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 心理センターに戻ってから、楓は野久保に優良とのカウンセリングのことを話した。野久保もノートにとりつつ真剣に、楓の話を聴いていた。

「まじっすか?一旦よくなってから、悪くなるのはやばいかもですね…」

「そうだよね…」

野久保も深刻そうな顔をしたので、楓もますます思いつめた表情になった。

「なんかのケースの話ですか?」

そこに現れたのは、久留唯花であった。久留唯花は、現在博士後期課程2年の大学院生である。年は26歳で、楓の3年下の後輩だった。目は真ん丸として、笑えば、笑窪ができるとても可愛らしい女の子だ。臨床心理士の資格を取得して1年がたつ、カウンセラーとしては若手のホープである。

「いや…不登校の子なんだけど…」

楓は、思わず唯花にも事情を話しはじめた。唯花もその話を真剣に聴く。

 唯花は、大学入学以前、中学でいじめにあい、それから不登校で、学校に行くことができない日々を過ごしていたらしい。不登校については、実際に生身で体験しているカウンセラーである。

「唯花ちゃん、引きこもりって、回復しかけはきついのかな?」

楓は、唯花に聞いた。

「そうですね…私の場合は、回復しかけの時が、一番きつかったと言ったら一番きつかったかも…」

楓は、その話を聴いて頷く。

「あ…でも、私の場合いじめがはっきりとした原因だったんで、なんか、クラスのみんなに会うまでがきつかったていうか…」

「そうだよね…引きこもりも、原因が違えば、違うか」

唯花の話を聴いた、野久保はそう言って天を見上げた。


 午後からは大学院の心理センター内でやっているカウンセリングについてのカンファレンスがあった。カンファレンスとは、病院を舞台にしたドラマなどでよく耳にする言葉かもしれないが、あそこで見る風景の通り、そこに所属しているカウンセラーが一同にかいして、一つのカウンセリングケースについての検討会を行う。

 本日は、修士課程2年の大学院生が担当しているものであったが、楓はその話に全く集中できていなかった。この前に、優良のことについて話したせいか、そのことばかり気になっていた。

 楓は、それではいけないと思い、後輩がしているカウンセリングの概要に目を通した。その内容は、息子との関係性に悩む50代女性のケースであった。自分の子どもが思春期になった時に悩みを抱える親は少なくない。昨日、楓が米先生にスーパービジョンしていただいた、カウンセリングケースも反抗的な息子への悩みから、うつ病を発症している。

 それでは、優良の家庭はどうであろうか。あの家庭は、親が子に対して悩んでいるというより、親は子より恋愛を取る傾向が強く、子どもが親に対して悩んでいるような気がする。これらとは全く異質なものであろう。それかまだ、優良が気付いていない点があるのかもしれない。思い起こせば、楓はまだ優良の母親とじっくり話し込んだことがない。

「楓さん!」

そんなことを考えていると、楓を呼ぶ後輩たちの声が聞こえた。気づけば、カンファレンスは、グループ討議の時間に入っていた。カンファレンスはグループで別れて行い、最後に話し合い、担当しているカウンセラーへの助言を与えるという流れになっている。

「ああ…ごめん…」

全く話を聴いていなかった楓は、思わず周りの後輩に謝罪した。


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