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第4章15話 なんてデカさだ……

 俺たちが乗り込んだのは、同盟軍特殊部隊の窓ひとつない小型輸送機。

 ハイパーウェイを経由し向かう先は、帝國軍の究極兵器デスプラネット。

 目的地到着は目前だ。


「準備は良いな?」


「はい! ソラトさんの補佐はお任せを!」


「……わたし、勇者として、みんなを助ける……」


「いつも通り撃てば良いんでしょ」


「我々は準備万全だ! 魔術師、頼りにしているぞ!」


 胸の前で拳を握ったフユメ、ぺこりとうなずくメイティ、拳銃を握ったシェノ、そして気勢を上げる6人の同盟軍特殊部隊。


 これから俺たちは、デスプラネットに囚われた高官たちを救出するのだ。

 それはつまり、これから俺たちはデスプラネットに潜入するということだ。


 無謀とも思えるこの作戦。

 だが、十分な勝算があるからこそ、同盟軍はこの作戦を実行しているのである。


「ハイパーウェイ脱出まで10秒」


 輸送機のパイロットによるカウントダウンがはじまった。

 数字が下るにつれ、俺の鼓動は早くなっていく。


「5、4、3、2、脱出、今」


 モニターに映っていた外の景色から白の光が消えた。

 今のモニターに映るのは、赤黒い岩の衛星と、衛星に寄生しようとする人工物の一端のみ。


 人工物の全体像を見ることはできないが、それがデスプラネットであるのは明白である。

 ひとつの惑星を破壊することも可能な超兵器が、俺たちの目の前に浮かんでいるのだ。

 特殊部隊の隊員ですらも、モニターの映像には驚きを隠せないらしい。


「なんてデカさだ……」


 誰もが抱くであろう感想。

 ただ、その巨大な兵器に潜入し、挙句に破壊しようとしている俺たちからすれば、その感想は特別な意味合いを持つ。


――あんな化け物相手に、果たして俺たちは任務を達成できるのか?


 そんな思いが心に浮かぶのも無理はない。

 しかし、こうして至近距離からデスプラネットを眺めている時点で、俺たちの作戦は順調に進んでいるのだ。


「帝國軍に動きはありません」


 レーダー類を眺めたパイロットの報告。

 フユメとシェノは安心したように言った。


「衛星に寄生途中のデスプラネットは、強力なシールドを展開できない。設計図に書かれていた通りですね」


「敵が動かないってことは、この場所が死角だってのも正しかったんだね」


 デスプラネットは、わずかな塵すらも通さぬ強力なシールドに守られた要塞。

 これに重厚なレーダー網が加わるのだから、デスプラネットへの攻撃や潜入はおろか、接近すらも不可能なはずだ。


 けれでも、デスプラネットにだって弱点は存在する。


 惑星をも破壊するデスプラネットに必要なエネルギー量は、鉱山衛星まるまるひとつ分。


 そこでデスプラネットは、鉱山衛星に張り付き寄生することでエネルギーを得ている。

 鉱山衛星のエネルギーが枯渇すれば、また別の鉱山衛星に寄生する。

 衛星をまるごと電池として抱え、使い捨てにするのだ。


 注目すべきは、この鉱山衛星に寄生するとき。

 寄生するとき、デスプラネットのシールドは消える。すなわち、デスプラネットへの接近も攻撃も可能となるのだ。


 もちろん帝國軍はこの弱点を承知しており、寄生時は大規模な艦隊が護衛任務に着く。


 だが小型船であれば、すぐ近くまでハイパーウェイを使うことでデスプラネットへの接近が可能。


 では、接近できたとして、重厚なレーダー網はどうするのか。


 設計図を解析した結果、デスプラネットにはレーダーの死角が存在していることが分かった。

 それは完成直前に追加された区画により発生した死角であり、シールドがあるからと見過ごされた弱点。


 同盟軍はここを突いた。

 だからこそ、俺たちが乗る輸送機は見事にデスプラネットに接近し、潜入に成功しているのである。


 輸送機は慎重にデスプラネットの外壁に着陸、ハッチを開けた。

 宇宙服を着た俺たちは、デスプラネット内部への潜入を開始する。


「作戦フェーズ1開始! よし! 行け行け行け!」


 統率の取れた無駄のない動きで輸送機を飛び出す、特殊部隊の6人。

 対する俺たちは、それぞれ勝手に輸送機を飛び出す。


「ラーヴ・ヴェッセル! 俺たちも行くぞ!」


「ま、待ってくださいソラトさん! 無重力空間は……あわわ!」


「どこ行くんだフユメ!? そっちじゃないぞ!」


「誰か助けてください!」


「……フユメ師匠、助ける……」


「あたしも手伝う」


 高官を救出する前に、まずはフユメを救出。

 無重力空間の移動に慣れぬフユメが、いきなり脱落してしまうところであった。

 シェノとメイティに引っ張られ事なきを得たフユメは、申し訳なさそうに顔を赤くする。


 そうこうしている間、特殊部隊は黙々と仕事をこなしていた。

 小型のシールド発生装置を起動させ、デスプラネットの外壁に穴を開ける特殊部隊。

 穴があくと、特殊部隊の1人がドローンを投入、帝國軍兵士の有無を確認する。


「敵影なし」


「よし、潜入開始だ」


 ドローンが映した映像と、デスプラネットの設計図を重ね合わせ、ルートを決定。

 ぽっかりとあいた穴に飛び込んだ特殊部隊は、銃を構えデスプラネット内部を進んでいった。


 彼らに置いてかれまいと、俺たちもデスプラネット内部へ。

 宇宙服を脱いだ俺たちは辺りを見渡した。


 以前――といっても未来の話だが――にも俺たちはデスプラネットを訪れている。

 あのときはすでに破壊され、残骸と化していた廊下は、今はまだ現役だ。


 青白い光に浮かぶ、無機質な灰色の世界。

 帝國の鬱屈と怨嗟に包み込まれたような、居心地の悪い空間。

 世界を破壊し尽くすためだけに生まれたこの超兵器は、まるで魔王である。


 俺のすぐ後ろを走る勇者メイティは、魔王と同じ存在であるこの兵器をどう見るのか。

 デスプラネットに溢れる帝國軍人たちの感情を、メイティは読み取ったらしい。


「……帝國のみんな、嬉しそう……」


「だろうな。これだけの力を得たら、誰だって嬉しくなるさ」


「……違う……みんな、尊厳を取り戻したこと、嬉しがってる……」


「尊厳を取り戻す、か」


「……ここが、帝國軍人たちの、居場所……」


 分からなくはない。

 カーラックを思い出せば、むしろ同情すらしてしまう。


 感情を持つがゆえに差別され、蔑視され続けた人々がようやく得た、帝國という居場所。

 それがどのような形であろうと、彼らには帝國しか居場所がないのだ。

 俺たちからすれば魔王と同等のデスプラネットが、帝國の人々にとっては誇りであり、尊厳の源となるのだ。


 世の中を善と悪という簡単な枠組みに当てはめることは、できないのである。


 だからなんだ。俺は俺の道を行く。


「その居場所が理不尽に他人の命を奪うなら、俺はデスプラネットを吹き飛ばすし、帝國もぶっ潰す。メイティは? お前はどうする?」


 少し酷な質問かと俺は思った。

 だがメイティは、間を置かずに力強く答える。


「……わたしは、戦いから、逃げない……帝國のみんなも、守る……わたし、この世界の勇者、だから……」


 何もかもを諦め、ただ逃げ続けるだけのメイティは、もうどこにもいない。

 俺の側にいるメイティは、『ステラー』を救う勇者なのだ。

 死から目を背けることなく、己の力で人々の命を救おうとする、立派な勇者なのだ。


 メイティの言葉を聞いたフユメは、優しく笑ってメイティの頭を撫でる。

 愛弟子の立派な姿に、伝説のマスターである俺も負けてはいられない。


「それじゃあ帝國に、世界を破壊する力じゃ世界を救う力には勝てないって、俺たちが教えてやろう!」


 だんだんと勝利への自信が溢れてきた。

 この戦いに勝ってみせる。俺たちはそれだけの思いを胸に、廊下を走り続けた。


 走り続けていたのだが、曲がり角から飛び出した小さなドロイドが、俺の頭にぶつかってくる。


「イテッ!」


《前方不注意、失礼しました》


「ソラトさん! 帝國のドロイドです!」


「マジかよ!?」


《不審者発見。警報――》


「クソ! 少し黙ってろ!」


 こんなところで帝國に見つかるわけにはいかない。

 赤と青のライトを点滅させたドロイドに、俺は掴みかかった。


 ボウリングの球と変わらぬサイズのドロイドだ。両手で掴んでしまえば、その動きを抑えることはできる。


 ただし、ドロイドの反撃には対処できなかった。

 ドロイドから伸びた細いアームが、そっと俺の首元に触れる。


「あああああぁぁぁぁ!!!」


 内臓を焦がすかのような強烈な電流が、俺の全身を駆け巡った。

 体の自由は奪われ、神経は好き勝手にのたうちまわり、五感は麻痺していく。

次回 第4章16話『……お返し……』

ラグルエル「ドロイドとの一悶着。けれども、そのおかげでクラサカ君は、新しい魔法を覚えることに成功したみたい」

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