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まだ君が僕を呼んでいる  作者: 甘宮るい
第二章「それでもそれは、正しい選択」
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第二章/第一話「彼女も彼も救わなければならない義務がある」



 あれから彼女の日記を1ページずつ読みながら、彼女に縋るように彼女を忘れないように毎日を過ごしていった。

大学入学後の雑費を貯めるためのアルバイトと受験勉強に、時間を使った。不良だった頃の友人とは縁を切った。生まれて初めてのお酒を一緒に飲んだ親友は、最後に姉が使っていたといういらない問題集を譲ってくれた。

 その時の俺の行動の理由は、大学に行きたくなったとか先生を目指したくなったとか、そんな綺麗なものではなかった。

俺は結局どうもできなかった。どうすればいいかを何度考えても、答えは出なかった。彼女のことは完結してしまっていた。けれど俺は彼女の死を受け止められなかった。彼女はまだ、生きている。彼女の希望を叶えたら生き返る。そんなことを考えるようになった。受け入れる器がなかった。彼女が目の前で落ちていく、あの記憶をなかったことにした。可能性を生み出して縋った。息をするのが精一杯だった。

彼女の日記にはたくさん俺のことが書かれていから余計に辛かった。

俺は彼女の背中を追いかけて、真っ暗な先もない道を進んだ。


 先生になるのかもはっきりしないまま、俺は彼女が死んではじめての夏を迎えた。その夏、初めて教師という職業について調べた。競争率が高いことを知っても、自分が社会科の先生にも教師という職業にも合っていないと思っていても、彼女へ動く足が止まらなかった。

受験する大学を決めた。

 彼女が死んで1年経つ頃にはセンター試験に向けて勉強に励んでいた。前期試験でトップの成績を収められるなら、学長推薦枠で入学費が半分になる。それを狙って俺は計画を立てて本気でそれを狙いに行った。

 会長様への執着か母親への気持ちかはわからなかったが、結果として俺は学長推薦枠での入学になった。

 その頃から兄貴は以前の落ち着いた姿を取り戻そうとしていた。大学入学後のことを考え合格後も勉強にのめり込んでいた俺を励ましてくれた。お前はすごいな、と褒められた。

 俺はそれでも俺がすごいとは思えなかった。まだまだ会長様の背中に手を伸ばしていた。


 入学までの期間ずっと、あの音の正体について考え続けた。

俺は、彼女の悲鳴だったという結論を出した。やっぱり幻聴だとは思えなかった。悲鳴以上に納得のいく答えは何も浮かばなかった。どうして俺だけに聞こえていたのかもわからなかった。俺だけに聞こえていたというより、何らかの体質を持つ人間にだけ聞こえるのかと思って調べたりもしたが、結局何もわからないままだった。俺に助けを求めていたからなのかそれとも別の理由か、俺がおかしいのか。あの時、コンビ二の店員も職員室にいるはずの教師も反応はしなかった。大きな音がしたこともあったのだから、学校の警備員や教師が駆けつけてもおかしくない。コンビニの店員だって変な音がしたら、せめて確認するために動いたりするのではないだろうか。俺以外の人間が気づいてもいいはずなのに、誰一人反応しているところを見ていないのはおかしい。

最終的に俺はオカルト掲示板を2日漁って、一度諦めることにした。それからはずっと深く考えないようにしている。



 入学式の日、俺は新入生代表の挨拶をした。大学生活に差し支えない程度の友達を作った。

 前期、きちんと結果を残して他大学との交流会議を任された。交流会ではしっかりと意見交換そしてレポートの発表を完璧にこなした。教授にも褒められた。夏休みも気を抜かず勉強した。

その競争に負けては彼女に手は届かない。

 そして夏の暑さも落ち着いた頃、俺はまた耳にした。大学で俺と並ぶ成績を収めた一番仲のいい親友ノアは、あの時と似たそれでも違う音を出していた。耳に響く感覚はあの時のままだった。音は違うはずなのに、頭を針でかき回すような機械音。夏休みが終わるまであと2週間を切った9月下旬の今日、俺は彼とたまたま会った。

 彼女の時のように声が遮られ、彼からそれが確かに聞こえた。

 あの時、俄かに信じられなかった出来事は確かにあった。どうしても、会長様が死んだ事実を突きつけられる。逃げられなくなる。あの音を俺は確かに聞いていたとその瞬間、俺は確信してしまった。通行人の誰も彼の方を振り向かなかった。耳を裂くような音だった。気づかない人がいてもおかしくはないけれど、誰も気づかないのはおかしいような音だった。ノアの横を通り過ぎて行った女性はノアの方を見ることすらなかった。

 彼女から聞こえたあの音が、彼女が俺に助けを求めているから故のものだったなら。そう仮定すればノアは彼女と同じように助けを求めていることになる。彼女のように死の誘惑に苦しんでいるのかどうか、それはわからない。けれど、ノアが助けを求めている状況だと仮定してしまえば、彼を俺は救わなければならない。

 “HELPME”なんて声にならない悲鳴を、どうして彼から聞いてしまったのか。俺は納得できないままでいられない。あるかもしれない可能性も、無視できない残酷な仮定も、放っておけない。

 俺は救わなければならない。



修正が完了しましたので、ゆっくりとまたUPしていこうと思います。

よろしくお願いします。

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