだろう。


 見た目は派手ながら静かな戦場を俺たちは駆ける。


「大丈夫ですか?」


 ならず者2人の側に到着し、フユメが彼らに呼びかけた。

 するとならず者2人は、冷静さを彼方に忘れ強い感情をそのまま言葉にする。


「どこが大丈夫に見えんだよ! クソッ!」


「俺はこんなところで死にたくねえ!」


「落ち着け、2人とも。死にたくなけりゃ、俺たちに掴まれ」


「「はぁ!?」」


「いいから、黙って俺たちに掴まれ。置いてくぞ」


 半信半疑ではあるものの、他に頼るものもないならず者たちは、俺ではなくフユメの腕を掴む。

 生死の境でちゃっかりと女の子の腕を掴みに行くならず者たちにため息をつきながら、俺は再びグラットンに向かって戦場を飛んだ。


 残骸を縫って敵を追う無人戦闘機たち。粉々に砕け散る船。砲撃戦の末に崩壊する駆逐艦や巡洋艦。なおも多くの敵を翻弄し続ける輸送船。

 苛烈な殺意と憎しみ、乾ききった合理的判断に形作られる戦場。


 そんな中、それでも命が散るのを拒否した一団が、俺の視界に写る。

 宇宙服を着た小さな少女を先頭に、数珠繋ぎになったならず者たちの一団。


「あれは……メイティちゃんです! シェノさんもいます!」


「おいおい、あいつ何人救出したんだ……」


 まるで観光客の団体。

 現在進行形の地獄巡りとは、なかなか趣があるではないか。


「……ソラト師匠、みんなを、助けた……」


 確かに彼女は、みんなを助けると俺に言った。

 だが、まさかシェノだけでなく十数人のならず者たちを救うとは、想定外だ。

 メイティらしいといえばメイティらしいのだけれども。


「助けたはいいが、こいつら全員をグラットンに乗せるのか?」


「グラットンの積載量、ナメないでくれる。このくらいの人数なら乗せられる」


 宇宙を漂いながら、ならず者たちに銃を向けるシェノが俺にそう伝えた。

 俺が聞いたのは積載量についてではなく、俺たちに襲いかかるかもしれないならず者を乗せて良いのかどうか、だったのだが。


 しかしシェノの銃口に怯えるならず者たちを見ていると、俺の不安は杞憂であったらしい。

 最悪は俺とシェノがならず者を皆殺しにすれば良いのだし、今はメイティの意思を尊重しよう。


「メイティ、グラットンの場所は分かってるのか?」


「……うん……あっち……」


「いや、こっちだぞ」


「……あれ……?」


 危うくメイティたちが迷子になるところであった。

 俺はメイティたちを誘導し、グラットンへと向かう。


 壮絶なスペース・バトルが繰り広げられる中、俺たちはデスプラネットの残骸を盾に目的地へ一直線。


 目的地――グラットンがいた場所にやってくると、そこには宙に浮くグラットンの姿が。

 デイロンら帝國軍が仕掛けた爆弾により、ここもまた重力が失われていたのだ。

 今の俺たちには関係のないこと。


 漂うグラットンに掴まると、シェノがグラットンのハッチを開ける。

 宇宙空間でハッチが開けられた場合、グラットンでは自動的に二重扉が作動するようだ。

 グラットン船内にならず者たちがぎゅう詰めにされると、ハッチは閉まり、船内は空気に満たされた。


「おお~! ひとがいっぱいだ~!」


 開かれた操縦席へのハッチから、お菓子を食べるニミーがひょっこりと頭を出した。

 同時に、シェノがならず者たちをかき分け操縦室へ。

 彼女のおかげで押されたならず者たちが、俺とフユメを押しつぶし、俺たちの体は密着する。


「ちょ、ちょっとソラトさん、変なところを触らないでください!」


「触りたくて触ってるわけじゃないぞ!」


「じゃあ、せめてニヤニヤしないでください!」


「え? 俺、ニヤニヤしてた?」


「今もしてます!」


 そうこうしている間に、ならず者たちは客室や倉庫、操縦室に分散し、俺たちはおしくらまんじゅうから解放された。

 まさしく満員電車を降りた直後、駅のホームでの気分。

 疲労困憊を込めた深いため息とともに、俺は宇宙服を脱ぎ、コターツの中に潜り込む。


 シェノは操縦席に座り、グラットンのエンジンをすぐさま吹かし、戦場の脱出を図った。

 周囲に座り込むならず者たちは、それぞれが勝手なことを口にする。


「チッ、命救われちゃ、手柄を譲ってやるしかねえじゃねえか」


「まさか劣等種のニンゲンと愛玩動物のニャアヤに救われるなんて、俺も落ちたもんだ」


「なぁおい、あいつらから機密情報、奪ってやろうぜ」


「馬鹿かお前。あいつ、鬼のシェノだぜ」


「ゲッ! あの嬢ちゃんが、あの鬼のシェノ!? 勘弁してくれよ~」


「おとなしくするしかねえな、こりゃ」


 シェノも随分と有名になったものである。

 ボッズ・グループを殲滅したという情報が広まり、今やシェノは恐怖の対象だ。

 だからこそならず者たちはおとなしくなってくれるのだから、悪いことばかりではない。


「……ソラト師匠、あの人、危険……」


 コターツでまるまったメイティが、俺の耳元でそうつぶやく。

 彼女の丸い瞳の先では、寸胴な体を4本足で支えた男が笑みを浮かべていた。


 まさかあいつ、シェノに喧嘩を売る気ではないだろうか。


 そのまさかであった。男はシェノの背中を睨みつけ、腰にぶら下げた拳銃に手を当てたのだ。

 まずい、このままではあの男が死ぬ(・・・・・・)


「やめろ! 死ぬぞ!」


「……誰も、死なせない……!」


 俺よりも一足先に腕を伸ばしたメイティ。

 彼女の願いは氷魔法となり、拳銃に触れた男の手を凍りつかせた。


 銃を握れず混乱した男は、すでにシェノに銃口を向けられていたことを知り、まるで全身を氷漬けにされたように固まってしまう。

 あの男の命は、刹那の差で繋ぎとめられたのだ。


「ヤバ、銃を預けた方が良いかもしれねえ」


「なんでだろう、俺まで背筋が凍ったぞ」


「つうか今、なんであいつの手が凍った?」


「そこのニンゲンの男とニャアヤの娘が叫んだ直後に、あいつの手が凍ったよな。こいつら、実はかなりヤバいんじゃ……」


 シェノだけでなく、俺やメイティまでもがならず者たちの恐怖の対象に。

 ひどい話だ、俺たちは男の命を救ったのだ。怖がるよりもまず崇めてほしいものである。


 そう、俺たちはここにいるならず者たちの命を救ったのだ。

 初の戦闘で、メイティは誰も殺さず、多くの者たちを救ったのである。


「なあメイティ、よくやった」


 小首をかしげるメイティ。


「周りを見てみろ。こいつら全員、お前がいなけりゃ死んでた連中だ。メイティが戦ったからこそ、このろくでなしどもは生きてるんだ」


「……わたしが、戦って救った命……」


「そうだ。お前はついに、勇者になったんだよ」


「……わたしなんかが勇者で、大丈夫……?」


「大丈夫に決まってんだろ。むしろ、メイティは俺よりも勇者らしいぞ」


「……なら、わたし、これからも、みんなを守る……」


「その意気だ」


 戦いを拒否していたメイティは、自分の戦い方を見つけ出した。

 誰も殺さず、誰かを救うため、覚悟を決め、魔法を駆使し多くの命を救い出した。


 彼女は勇者としてのはじめの一歩を踏み出したのだ。

 世界に絶望し刹那の時間を過ごし、自分の命すらも投げ出しかけていた少女は、勇者として新たな一歩を踏み出したのだ。


 さて、成長の早いメイティに、いつまで俺は師匠として偉そうにできるのだろうか。

次回 第2章24話『我らには神の使い、救世主様がついているのだ!』

ラグルエル「そろそろ『ムーヴ』での魔物退治の時間よ。クラサカ君たちに会いにいってくるわ」

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