第2章11話 これ、なんの図面だと思ってるんスか!?
噴煙に紛れ、銀河連合系企業が居を構える街付近に停泊するグラットン。
開かれたハッチから顔を出したのは、エルデリアであった。
「訓練は順調ッスか?」
「あれ? どうしてお前がここに?」
「メイティさんの様子を見に来たんッス。軍に報告書を出さないといけないッスからね」
表情に疲労を滲ませ、エルデリアは後ろ頭をかく。
さすがに同盟軍のエージェントとベス・グループの仕事を両立させるのは辛いのだろう。
面倒事に追われるエルデリアに、俺は同情する。
「ミードニアおねえちゃん、かえってきた~!」
エルデリアとは正反対に、元気いっぱいのニミーがグラットンから飛び出した。
彼女はメイティの前に立ち、ぬいぐるみのミードンを掲げる。
「みてみて~、ミードン、おしゃれさんにしたの~!」
ミードンの頭には、小さな青いリボンがつけられていた。
なんともかわいらしい。
俺の隣では、フユメが悶絶寸前になっている。
「これ、ミードニアおねえちゃんにあげる! ミードンとおそろいだよ!」
「……ありがとう……」
ニミーがメイティに手渡したのは、青いリボンの形をした髪飾りだ。
髪飾りを受け取ったメイティは、感謝の言葉を口にしながらも、どうすれば良いのか分からぬ様子。
ここでついに、フユメが動きだす。
「早く髪飾りをつけましょう!」
半ば強引に、フユメはメイティの頭に髪飾りをつけた。
猫耳に寄り添った青いリボンの髪飾りは、メイティのシルバーヘアによく似合っている。
自分の姿が見えないメイティは、丸い目をぱちくりさせるだけだが、それがまたかわいらしい。
フユメはいよいよ悶絶し、ニミーは無邪気に喜んだ。
「ふわ~、かわいすぎます~! いつまでも眺めてられそうです~!」
「ミードニアおねえちゃん、かわいい! ミードンとおそろい!」
平和な光景だ。
ついさっきまで、死んでは蘇りを繰り返していたとはとても思えない光景である。
フユメとニミーに抱きつかれたメイティは、無表情のままグラットン船内に連れて行かれた。
俺とエルデリアも、彼女らを追ってグラットン船内へ。
コターツに入るため操縦室へ向かうと、そこにはレンチを振り回し、船体の一部を破壊するシェノの姿が。
「おいシェノ、何してるんだ?」
「グラットンの修理」
「修理? 壊してるようにしか見えないが?」
「HBがここの部品を新品に交換して、船体が安定しちゃったの。でも、操縦にクセがないと気持ち悪くて、新しい部品を元のポンコツに戻してるわけ」
「やっぱり壊してるだけだろ、それ」
うるさい、という表情をして俺の言葉を無視するシェノ。
何を言っても無駄だと悟った俺は、とりあえずコターツに潜り込んだ。
コターツに潜り込む間、今度はメイティを抱いたままのフユメがシェノに話しかける。
「シェノさん、プーリンの素材は集まりましたか?」
「半分くらいはね。でも、失われたレシピって言われるぐらいで、素材探しだけでも一苦労。全部集まるまで、まだまだ時間がかかると思う」
「そうですか。無茶なお願いをしてしまって、ごめんなさい」
「いいよ、別に。仕事のついでだから」
ぶっきらぼうに答えたシェノは、再びレンチを振り回し、部品の破壊を続けた。
断続的に響き渡る、レンチが叩きつけられる音と、部品が弾け飛ぶ音。
それらを気にすることなく、フユメはメイティとニミーを連れてコターツに入り込む。
コターツに入る寸前、ニミーのポケットから1枚のディスクがこぼれ落ちた。
エルデリアはディスクを拾い、ニミーに返そうとするも、
「これ、帝國のディスクじゃないッスか。なんでこんなモノを、ニミーちゃんが?」
ディスクを眺め訝しげに首をかしげたエルデリア。
すぐさまニミーが答える。
「あのね、ボルトアのまちでね、おかしをかったら、おみせのひとにもらったの!」
「店の人にもらった? よく分からないッスけど、中身を確認しても良いスか?」
「いいよ~!」
ニコニコと笑うニミーとは裏腹に、エルデリアは真面目な顔をして、ディスクの中身を端末で確認する。
ただし、コターツに入りながら。
数分後、エルデリアの様子がおかしくなった。
「やばいッスやばいッス! あり得ないっしょ! 包み隠さずじゃないッスか!」
「どうした? 帝國のエロ画像フォルダでも見つけたか?」
「エロ画像よりも良いものッス! これは……すごすぎッス!」
「マジかよ。ちょっと見せてみろ」
「二人とも、メイティちゃんとニミーちゃんがいるの、忘れないでください」
「大丈夫大丈夫、細心の注意は払うから」
ニミーとメイティの対面に移動し、俺はエルデリアの端末を覗き込む。
さて、どんなにすごい画像を拝むことができるのか。
できればクール系美女の画像でお願いしたい。
「どれどれ――」
エルデリアの端末に映し出されていたのは、何かしらの建造物の図面と、文字がびっしり敷き詰められた表のみ。
俺の期待は泡のように弾けていく。
「おいおい、エルデリアはこれで興奮してたのか。上級者すぎるぞ」
「興奮するに決まってるじゃないッスか! これ、なんの図面だと思ってるんスか!?」
「知らん」
「帝國の最終兵器『デスプラネット』の設計図ッスよ!」
「デスプラネット……もしかして、ゾザークを破壊したあれか!?」
「あれッス! あれの図面と、今後の運用の行程表ッスよ!」
ようやくエルデリアの興奮の理由が分かった。
魔法修行に集中し忘れていたが、銀河連合・同盟軍と帝國は戦争中なのだ。
同盟軍のエージェントであるエルデリアが、敵の最終兵器の図面を得て大興奮するのは、当然のことなのだ。
同時に、単純な疑問が思い浮かぶ。
――どうしてニミーは、これほど重要な情報が入ったディスクを、お菓子屋さんでもらったのだろうか?
しかし俺のそんな疑問は、エルデリアの興奮にかき消されてしまった。
「ニミーちゃん、このディスク、もらっても良いッスか!?」
「う~ん……」
「好きなお菓子、たくさん買ってあげるッスから!」
「ホント!? じゃあ、あげる~!」
大喜びのニミー、それ以上に大喜びのエルデリア。
だがシェノは、金の匂いを見逃さない。
「ニミーはお菓子で良いけど、あたしには10万クレジット、寄こしてよ」
「そ、そんな大金は無理があるッス! 新しい宇宙船が買える額ッスよ!?」
「はあ? 戦争に勝ちたいんじゃないの?」
「さすがに10万は無理ッスよ。他に欲しい物はないんッスか?」
「じゃあ超遠望装置の賠償金チャラで」
「10万クレジットよりも高いじゃないッスか……。もう分かったッス! 10万用意するよう、頼んでみるッス!」
「どうも」
ボイスレコーダーを振りニタリと笑うシェノに、エルデリアはため息をつく。
それでもエルデリアは、ニミーからディスクを受け取ると、グラットンを飛び出した。
ならず者にゆすられながらも、エルデリアは銀河連合を勝利に導くため、重要機密を手に同盟軍のもとへと走るのだ。
エルデリアが去ると、グラットン船内は平穏に包まれる。
ニミーはたくさんのお菓子を、シェノはたくさんの金を想像し、ほっこりとしていた。
メイティは魔法修行の疲れからか寝息を立て、フユメはメイティのモフモフした頭を撫でていた。
俺は片肘をつき、妄想の世界に入り込む。
銀河では連合と帝國の大戦争が起きているらしいが、俺たちには関係のないことだ。
今の俺たちは、のんきな時間を過ごすだけである。
次回 第2章12話『久しぶりの再会、どんな言葉をかければ良いのでしょう……』
ラグルエル「新しいお仕事は、お嬢様を幼なじみのもとに連れて行くこと。けれども、クラサカ君やメイティちゃんは、何か嫌な雰囲気を感じ取っているようね」




