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まだ君が僕を呼んでいる  作者: 甘宮るい
第一章「フェンス越しの彼女」
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第二話「生徒会長様」


 大晦日の前日、夜11時まで俺は不良仲間たちと騒いで回った。家路につくと、急に訪れた静寂に包まれる。いつもは日を跨ぐまで遊んでいるのに、年の瀬だからかそれとも寒いからか、気づいたら解散の流れになっていた。

「家に帰るの、クソほど億劫」

 そう言ってため息をつくと、後ろから声が返ってきた。

「語彙力があるのか、ないのかはっきりしない文ね」

 この時間にはもうベッドに入っていそうな、夜に似つかわしくない女だった。

「また補導ですか、今日煙草持ってないですよ」

「いいえ、補導じゃないわ」

「っていうか、会長様なのにこんな時間に出歩いていいんですか」

 彼女が生徒会長じゃなくても、女子高校生が出歩いていれば注意されるような時間だ。

「秀才樟山くんこそ、補習明けくらい勉強したら?どうせ遊び帰りでしょ」

「秀才?何、世迷言を」

「世迷言って使ってみたかった?」

 相変わらず厭味ったらしい。

「……」

「今日くらい、いいじゃない。悪いことしたって」

「生徒会長様に悪いことなんて似合いませんって、やり方もわかんないでしょ」

「クソほど秀才な樟山に教えてもらうわ」

「……汚い言葉の使い方もいります?」

「馬鹿にしないで」

 怒った顔はなんだかいつもより女っぽかった。


 他愛無い話をしながら行く宛てもなく歩いた。彼女を家に帰したほうがいいとか、そういう類のことを考えたりもしたけれど、今は言い出さないほうがいいと思った。それに、俺もまだ家に帰りたくはなかった。

「寒いね、ほんと。冷凍庫の」

「中ですか」

「そうね、冷凍庫の中みたい。あーあ、こんなに寒いなら雪くらい降ればね、幻想的で素敵なのに」

「帰れなくなりますよ」

「……帰れないほうがいいわ」

 30分ほどすると、俺たちは何もしゃべらなくなった。寒い、から始まる話は底を尽きた。

 足元が寒い。耳も寒い、もう感覚がなくなってきていた。なのに、家とは反対方向へと足を進める。きっと、彼女の家からも遠くなっていっている。

「肉まん、食べたくならない?」

「肉まんですか」

「ラーメンでもいいわ」

「なんか」

「なによ」

「女ってより男っすね」

 口から出てくる食品が、何とも言えないラインナップで笑ってしまった。そこら辺の残念な女は、ここでラーメンも肉まんも挙げたりしないだろう。

「何が言いたいの、何を食べたって自由でしょ」

 そういう会長様に、俺は肉まんを奢った。冗談半分だったのか、彼女は財布を持っていなかった。後で返すという彼女に俺は内緒にしてください、と言って煙草に火をつけた。そのまま無理やり彼女の口に捻じ込んでやると、彼女は噎せ返った。咳き込みながら怒って、でも楽しそうに笑った。

 彼女は肉まんの入った袋を寒空に挙げてまた笑うと、帰っていった。

 何だか彼女の本質を見た気になって、珍しく鼻歌を歌った。


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