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13)職員玄関

吉田視点です。

 危なかった。

 震える幹原を抱きしめながら、俺は割れた鏡を睨む。

 この鏡もまた、あの幽霊の罠だったんだろう。

 

 踊り場で鏡を見ていた幹原が急に倒れて。

 咄嗟に抱きとめた。

 どんなに呼んでも返事がなくて、幹原は苦しげにうなされていて。


 なのに、不意に立ち上がったから、俺は慌てて押さえつけた。

 男の俺の力でも幹原は止まらなくて、虚ろな瞳のまま自分は邪魔なのだと呟いて。

 

 一か八かで、俺は鏡を蹴り飛ばした。

 割れろ、と渾身の力を込めて。

 鏡が割れた瞬間、幹原が正気に戻ってくれた。

 もしも鏡が割れなかったら、幹原はこの階段を落ちていたと思う。


 あの幽霊は、なんで、ここまで俺達を憎む?


 階段の最上階から下まで落ちたら、ただじゃすまない。

 怪我や骨折はもちろん、本当に運が悪ければ死ぬことだってある。

 薄暗い階段を見下ろすと、その高さにあらためて背筋が寒くなる。

 

 そこまでされる事を、俺や幹原がいつした?


 落ち着いてきた幹原の首元は、まだ赤い。

 俺が首を絞めた痕だ。

 なんで俺が幹原の首を絞めなきゃならなかった?

 幽霊に良いように操られて弄ばれているのが腹が立つ。


 くっそ。


「吉田、怒ってる……?」


 あ。

 幹原が勘違いした。

 苛立ちが漏れるけれど、それは自分の無力さとこの状況に追い込んだ幽霊に対してで。

 幹原に苛立つとかありえない。


「幽霊にね。正直、殴れるものなら一発殴ってやりたいよ」

「女の子だよ?」

「や、その前に実体ないだろ」

「そっかー」


 いや、そっかーじゃないから。

 幹原は、真面目なのにやっぱりどこか抜けているよな。

 最初に幽霊を見た時も、あまり怖がっていなかったし。

 だからこそほっとするし、なんか、肩の力が抜けた気がする。


「職員用玄関だけど、歩けそうか?」


 俺は、幹原の様子を確認する。

 さっきまで軽く足が震えていたけれど、もう行けそうかな。


「うん。大丈夫だと思う」


 頷く幹原から、そっと離れる。

 ずっと抱きしめたままだった。


 さっきは咄嗟だったけれど、あらためて自覚するとやばい。


「吉田?」

「なんでもない。いこうか」


 辺りが薄暗くてよかった。

 顔が間違いなく赤くなってる自覚があるよ。


 階段を無事に登りきり、二階の職員用玄関へ向かう。

 職員室の前を通る時、幹原が小首をかしげて中を覗く。


「やっぱり、誰もいないね」

「宿直は一人だけだからな」


 坂下をあの状態で家庭科室に置いてきたから、もう教師陣は残っていないと思う。


 幹原と夜の校舎に二人きりとか。

 正直見られると面倒な事になりそうだから、誰もいなくて良かった。

 阿野先生辺りに見つかったらどんな顔されるか、むしろどんな想像をされるか。

 まず確実に幹原が怒鳴り散らされそうだ。

 

 職員室のすぐ隣が職員用玄関だ。

 

「開いていないのね。向こうでは開いてたのにな……」


 幹原が残念そうに溜息をつく。

 

「向こう?」

「鏡の中っていうのかな? そこで職員用玄関が開いていたの。最後は砕け散っちゃったけど」


 一応、俺は手にした塩を少しかける。

 予想通り、塩は蒸発してしまった。

 しょんぼりと子犬みたいに肩を落とす幹原。

 あー、あれだ。


「とりあえず、手がかりを探すか」

「出口の?」

「いや、幽霊のかな。朝までどこかの部屋に篭る事もできるけれど、どうする?」

「篭ってても、安全じゃ、ないよね?」

「うん」


 むしろ危険かな。

 何もない部屋にこもっても、朝まで無事でいられるかどうか。

 一階ならまだ、教室の時のように襲われても下に落ちはしないけれどね。

 なにも下に落とすことだけが攻撃手段じゃないし。

 教室中の机が降ってくるとか、火をつけるとか。

 俺達を害する方法は正直山ほどあるよな。


「……わたし、幽霊の手がかりを探したいです」


 かなり悩んでから、幹原は頷いた。

 そうして。


 きゅくぅうぅ〜〜〜〜……


「あっ?!」

「お?」


 幹原のお腹から、音が鳴った。


「ここここ、これわっ、その、違います、違うんです」


 あー、幹原、顔真っ赤だよ。

 手をぶんぶん振ってさ。

 可愛いなぁ。

 

「あぁ、気にすんなよ。むしろこの時間なら腹空くだろ」

「〜〜〜〜〜〜〜っ」


 必死にお腹押さえなくても。

 思わずクッと笑いが漏れた。


「あっ、あっ、わらったっ」

「いや、わらってない笑ってない」

「こんなときにお腹がなるなんて、自分でもへんだと思うけどっ」


 わったわったと暴れる幹原。

 そんなに恥ずかしいかな?

 俺は気にならないけど。


 恥ずかしさにうち震える幹原の手を引いて、俺は新聞部に歩き出した。

 

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