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小説家になるには 心象スケッチ  作者: 白いテノール
1/1

白波

八手で地面を搔くような音をたてながら、黄色の落ち葉が転がっている。

 風たちぬ 水面白波 扇型

言葉の欠片がふと口から湧き出る。

堀辰雄の「風たちぬ」を読んで以来、草花木、緑に関する物を見るとつい、詩の様な句のようなものを作りたくなってしまう。

だが、それらに関する知識に乏しい私は、名文を望んだところで、したためる事はかなわない。勉強不足である。

だからとりあえず眼に見える物をありのままに文章にする、いつか眼に見えぬものを形にするための練習のようなことをしていた。

草や落ち葉に敷かれた土。私はその坂の上に腰を下ろし景色を眺めている。

・・・水溜りの中心に生える大樹。その水溜まりの周りを駆ける白地に茶色の子犬。

 後ろからリードを掴む中年の男が追いかける。あの犬の飼い主だろう。

解放、無縛、疾走。

子犬は飼い主も首につながれた首輪もリードもかまわず、自由奔放に駆け回っていた。

子犬は坂を駆け上って私の姿を認めると一つ低く吠えた。

そこで飼い主が追い抜き、手に持っていたリードを慌てて引っ張る。

子犬は飼い主とともに坂の向こうへと消えていった。

・・・二人の老夫婦が三つ並んだ板製ベンチテーブルの左側の方に歩いている。妻がベンチテーブルに手提げのかばんを置いた。そしてベンチに腰を下ろした。

夫は、柔軟体操を始める。寒いから、二人は厚い格好をしていた。妻がレモンティーのペットボトルを飲んだ。

・・・昨日は台風が通り過ぎた。大樹がよく揺れる。松の木々はクヌギをたくさん落としていた。

クヌギはポケットがたくさんついているようなのが特徴的な卵型の木の実。

ぐりぐりとした感触は、猫が頬ずりしているようだった。

口に入れたくなったけど、まずそうなのでやめた。

・・・二人の父子がやってくる。小さな子供は小さな自転車に乗っていた。

どうやら最近、自転車に乗れるようになったらしく、とても楽しそうに走っていた。

坂を下りて、その勢いをうまく操り、先ほどの子犬のように水溜りを周る。

そして、水溜りの中へ自転車を乗り入れた。

とうぜんぬかるんでいるであろう水溜りの中の地面を笑顔でバシャバシャと水たまりを突き進んでゆく。

 「ねぇ。おとうさーん、ふかいよぉー?」

とうれしそうに笑顔で言う子供。父は只、口をあけて笑っていた。

その純粋さに眼を細めて眺めていた私は、背後から照らされる夕時の閃光を浴びていた。

・・・夕焼けチャイムの音があたりに響いている。


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