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03 姉呼び。




 魔物アマン討伐隊スマラグのアスタ支部。

 朝の7時から、食堂で朝食が取れる。

 丸いテーブルに椅子の背凭れも、間の柱までも丸い。

 アスタ支部は、外形も丸みを帯びている建物だ。丸みに拘りでも持っているのだろうか。


「おはようございます! 訓練生のソーヤ、ナノン、リクノです」


 料理を盛り付けてくれる料理人のお姉さん達に、元気よく挨拶しながら3人の紹介をする。


「あっらー、可愛いわね! ルカゼちゃんも、見習いくん達も、たくさん食べて頑張ってね!」


 えくぼとともにシワが出来てくる笑顔が素敵な女性は、ふっくらした体型。

 ニッキーお姉さん。二十年のベテランさんだ。

 ポンッ、とスクランブルエッグを多めに盛りつけてくれる。


「オバチャン、ベーコンがいい」


 ソーヤが見上げながら、ぶっきらぼうに注文した。


「こら、ソーヤ。お姉さんと呼びなさい」

「は? どーみても、オバサンじゃん」

「なーに言ってんの。こんな素敵な笑顔、お姉さんじゃん」


 トレイを片手で持ち、もう片方でソーヤの頭を撫でる。頭皮を掻くように強め。ソーヤは思いっきり顔をしかめた。


「ルカゼちゃんったら、もう! おまけしちゃう!」

「やった、ありがとう! ニッキーお姉さん!」


 お姉さんと呼べば、いい笑顔を向けてもらえるし、たまにおまけをしてもらえる。そう呼んで当然でしょ。

 カリカリのベーコンを1枚もらえて、朝からラッキーだと上機嫌で1つの丸いテーブルにつく。

 私の向かいに、3人は寄り添うように並んだ。


「ルカゼ、ベーコンくれよ」

「ソーヤ。私の事はルカゼさんか、ルカゼ先輩か……ああ、いや、この際ルカゼお姉さんと呼びなさい」

「やだ」

「呼んだ人には生チョコあげる」


 生意気なソーヤにベーコンを1枚あげながら、呼び方について話す。

 昨日の生チョコを気に入ったらしく、3人揃って目を輝かせた。


「ルカゼ、おねえさん」


 リクノが一番乗り。


「お、お、おね、しゃん……」


 ナノンは聞き取れないくらい小さく呟いた。会ってから、初めてちゃんと声を聞いた気がする。

 ソーヤは自分だけが食べられないと、オロオロしだした。

 ん? ん? どうするよ、どうするよ?

 にこにこしながら、ソーヤの出方を待つ。


「……ルカゼ、ねえ……」


 屈辱そうに顔を歪めるから、おかしくて笑える。


「よし。じゃあ、おやつにやるから。朝御飯しっかり食べろ」


 今日も訓練所Bで魔力の扱う練習だ。


「つよければ、アマンたおせるんだろ。いまじゃだめなのか?」

「ボールだけじゃ倒せない。今のままでは、アマンを倒せないぞ」


 ぶっ飛ばすだけで倒せるのは、弱いアマンだけだ。


「ソーヤ達は、今走り方しか知らないようなものだ」


 右手の人差し指と中指で、テーブルの上を走る。それから、テクテクと歩かせた。


「歩き方さえ覚えれば、次は魔法だ。魔法は強い。強くなりたいなら、歩き方を覚えろ」


 ニッ、と笑みを向ける。魔法を学ぶのは、私は楽しいと思う。

 ここにいるのは、アマンを倒したいからだ。強さを求めるなら、きっと。

 ソーヤは張り切って、料理を平らげた。つられたようにリクノとナノンも続く。

 朝食を済ませてから、早速取りかかる。


「今日はキャッチボールをする。手を使わずに、私とキャッチボールが出来るようにするぞ」


 昨夜考えた結果、コントロールに意識がいくように、キャッチボールを使うことにした。

 訓練所の床に座り込んで、先ずは並んで座る3人と普通にキャッチボールをする。

 私が手に触れずに返すと、ナノンは驚き、剛球を打ち返してきて、私の頭にぶつけた。痛い。

 そんな危なっかしいキャッチボールを続けていくと、リクノがだんだんと加減が出来てきたように見えた。

 約束通り、3時のおやつには生チョコを二箱開けて、四人でわけあった。

 その夜、また泣きじゃくっていたので、私の部屋に連行。


「おやすみ」


 頬や額にキスをしてから、雑魚寝した。


 訓練3日目、リクノが漸く魔力を加減しながら私に投げ返すことが出来たが、他の二人はまだだ。


 訓練4日目、リクノには複数のボールを投げ付けて、宙で留める練習をさせた。受け止められず、頭にコツンとぶつけると、にへらと笑う。

 いつもポカンとしたり、じっと見上げるだけの無表情だったから、初の笑顔。

 そんなリクノに笑い返しながら、ソーヤとナノンとキャッチボールを続ける。相変わらず魔力を使うと、剛球を投げ返してきた。


 訓練5日目、リクノはもう魔力でお手玉まで出来るほど上達。

 ナノンの方は、弱々しくなら魔力でボールを投げ返せるようになった。

 ソーヤは力んでしまい、時々私の顔面に剛球がくる。


 6日目は、訓練はお休みで、私はハルバ部隊と任務に行く日。けれど、ソーヤにせがまれて、ギリギリまで部屋でキャッチボールをした。

 出動の時間になり、部屋を出ようとすると、ナノンが泣き付いた。頭にキスをして、ぐしゃりと撫でてから仕事に行く。

 帰ったのは、夜。

 ソーヤ達の部屋を見たら誰もいなくて焦ったけれど、私の部屋のベッドで雑魚寝をしていたので胸を撫で下ろす。


 訓練13日目。

 ナノンに続いて、ソーヤもまともにキャッチボールが出来るようになった。

 これでやっとスタートラインに立てた。


「よしっ!!! 次は楽しい楽しい魔法の時間だ!」


 私は分厚い本をドンと床に置いて、ニッと笑いかける。


「これからが訓練の本番だ」


 ソーヤ達が遊ばないように、ボールはカゴの中に全て魔力で放り込む。


「今ソーヤ達は訓練生だ。魔法を覚えて、戦い方を学ぶ。アマンと戦えるほどになったら、弱いアマンしか近寄らない訓練用の地域に行き、実演練習をするんだ。大体半年後だ。それで上手く戦えたら、合格。見回り訓練生になって、街の見回りをしつつ、鍛えられる期間に入る」


 前にもちょろっと話したけれど、念のためにもう一度。

 実際にアマンと対峙すると聞いて、ナノンが青ざめたので手を伸ばしてポンポンと撫でる。


「アマンの活動が鈍い冬の間に、レベル試験ってのがある。私はこの間、レベル5になった。見回り訓練生は、レベル2の試験にクリアしないと、部隊に所属が出来ない。現場には行けないってことだ。レベル2は確か、10の魔法と剣の魔法が合格条件だった。レベルが上がるにつれ、覚えなきゃいけない魔法が増え、条件も色々と増えていくんだ」


 ペラペラと捲りながら、これから教える魔法を確認する。ハルバ隊長に教えてもらったことを、私がそのまま教えるだけだ。


「レベル試験に受かるように、魔法も戦い方も学んでもらうぞ。覚悟しろよ」


 私は脅かすように言って、ニッと笑いかける。楽しいぞ。

 気合いは十分のようで、ソーヤは力強く頷いた。

 リクノも頷き、ナノンは小さくカクンカクンと頷く。

 最初は、基本中の基本。火、水、氷、風、雷、木による砲撃魔法。レベル1の魔法ともいう。

 訓練生の時点で訓練所以外で、魔法は使ってはいけない。そのルールを守ることを約束させてから、火の砲撃魔法を教えた。

 本に書かれた長い長い呪文を唱えれば、習得ができる。あとは使いこなすだけ。

 私は立ち上がって、胸の前に両手を構えた。


「先ずは炎をイメージ。頭に真っ赤で燃え上がる炎を思い浮かべるんだ。それから、呪文を唱える。【フー】」


 唱えればイメージ通りに、両手の中に炎が渦を巻く。本来は放つのだけれど、最小限の魔力で作り出し、球体で留める。


「簡単な呪文だ。こういう形にするのは難しいが、ボールを飛ばす感覚と同じ」


 手を叩くと同時に、炎を消した。


「さぁ、私に放って」


 試しにやるように言うと、3人ともギョッとする。


「くろこげになるぞ!?」


 口を開くのは、いつだってソーヤだ。

 リクノは少々冷めていて、ポケーとしているし、ナノンは俯いてばかりで無口。


「私は火から守られる【まじない】が、かかっているみたいだから心配ない。私の家族が死んだ日、村ごと壊滅して火の海になった。この【まじない】のおかげで、私は生き残れたらしい」


 全部かはわからないけれど、火の類いで怪我はしない。普通は物心もついていないような子どもにかけるわけないのだけれど、腕のいい魔法使いがそばにいてかけてくれたみたい。

 この【まじない】を正確にわかる人はいないし、不便どころか便利なのでそのままにしている。


「アマンに……おそわれたの?」


 リクノが口を開いた。


「そうらしい。私は赤子同然だったから、覚えてないんだけど」

「……」


 笑って答えると、リクノはまた口を閉じて黙る。

「さてさて、やってみろ」と指で招いて、急かした。

 残念ながら、その日は誰も出来なかった。爆発してすすだらけだ。

 なので終わってから、入浴場に連れていく。男性用と女性用に分かれている。


「なんでいっしょに、はいるんだよ!」

「お前らフケだらけで不潔だからだよ。念入りに洗ってやる」

「なんでハダカになるんだよ!」

「濡れた服は重いし、気持ち悪いからだよ」


 女性用の方に行くから嫌がられたけれど、照れるには早すぎ。ソーヤがうるさいので、タオルは巻き付けておく。


「まぁ、お母さんだと思え」

「……かーさんのほうが、おっきい」

「言うじゃないか」


 無理矢理入れて、念入りに髪を洗ってやり、湯船に首まで浸かって温まるように言う。

 他人に髪を洗われるのは久しぶりらしく、ソーヤとナノンは照れた。

 リクノだけは私の髪に興味を示して、じっと見上げてくる。

 黒髪だけれどもところどころ赤毛が混じるけれど、濡れると全体的に赤く見えるから。黒が強いの赤毛なんだろう。

 上がったあと、ドライヤーで乾かしていると、リクノもナノンも手を伸ばして触ってきた。


 その夜、また泣きじゃくっていたので、私の部屋に連行。


「おやすみ」


 ちゅっ、と額にキスをしてやり、狭いベッドで雑魚寝をした。


 翌朝はいつも通り、食堂で料理人のお姉さん達に挨拶。


「おねえさん! ベーコンおまけして!」


 元気よくソーヤがニカッと笑いかけたのを見て、私はクスリと笑った。




20151117

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