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俺の四十九日まで

作者: 伊藤終

 俺は死んでしまった。あっけないものだ。


 俺はまあまあ一流とも言える大学に入学した。なんちゃって留学もした。卒業後は、不景気な時代だったが何とか外食産業に就職し、そのままがむしゃらに働いた。金がたまったら何かしようと思っていて、友人には本格的に留学したいんだと言ってあった。今思えばどこまで本気だったのかよくわからないが、俺はある日の帰り道、脳内出血で道にぶっ倒れて即死した。

 

 俺は死後の世界へ向かいながら、俺が離れていく世界のことを思い出していた。子供の頃。まだ若かった親父と庭で遊んだこと。朝顔が咲いていた。何となく親父が、ツタが絡まるというネットを買ってきて、窓の外にタープのように設置しながら、「いつかツタが絡まって、ここに緑のカーテンが出来る」と言った。すぐにその家を引っ越すことになったから、緑のカーテンは見られなかったけど。うちには母親がいなかったから、父親の思い出しかない。

 大学時代の友人が、「彼とは、お金がたまったから、留学したいという話をしていて、これから、というところだったのに」と悲しみながら、友人たちにメールを送っていた。親父はみっともないくらいに声を上げて泣いてくれた。いつも強い親父だと思っていたから、孫の顔を見せてやれなくてごめんとは思ったけど、俺はありもしない胸がしめつけられるような、温まるような気持ちがした。


 俺は死後の世界を歩き、なんとなく閻魔堂へ来た。


 閻魔様に会ったわけではないが、ぞろぞろと他の死者もいるのかと思いきや、自分しかいない。そんなはずはないが、自分しかいないような形で審判を受けるらしい。何人か、閻魔様に似ているおっさんたちがいて、色々な話を聞きとられた。

 そのあとは待合室でしばらく待つように言われ、ツルツルした素材の床にうっすら映る自分の影を見ながら、ぼんやりと大きな大きな長いベンチの片隅に座っていると、老婆に呼ばれた。俺は、これで審判がおりるのかなと思いながら、声がしたほうへツルツルの床を歩いて行った。


「まだね、決まったってわけじゃないんですけど、まあ、だいたい決まりました」

「はあ」

 俺は自分の死に際があっけなかったのと同じくらい、こんなもんか、という気分を味わっていた。死んでからどれくらいの時間が経ったのかわからない。ずいぶん長い時間が経ったような気もするし、ちょっとしか経っていない気もする。親父たちはまだ俺の葬式をやっているのか、もう何十会期みたいになっているのか、そもそも親父はまだ生きてるのかな。まあいいや、なんだって。

「あなたの生前の様子はね、まあ、悪人ってわけじゃないけど、特別良くもないんですよね」

「はあ…」

「えーっとね、たとえば」

 老婆は俺の目の前に、灰色の無機質なデスクに座り、無機質なA4のクリップボードに挟まった灰色の紙をペラっとめくりながら話していた。

「あなた、ちょっと前に、夜中に歩いていて、苦しんでる子猫を見たでしょ」

「ああ…。覚えてます」

「それだけ?」

「いや、えっと」

 俺は油断していた。おそらく、この回答は、俺の命運を握るものになるんだ。

「猫が…すげえ声を上げて、ふぎゃあああって、叫んで、起き上がれないのか、グルグル道の上を猛烈に回転してました。道路には血が付いていて、車に撥ねられたのかなって思いました」

 老婆は黙って、見ていた紙を脇に置き、俺のほうに体も目も、全てを向けた。

「俺は、ケガしてるのかなって思ったけど、あまりにも…子猫が激しく暴れてるから、元気なのか、よくわからなくなって、ビックリして見てて…一回ピタっと止まって動かなくなったけど、またしばらくすると、ぎゃああああってすげえ声を上げながら回転して、それで…」

「それで?」

「子猫は、動かなくなりました。どういうことなのか、わからなかったけど、あの猫は、死んだんですか?」

 俺は思わず、褒められもしないような、何のこともないようなことを、適当に言ってしまった。ただそれは俺の純粋な本心だった。

「知りません」

 老婆の回答は、期待した情報を俺に与えてはくれなかったが、俺はがっかりする代わりに、自分だってもう死んでいるのだ、と、思い出した。

 あの猫も、きっと、あの時が断末魔で、そして死んだんだろう。

 

 老婆はまた資料を手にとって、更に資料をめくりながら、ちらっと横目で俺の顔を見た。

「電車で、50代くらいの男性の隣に座ったことがあったでしょ」

 猫の話題があったから、ピンときた。

「ありました」

 それで、わかった。

「あの人は、亡くなっていたんですね」

「それは、知らない」

 老婆はまた、そういう風に曖昧に言ったが、こうやって話題にされるからには、亡くなったんだろ、と俺は思った。

「俺は…ただ、隣に座って…。それで、隣の親父がすげえ寝てて」

 本当に、すげえ、寝てた。

「体から力が抜けてるというか、本当に、電車が揺れるたびに、ぐわんぐわん、俺にもたれかかってきて。それで、俺は、こいつ邪魔だなと思って、時々両手で押し戻して、うまく座らせようとしました」

 そのまま俺は電車を降りた。

 それは、この駅で折り返すという終着駅で、当然俺もまわりの人間も全員降りた。それなのに、そのおっさんは寝たままで、そのまま座っていた。

 あのおっさん、どうするのかなと思ったら、駅員がやってきた。

「声は聞こえなかったけど、駅員が何か話かけて、おっさんを起こそうとしていて、なかなかおっさんが起きないもんで、駅員が少しかがみこんで、何言ってるかわからないけど、お客さん、お客さん!? って感じで激しく起こそうとしてて、おっさんの体には力が入ってなかった」

 老婆はまた、気が付くと、資料を脇に置いて、俺をじっと見ていた。

 俺は今度こそ、緊張した。

「それで?」

「向かいのホームにやってきた、乗り換え先の電車に乗りました」


 老婆が相変わらず資料をパラパラと、めくったり、戻ったりしている。

 もう、ずっとこんな時間が続いている。

 俺は、じっとパイプ椅子みたいな簡単な、灰色の椅子に座ったまま、老婆が何かを言い渡すのを待っている。

「忘れてることがあるみたいだから、教えますけどね」

「…はい」

「今日あなたが話してくれたこと。その体験のあと、あなた、電話してますよね」

 電話。

 俺はその頃、いつも電話してた。誰かに。誰かにではあるけど、まあ、だいたいは当時付き合っていた彼女に甘えまくっていたから、彼女に電話していた。彼女は俺の母親みたいに俺の面倒を見ていたけど、生活面では彼女のほうがいろいろだらしなくて、俺のほうが生活力があって、料理したり、車で送り迎えしたり、俺があれこれ叱ったりして、面倒を見ていた。だが、いつからか、面倒を見ているんだか見られているんだか、何がなんだかわからなくなって、俺は振られた。とにかく多分、束縛と言うか、説教したりとか、責めるようなことを言いすぎたんだと思う。学生時代から、社会人になってもずっと付き合っていて、何でも話して、いつも甘えていたけど、別れた時の喪失感はものすごく、それでも俺は、最後の最後には、笑って彼女を送ろうと心に決めて、いよいよ最後となった駅で俺は電車をおりて、びっくりしてぷっくり頬を膨らませてた彼女に満面の笑みを見せて、さようならに変えたんだった。

 彼女は俺の太陽だった。

 どうしても、どうしても、彼女なしでは生きられないのに、と思った。

「俺は、彼女に電話して…。とにかく、あったことを、そのまま話して。俺は、死んだ人の隣に座っていたのかなって、でも、真実は知りたくないし、びっくりするくらい、俺は平常心で、取り乱してないんだって話しました」


「あなたね」老婆は長い時間を使いながら、最後のほうにやっと、ちょっとはっきりしたことを言った。「本当にね、ぎりぎり、どうしようかなってところでね」

「はあ…」

「まあ、ちょっと判断できないから、待合室に行ってもらうけど、そこでちょっと、文章を書いてもらいます」

 俺はよくわからないままに、紙とペンを渡された。

 老婆はそれを、彼女がずっと持っていたのと同じ灰色のクリップボードに挟んで、俺に渡した。


 待合室には、相変わらず誰もいなかった。

 俺は、「何か文章」を書くことになった。


 でも、何か文章って言ったって…どういう判断材料になるのか。何か、良い人間が書きそうなことを書く? いやいや、そんなの、何かバレてしまって、むしろ悪い結末になったりしそうじゃないか? ありのままに俺らしく書くしかないだろ。でも、ただ生きてきた状態で「ぎりぎり」って言われてるのに、俺らしく書いて何かプラスになるか?


 ずーっと、ずっと考えていた。

 本当にずっと考えていたのか、本当は短い時間だったのかわからないが、どうしようもなくなって、俺はとうとう、ペンを紙の上のほうに近づけた。勇気を出してもっと近づけると、白紙の一番上に点がついた。そこからペン先を離すことが出来ず、でも書き始めることも出来ず、俺は目を閉じた。


 俺は、何を書くのかな…。

 死んでしまった猫。いつもだったら、近所であんな子猫を見たら、カワイイって思ってただろうし、彼女にも電話で、カワイイ子猫がいたんだって報告していただろう。帰り道はいつも彼女と長電話をしながら歩いていた。あの朝、死んでいたらしい、見知らぬおっさん、あの人にも家族がいて朝普通に家を出たんだろうけど、あっという間に消えていったんだ。それにしては、あんまりにも生きてるみたいな、生きてる見知らぬ人みたいな、そんな、物質だったんだよな。本当に、おっさん、って感じだったけど、あれは…。

「死んだ人間だったんだな」

 そう、はっきりわかっていたら、「亡くなった人でした」と言われていたら、俺はもっと取り乱したり、違うことを彼女に話したかな? 俺は確か、死に接触したのかもしれないが、自分でもよくわからないくらい、普通で、駅も日常のままで、落ち着いていて、よくわからないんだって話した気がする。彼女がどんな反応をしていたのか、よく覚えていない。彼女について強烈に覚えているのは、別れを切り出されるよりずっと前に、悲しい顔で「絶対に射止めてね」と言われたことだ。俺は「なんだそんなの、当たり前じゃん」と思って、大した反応をしなかったが、彼女は悲しそうに、真剣な顔をしていた。最終的に俺は振られた。振られた電話も…。

 

「俺は、ひどい喧嘩をしちゃったなと思って、彼女が話しているのに、帰り道で電話を耳から離して、まったく話を聞かずに歩いたんだ。家の近所の坂道までずっとそうして歩いて、それで気が付いたら電話は切れていた。彼女は何かを話してた。俺は聞かなかった」

 書くのではなく、俺は声にだして話していた。気が付くと、悲しい気持ちになっていた。このことは、その直後にも彼女にいっぱい謝ったし、彼女は驚いたけど許してくれた。すぐ後に、ピクニックに行って…それで、でも、俺が「別れたいって言ったり、未来のこと話したり、どっちなんだよ」って冗談まじりに軽く言ったら、決意したように、改めて、別れを告げられたんだった。俺は取り乱した。

「取り乱したけど、俺は彼女依存症になってたから、それを諭されて、俺は努力して一人でもきちんと生きられるように努力した。彼女が会いたくないって言うから手紙を書いた。彼女は返事をくれた。俺はいつか、かならず迎えに行くって思って、もがいた。それでも、彼女は急に、別の男と結婚するって言いだして、俺は慌てて彼女の家の前に行って、本当に、体がちぎれるくらいの気持ちで会いにいって、結婚してくれって、初めて言った。何度も話に行った。最後に、俺のきちんと片付いて生活力のある部屋だけ見てくれって言って、見に来てもらった。最後にハグだけしたら、俺たちの間には愛情がしっかりあって、お互いのことを大切に思っていることが完全にわかった。だけど、俺たちは完全に別れた」


 取り乱して、泣きまくって、友人に会って泣きわめいた自分を思い出した。

 それでも、紙とペンは動かなかった。


 俺は、長い長い間、じっとしていた。


 死んでしまう俺なんかと、彼女は結婚しなくて良かったんだ。


 ばあさんは、ぼけてしまって、可哀そうだなと思ったけど、俺が死んでしまったんだから、ぼけてしまって、わからなくて逆に良かったんだ。


 前向きになれそうな気もしたが、どうにもならなかった。俺は停止することしか出来なかった。


 ふと、いつ見たのかもわからない朝日のことを思い出した。

 キラキラしていて… どこかに反射して…

 よくわからないが、若かった親父の顔を思い出した。

 俺の顔を覗き込んで、「何やってるんだ」みたいなことを言って笑っていた。


 俺は白紙の上にペンを走らせた。


 親父へ


 俺は、死んでしまいました。

 本当にごめんなさい。

 金も時間もかけて育ててもらって、それなりに成長したつもりでしたが、俺自身の不摂生が元で、急に死んでしまって、めんくらったでしょう。葬式も、俺が出してやるのが本当の順番だったと思うけど、本当にごめん。ごめん、しか、書くことがありません。

 今から俺は、地獄に行くかもしれませんが、そうなったら地獄でちゃんと働いて、親父に迷惑がかからないようにします。親父は今から結婚とかは難しいかもしれないけど、よくわからないけど、俺は親父が幸せになるのを祈っています。ばあさんの見舞いは、行けるうちは、いっぱい行ってください。でも無理はしないで、悲しかったら好きな釣りに行って


 …ここまで書いて、また俺の手は止まってしまった。

 何を書いているのか、わからなくなってきた。

 何を命令してるんだ、俺は死んでしまった、ひどい息子なのに。でもまあ、俺が悪いとは親父は思わないだろうし、俺もぶっちゃけ本当に俺が悪いとは思っていない。もう、いいんじゃないか? 俺は続きに何を書けばいいのか、じっと停止して、考えた。


 親父、

 ごめん。ごめん。ごめん。

 俺が酔って帰って、マンションで吐いたりしょんべんした時、俺が風呂に入ってる間に掃除しに行ってくれてありがとう。本当に感謝しかないです。みっともない息子でごめん。そこまでして育ててくれたのに、ちょっとは良い大学に行って喜ばせてやれたのに、ぬか喜びというか一瞬の喜びで、テキトーな会社に入って、自分で体調管理も出来ないでへらへら働いて、愚痴ばっか言って、その果てにころっと死んでごめん。

 俺も、まさか死ぬとは思ってなかった! これは、本当に、今からはごめんとしか言えない。

 親父、ごめん。ごめん、ごめん。ごめん、ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい。

 親父に会えたら嬉しい。でも会えないのはわかってる。悲しませてごめん。


 俺は泣いていた。

 そこへ、老婆が戻ってきた。

「さっきと同じ部屋へどうぞ」


 老婆は、俺が書いた文章を読んでいた。無感動な表情だ。ちら、ちら、と軽い感じで読んでいる。

 しかし俺は急に自信が湧いてきた。どういう結果になっても良い。書きたいことは書いた。それに何となく、悪い結果にはならなさそうな気がする。

「あっ」

 急に老婆が声を出した。

「お知らせだ、あ、葬式だ、あなた、ちょっと、別の部屋に行きますよ、そこから扉を出て歩いていくことになるから」


 俺は彼女と付き合っていたことを家族に伝えていなかったから、彼女には、俺の死は伝わってないだろう。連絡先も消してたし。やがて知ることもあるかもな。幸せにな…。センチメンタルな気分でもあるが、やけに冷静だった。気が付くと、俺は白い旅装束に着替えさせられていた。


「ここから、ずっと歩きだから」

 老婆に言われた。

「手甲、脚絆、ちゃんと生前の近しい人たちが用意してくれたみたいで、良かったですね」

 声に全く感情が籠っていない。

 俺は心配になってきたので、言った。

「あの…俺の、審判はどうなったんですか」

「審判?」

「はい…俺は地獄に行くんですか」

 言いながら、行かないだろうと思っていた。

「わかりませんけど」

 老婆はそっけなくて、表情が無かった。

「あのね、こっからずっと歩きだから。生前の付き合いのあった人とかがね、お経をあげてくれたりとか、色々してくれると、元気で歩けます。そうじゃない人もいるけど、そこは、どうなるのか良くわからないって感じで。私もね…行くことって無いから。とにかく歩いてみて」

「ずっとって、どれくらい歩きなんですかね」

「さあ…49日くらいは続くってコースだけどね」

「四十九日ですか」

「そう、家族が、その葬式にしてたから」

「仏教ですか?」

「そうだね」

「えーと、それで…あの、歩いていて、他の人に会うってことあるんですか?」

「無いね」


「お互いに、会うってことは、無いのよ」


 俺は闇の中に歩みを進めながら、ちょっとだけ気になって、振り返った。

 彼女と別れる時に、電車を降りながら振り返ったことを思い出したが、老婆は俺の恋人ではなかった。

 それでも俺は、一応、笑顔を作った。

「ありがとうございました。あの…」


 老婆は砂になって、どさっと落ちるようにそこから消えてしまい、俺は闇の中に一人になった。


 驚きのあまり、俺は茫然となった。


 もう一度、今から行こうと思っていた方向を見ると、うっすらと白く石畳が闇に浮かび上がっていて、数メートル先までなら見える、と言う感じだった。俺はどうしようもなくなって、砂の山になった老婆に一例をして、石畳の上に足を進めた。


 数歩歩いてまた振り返ると、砂の山も見えなかった。あの老婆が、俺の彼女の化身だったとか、そういうことも考えたが、結局、考えたってわからない。


 俺は前に向かって歩いた。親父が普通に仏教の葬式をあげたから、四十九日まで歩くことになったのか、この闇の中を? ちょっとそれはどうなのかと思ったが、親父も悪い気持ちでそうしたんじゃないだろうから、仕方ない。闇の中で何があるのか、親父は四十九日まで供養してくれるのか、してくれそうだけど途中で倒れたりしないのか、わからない。心配したってわからない。


 ばあさんはどうなったのか、わからない。みんなわからない。結局、子猫の話も、電車で隣になったおっさんのことも、俺の運命を左右しているんだかわからない。この先に閻魔様がいるのかどうかも…。


 子猫も、この道を歩いたのかな。そうだとしたら、四十九日まで供養されてないだろうから、どうなったかな。俺は励ますぞ、猫に届け、この気持ち。歩みを無言で進めながら思う。まだ歩けているってことは、親父が俺を供養してるってことだろう。それは、そう信じておこう。どれくらい歩いたのかわからないから、まだまだ最初のほうかもしれないけど。

 ただ、闇の中を、数メートル先までしか見えない、うっすらとした白い石畳の上を歩く。あれこれ考えながらも、良くわからないまま、ただ歩く。誰もいなくて、誰とも相談できなくて…。


 俺は、生きていた時からそうだったんだな。

 勝手に… 一人で生きてたんだな


 涙が出ているのかどうか、自分でもわからない。ただ、何しろ、何もわからないまま、ただ、どれだけ続くのかもわからないまま歩く。生前と変わらないじゃないか。親父、ごめんな。ごめんとは思うけど、なんか、よくわからない。

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