レビヤタンと、白い空
「飛ぶ?」
「そうさ」
彼が、空を指差した。すると、いつのまにかどこからともなく現れた無数の人影が、白い空に浮いていた。
「何だ、あれ!?」
「その馬車が、君のレビヤタンさ」
「レビ、何?」
僕がたずねると、少年はクジャクの羽を地面に敷いて、その上に乗った。すると羽が少年を乗せたまま少しずつ浮いて行き、みるみるうちに、彼のつま先は僕の目の高さに来た。
思い切り驚きつつも、僕はとっさに空の上の人々を見上げる。よく見ると、みんなそれぞれに何かの上に乗って浮遊しているのが分かった。たとえば、シルクハット。公園にあるようなベンチ。レンガ塀の破片。ホウキ。
人々が乗っているものはてんでバラバラだったが、誰もが当たり前のようにその上に立ち、上空を舞っている。
「何をレビヤタンにしているかは、人それぞれさ。君も、あの馬車に乗ってみるといい」
僕は一も二もなく、馬車のドアを開けた。
「違う違う。乗るというのは、上に乗るのさ。馬車の屋根の上に」
「上って、こう?」
僕はドアを足掛かりにして、馬車の上によじ登った。
「ようし、いいね。それじゃ、思い、求めてごらん。飛ぶ! と」
「飛ぶ!」
馬車が浮いた。
転がり落ちないようにバランスを取りながら、心の中で唱え続ける。飛ぶ! 飛ぶ!
声にしていない叫びに応えるように、馬車はどんどん上昇した。青白い少年も、僕と同じ高さに合わせて浮き上がって行った。
真っ黒い街が、はるか下に小さくなって行く。
「飛んでいる時は、塔や木に気をつけてくれ。地面と同じに真っ黒だから、よく見えないでぶつかることがあるからね」
「こ、これ、落ちたら死ぬよね?」
「金貨を握っている限り、転げ落ちたりしないよ。自分から飛び降りれば別だけども」