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10時から1時間、楓は軽度自閉症を持つ小学生のカウンセリングを行った。クライアントである相木悠介くんは、木曜日の午前中、学校を休んでわざわざ楓のカウンセリングを受けにやってくる。ここでのカウンセリングは、カウンセリングというよりは、遊ぶというイメージの方が強いものであるが。主に、言語が伝わりにくい子どもへのケースの場合は、プレイセラピーと呼ばれる、遊びながらの治療を行っていくのだ。
悠介くんは、小学校で周りについて行けずに、どうしたら友達ができるのか悩み、楓が終了した大学院がある、港福祉大学の心理センターにやってきた。
楓が悠介くんの担当になったのは、3か月ほど前であるが、だんだんと友達と話せるようになってきたようだ。楓は、ただ遊んでしかいないと思っているが、心理的治療の効果とは、治療者の知らないところで動いて行くときもある。
11時になると、悠介くんは満足して、別の部屋でカウンセリングを受けていた母親と一緒に小学校へ向かって行った。悠介くんのカウンセリングは、母子並行面接と言い、悠介くんと楓が遊んでいる間、別のカウンセラーが悠介くんの母親から最近の状況を聴いている。
「お母さんは、なんか言ってた?」
楓は、悠介くんの母親を担当している、野久保大智に聞いた。
野久保は、楓の1つ下の後輩で、大学院時代は同ゼミということもあり、最も可愛がってきた後輩でもある。
「最近、快調らしいです!悠介くん!」
「そう、よかった!」
楓は笑顔になって、心理センターの事務室に入った。そして、珈琲を自分のコップに注ぎ、椅子に腰かける。
「よかった、楓さんもやっと笑顔になった!」
野久保が楓の横に座り、突然そう言ってきた。
「え!どういうこと?」
「どういうことって、いつも明るい楓さん、今日は朝から暗かったじゃないすか」
楓は、珈琲を一口、口の中に注いだ。
「ん~朝からって、悠介くんに会う前、30分くらいしか話してなかったけど」
楓がそう言うと、野久保は眉間にしわを寄せて困った顔をした。
「でも、いつも朝から明るいじゃないですか!」
確かに、野久保が言ったことはその通りである。楓はいつも人前では明るい性格で、朝の挨拶もうるさいと言われるほど大きな声でしているのだ。今日の場合は、優良のことをずっと考えていたような気がする。
「何か、ありましたね!」
そう言われると、楓は“この後輩はめんどくさいな”と思い、「うるさい!」と一括してしまった。
野久保は、驚いたように「すいません…」と言いながら、静かになった。




