エンドロール
~3ヶ月後~
年が明けて、しばらくの間寒い日が続き、東京でも冠雪が見られるようになった。月曜日で高校に勤務している楓の視界は、窓越しの外の風景が、雪で染められているのを確認していた。楓は、間もなくこの地域のスクールカウンセラー業務から退くことになった。楓が優良やその母、亜紀に対して行った、コンプライアンス違反的に該当する対応がスクールカウンセラー部会に伝わってしまったのだ。楓は優良と亜紀の関係が修復した後、部会に呼び出されこっぴどく叱られた後、来年度からはスクールカウンセラーとして雇わないことを申しつけられてしまった。
せめて、優良が普通通り学校に復帰できるまでは、ここに残りたいと思った。優良はあの後、徐々に学校生活に復帰し、合唱部の練習にも行きはじめた。結婚と離婚を繰り返す母を持ち、人を信頼することができずに不登校になっていたころとは違い、母親からの愛情があることを知った優良は、周りに適応できるようになっていった。
高山からは、楓に会ったことにより、再度ひきこもる現象が起きる前から、他人への信頼感は取り戻していたのではないかと言われた。そして、再度引きこもり、自殺願望を見せたのは、楓の見立て通り母親の愛情を確かめたかったから、もう一度母親と仲良くなりたかったから、と言われた。
いわゆる、愛着障害の子どもがよく見せる行動だ。
しかしあの後、優良の回復力は驚異的なものが感じられた。そして今日、1月2週目の月曜日に最後のカウンセリングを学校で行うのだ。お昼を少し回った頃に、優良は笑顔でカウンセリングルームにやってきた。優良は顔色もよく、気分が良さそうだった。楓は優良の最近の状態や母親との関係について質問したが、問題は全くなさそうだった。カウンセリングを終わろうとした時、優良が訪ねてきた。
「楓ちゃん、ここやめるの?」
「うんそうなるね」
「え~少しさみしくなるな」
楓が思っていたほど、優良はあまり落ち込んでいないように思えた言い方だった。若干楓は気を落としたが、カウンセラーとしては長く依存されないこの関係性がいいと考えなおしていた。
「ねえ、楓ちゃん、あの時、私が本当に自殺するって思ってた?」優良は丸くして聴いてきた。楓は一体何の質問なんだと思ったが、ここは楓の本心を答えた。
「思ってた…本気だって」
「それで、生きろ!私は生きててほしいって言ったんだ」
「覚えてるの?私の言葉…」楓は、優良があの時の自分の言葉を覚えていることに、驚きを隠せなかった。
「当たり前じゃん、だって、あの時お母さんやっぱり来てないって思って、本気で死ぬこと考えてたもん、そしたら楓ちゃんがあんなこと言うから、死ぬ気あまりなくなったし…」
楓はその時、高山に言われた言葉を思い出した。正直な言葉で伝えたから良かったという言葉で、今やっとそれが自分でも分かったのだ。
「楓ちゃん、これからどこに行くの?」優良は、カウンセリングを終え、出ていこうとするとき、楓にそうたずねてきた。
「春休みの間は、こないだ災害があったところに被災地のカウンセラーで行くよ」
「へ~私も行ってみたいな、ボランティアしよっかな…」
楓は、優良のその言葉を聴いて、少しうれしくなった。引きこもってた優良から、ボランティアという言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「何笑ってんの?私がボランティアって可笑しい?」
「いや、嬉しいの、優良ちゃんよくボランティアしよって思えるまで頑張ったなって…」
「頑張ってないよ、気づいたんだよ、そんなに人間悪くないって」
楓は、優良のその言葉を聴いて、少しほほ笑んだ。優良も微笑み返してくる。
「じゃあね、そろそろ帰る」そう言った優良は、カウンセリングルームのドアをゆっくりと開けた。
「楓ちゃん、またここで会いましょう」楓は、優良が言った言葉に驚いてさよならを言うつもりだった声が出なくなってしまった。
「それ、私の」
「そうだよ、楓ちゃんがいつも私に言ってたやつ、この言葉のおかげで、来週は楓ちゃんに会うんだって思えて、生きようって思えてたんだから…またここで会いましょう」
楓が優良にここで会うことはもうないと思う。しかし、優良は楓とまた会える日まで頑張りましょうと言っているように楓には思えた。
だから、楓は優良に対してこう言った。
「またここで会いましょう!」
この話を書いた理由は、カウンセリングは精神病の人に対してだけ行うものではないということを伝えたかったからだ。カウンセラーがどんなことをして、どんな見立てをしているのかを伝えたかった。
カウンセリングを受けることは、恥ずかしいこととか精神病だといっているよなものだという誤解が根強く残っている。しかし、カウンセリングはその予防として、どちらかといえば健康的な人間に行うものなのです。
優良の場合は、不登校になり希死念慮があるかもしれない高校生でした。楓は、優良の一連の行動について愛着生涯であるという見立てを立てます。愛着生涯の子どもは、親や大人からの気を引くために問題行動を起こします。これは、高見リョウの独断で決めたのではなく、同じく心理学を学ぶ学生にこの作新を読んでもらい、総合的に愛着だとしました。それから、最後の歩道橋でのシーンにつながる、火曜日の章を書いたのです
この作品は、面白いと感じる人もいれば、面白くないドラマチックじゃないと思い人もいるかもしれません。しかし、日常を描いた作品としてはこれが限界だと思います。
これから、楓がどうなるのかは皆さんでお考えください。楓みたいなカウンセラーはいないと思います。しかし、私はこんなカウンセラーがいたらいいなと思っています。
最後まで読んでくれた皆様、ありがとうございました。




