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第1章29話 どこまでも勝手なヤツ……

 ボッズ・グループの壊滅から5日。

 メイスレーンは瞬く間にベス・グループに吸収され、シェノもまた、ベス・グループの一員となった。


 借金はチャラ、本来は牢獄としてボッズから渡されたグラットンを家とし、これからはエルデリアが仕事の請負人となり、彼に従って仕事をする。これがシェノの新たな人生である。

 シェノの新たな人生に、ニミーを狙うチンピラの姿はない。シェノを奴隷のように扱おうとする者の姿もない。シェノとニミーの姉妹はようやく、自由を手に入れたのだ。


 俺たちはどうなったのか。これに関しては、予断を許さない状況にある。

 実のところ、シェノは俺たちを雇うかどうかの返答を保留にしたままなのだ。俺たちは、いつシェノに見捨てられるかも分からぬ状況にあるのだ。


 それでも俺たちは、姉妹とともにグラットンに乗り、宇宙を漂っていた。

 エルデリアから借りた高性能超遠望装置を搭載したグラットンが漂うのは、とある惑星から5光年と少しの位置。

 とある惑星の正体は、シェノとニミーの故郷である。


「シェノさん、この辺りで間違いないですね?」


「紙切れに書いてある数字が間違ってなければ、この辺り」


 操縦席を立ったシェノの答えを聞き、フユメは超遠望装置の操作を開始した。


 こんな宇宙のど真ん中で、俺たちは何をしているのか?


 それは5日前のことだ。フユメは、シェノの父親が遺した紙切れの数字を、日付と座標ではないかと口にした。そしてその座標は、シェノとニミーの故郷ではないかと推測する。

 調べてみれば、フユメの推測は正解であった。その座標は、シェノとニミーが家族と過ごした家のすぐ近くであることが判明したのである。


 続いて日付だが、これについてもまた、フユメが大胆な推測を立てた。

 紙切れに書かれた日付は、今から5年3ヶ月17日前。ならば、5光年と少しの距離から紙切れに書かれた座標の位置を眺めれば、5年3ヶ月17日前を目にすることができるのではないか。

 光に追いつき過去をのぞくことで、何かが分かるかもしれない。これがフユメの立てた推測だ。


 この推測には、シェノも興味を抱いたらしい。シェノはエルデリアに無理を言って、同盟軍の最新式の超遠望装置を借りてきた。

 よって現在、俺たちは宇宙のど真ん中で超遠望装置の用意をしているのである。


「フユメ、あとどのくらいで準備できそうだ?」


「じゅんびできそう?」


「すぐにできますよ。ソラトさんが手伝ってくれれば、もっと早くできますよ」


「はやくできる~!」


「悪いが俺は、ニミーのお世話をするので手一杯でな」


「ていっぱ~い!」


「あの……コターツで温まってるようにしか見えませんが……」


「みえな~い!」


「ニミーと一緒にコターツに入る。立派なお世話だろ。なあ、ニミー」


「うん! ソラトおにいちゃん、やさしい!」


「ほらな」


「はあ……ニミーちゃんがダメな子にならないか心配です……」


 大きなため息をついたフユメ。

 話に参加しないシェノも、俺への殺意をなんとなしに漏らす。

 知ったことではない。世界の何よりも、ニミーとコターツに入ることが優先されるのだ。これだけは譲れない。


 さて、俺はまったく相手をされなくなり、しばらくして、ニミーがシェノに呼ばれた。


「準備できたよ」


「おお~! みせてみせて~!」


 どうやら超遠望装置の準備が完了したようだ。

 ニミーはミードン片手にコターツを飛び出し、超遠望装置のモニターに走り寄る。

 俺もコターツから這い出し、超遠望装置のモニターを覗いた。


 モニターに映し出されていたのは、草原に横たわる家族の姿。

 まず、5光年も離れた場所にいる家族の顔まで映した超遠望装置に、俺は驚いた。


 同時に、モニターに映る家族の姿に、俺はつい頬を緩めた。

 草原に横たわり空を見上げている少女は、5年後に地獄絵図を作り出す鬼になるとは思えぬ、まだあどけなさを残した、ニミーにそっくりな可愛らしい女の子。

 あの子は、10歳前後のシェノだ。彼女に抱かれた赤ん坊は、ニミーで間違いないだろう。


「パパ……ママ……」


 モニターを眺め、シェノがつぶやく。どこか悲しげに、どこか嬉しげに。


 空を見上げたシェノを囲む父親と母親は、想像していたよりもずっと優しそうな2人だ。

 無邪気な笑みを浮かべた幼いシェノは、両親の前で空を指さしている。まるで、何かを宣言するかのように。


 残念ながら、5年3ヶ月17日前の声を聞くことはできない。幼いシェノが両親に何を宣言しているのかは、俺とフユメには分からない。

 だが、俺たちがそれを分からずとも、シェノはそれを思い出したようだ。


「あたし、パイロットになって宇宙を駆け回るんだ……」


 過去、両親に宣言した言葉を再生するシェノ。

 5年3ヶ月17日前を映したモニターの中では、シェノの父親がシェノの宣言に答えていた。シェノはその答えも思い出したようである。


「なら、自由を大切にしないといけないな……」


 そうつぶやいて、シェノは歯を食いしばった。

 これは、シェノの父親の遺言。

 借金苦の末に2人の娘を手放した父親は、それでも2人の娘の自由を望んでいたのだ。まるで、ニミーの自由を願い1人でボッズ・グループに乗り込んだ、シェノのように。


 シェノはきっと、全てを理解していたのだろう。理解した上で、それでも父親を憎しみ続けたのだろう。その憎しみが消えることはない。


 操縦室に1発の銃声が鳴り響いた。シェノの持つ拳銃からは煙がのぼり、家族の姿を映し出していたモニターは、レーザーに貫かれ何も映さない。


「どこまでも勝手なヤツ……時間の無駄だった。もう帰ろう」


 父親の遺言に対する不満から、口を尖らせたシェノ。その姿は、いつも通りのシェノの姿であった。

 過去にけりをつけたシェノは、操縦席に座って操縦桿を握ると、グラットンを発進させる。


 先の見えぬ暗闇を見つめる彼女の目は、以前とは違い、広大な宇宙への期待を胸にしているかのよう。

 今のシェノは、まさに自由に宇宙を駆け回るパイロットだ。

 自由を手にした彼女に、俺たちが何か言葉をかける必要などない。


 ただ、できれば俺もフユメも、シェノと宇宙を駆け回りたいものである。


「なあシェノ、まだ俺たちを雇うかどうか、答えが出ないのか?」


「ああ、ごめん、忘れてた。あんたたちを雇う気はないから、あとはエルデリアを頼って」


「え!? 雇ってくれないのか!?」


「フユだけなら雇っても良いけど、あんたと一緒にいると、たぶんロクな目に遭わないような気がするんだよね。それに、なんか……気が散るし……」


「むむむ」


 なぜだろう、全く反論ができない。

 まずい、このままでは俺は、コターツとお別れをしなければならなくなってしまう。それだけは断じて避けねばなるまい。


「給料はなくて良いんだぞ。グラットンに住まわせてくれれば、俺たちはそれで十分なんだぞ。ほら、もう奴隷を手に入れたようなもんだろ」


「奴隷を使う趣味じゃない」


「じゃ、じゃあ、ニミーの世話だって大変だろ。ほら、俺たちが手伝ってやるから」


「ニミーの世話を面倒事とか言って、殺し合いの場にニミーを返しに来たの、誰だっけ」


「……グラットンが賑やかになって良いだろ!」


「売り込む要素なくなるの、早すぎない? ともかく、何を言っても無駄だからね」


 シェノの冷たい口調と言葉が、俺の氷魔法よりも鋭く心に突き刺さった。

 正直、ニミーの危機が去った現在、お荷物でしかない俺たちを雇う理由がシェノにはない。

 無茶を押し通すには一体どうすれば良いのか。


 ここで頼もしい援軍が現れた。フユメだ。 


「シェノさん、ちょっとお話があります」


「だから、ソラトを雇う気はないから」


「いえ、その話ではありません」


「じゃあ何?」


「さっきシェノさん、超遠望装置を撃ちましたよね。たぶんですけど、そのせいで超遠望装置、壊れちゃったみたいです」


「……え?」


「この超遠望装置、同盟軍からの借り物ですよね? 賠償とか、大丈夫なんですか?」


 はじめてシェノの表情が凍りついた。帝國の襲撃があろうと、ボッズ・グループに殺されかけようと、常に平気な顔をしていたシェノが、はじめて俺たちに焦りを見せた。


 最新式の軍用超遠望装置を壊したとなれば、その賠償金は目を背けたくなるような数字になるであろう。

 膨大な数字を頭に思い浮かべ、しばし沈黙し、冷や汗を垂らし、シェノは叫ぶのだった。


「ソラト、フユ、あんたらを雇う! だから、お願い! どんどん稼いで!」


 借金とは恐ろしいものである。

 鬼気迫るシェノの叫びに、俺たちは力強く頷いた。

 一方でニミーは、のんきに「かせぐ~!」などと言ってコターツに潜っていった。


 シェノは人生の新たなページを歩みはじめたが、それは俺たちも同じこと。

 俺とフユメは、シェノとニミーとともに、このグラットンに乗り、魔法修行と金稼ぎのため、これから宇宙を自由に駆け回るのだ。

 五感と巡り会いで覚える魔法修行は、シェノとニミーとともに続くのである。

次回 第2章1話『神の雷を受け、その罪を洗い流すがよい』

ラグルエル「次回からは第2章。クラサカ君の新しい魔法修行、帝國の宣戦布告、そして新たな魔術師の登場――といろいろあるみたいだけど、クラサカ君たちはいつも通りみたい」

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