第二話「生徒会長様」
大晦日の前日、夜11時まで俺は不良仲間たちと騒いで回った。家路につくと、急に訪れた静寂に包まれる。いつもは日を跨ぐまで遊んでいるのに、年の瀬だからかそれとも寒いからか、気づいたら解散の流れになっていた。
「家に帰るの、クソほど億劫」
そう言ってため息をつくと、後ろから声が返ってきた。
「語彙力があるのか、ないのかはっきりしない文ね」
この時間にはもうベッドに入っていそうな、夜に似つかわしくない女だった。
「また補導ですか、今日煙草持ってないですよ」
「いいえ、補導じゃないわ」
「っていうか、会長様なのにこんな時間に出歩いていいんですか」
彼女が生徒会長じゃなくても、女子高校生が出歩いていれば注意されるような時間だ。
「秀才樟山くんこそ、補習明けくらい勉強したら?どうせ遊び帰りでしょ」
「秀才?何、世迷言を」
「世迷言って使ってみたかった?」
相変わらず厭味ったらしい。
「……」
「今日くらい、いいじゃない。悪いことしたって」
「生徒会長様に悪いことなんて似合いませんって、やり方もわかんないでしょ」
「クソほど秀才な樟山に教えてもらうわ」
「……汚い言葉の使い方もいります?」
「馬鹿にしないで」
怒った顔はなんだかいつもより女っぽかった。
他愛無い話をしながら行く宛てもなく歩いた。彼女を家に帰したほうがいいとか、そういう類のことを考えたりもしたけれど、今は言い出さないほうがいいと思った。それに、俺もまだ家に帰りたくはなかった。
「寒いね、ほんと。冷凍庫の」
「中ですか」
「そうね、冷凍庫の中みたい。あーあ、こんなに寒いなら雪くらい降ればね、幻想的で素敵なのに」
「帰れなくなりますよ」
「……帰れないほうがいいわ」
30分ほどすると、俺たちは何もしゃべらなくなった。寒い、から始まる話は底を尽きた。
足元が寒い。耳も寒い、もう感覚がなくなってきていた。なのに、家とは反対方向へと足を進める。きっと、彼女の家からも遠くなっていっている。
「肉まん、食べたくならない?」
「肉まんですか」
「ラーメンでもいいわ」
「なんか」
「なによ」
「女ってより男っすね」
口から出てくる食品が、何とも言えないラインナップで笑ってしまった。そこら辺の残念な女は、ここでラーメンも肉まんも挙げたりしないだろう。
「何が言いたいの、何を食べたって自由でしょ」
そういう会長様に、俺は肉まんを奢った。冗談半分だったのか、彼女は財布を持っていなかった。後で返すという彼女に俺は内緒にしてください、と言って煙草に火をつけた。そのまま無理やり彼女の口に捻じ込んでやると、彼女は噎せ返った。咳き込みながら怒って、でも楽しそうに笑った。
彼女は肉まんの入った袋を寒空に挙げてまた笑うと、帰っていった。
何だか彼女の本質を見た気になって、珍しく鼻歌を歌った。