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 楓は、短大を出ると優良が通う高校に程近いレストランへと向かった。優良の母である亜紀に会うためにだ。昨日、亜紀とこのレストランで会う約束をしたが、半ば楓が一方的に約束をしてしまったため来るかどうかは分からない。

 しかし、楓は何としてでも亜紀と話したいことがあるため、少ない希望を信じてここに来たのだ。カウンセラーとしては過剰に関わりすぎだとか、1人のクライアントにこだわりすぎだとか言われるかもしれない。だが、楓にとって優良はなぜだかほっておけない存在であった。

 レストランは、平日の13時前で、ちょうど仕事のお昼休みで食事を済ませたサラリーマンやOLの多くが勘定をすませている所であった。席が空きだした時間であったため、楓はすんなりとホールの人に案内され席に着くことができた。

 楓が席について、雑誌を読んでいると、待ち合わせの13時ちょうどに優良の母親である亜紀は姿を見せた。来てくれるかどうか不安だった楓は、少し安心して胸をなでおろした。

 亜紀は、店内に入ると店を見渡し、楓の姿を確認するとホールの店員に「あの人とご一緒するから」と言い、楓が座っている席に近づいてきた。楓は立ち上がって、亜紀に対して深々と頭を下げた。

「来てくれて、ありがとうございます」

「いえ、お昼は暇ですから、お誘い頂きありがとうございます」

亜紀はそう言いながら、上着にかけていた羽織を取りながらそう言った。

「何か、私にお話でも?」

亜紀は早々に、優良に対して本題に入るように迫っているかのように思えた。楓はやはりあまり乗り気じゃなかったのかと感じた。

「先日、西田さんと会って…」

「昨日聴きましたが、」

亜紀が楓の話を遮った。楓はどう話していいか分からずその後沈黙が続いた。

 その時、タイミングよくホールの店員がやってきて楓と亜紀に対し注文を聞いた。お昼ご飯をすませていた楓は、食べ物は何もいらないと思いコーヒーを注文した。すると、亜紀もそれに続き、「私もコーヒー」と言った。

「西田さんと会って、西田さんから虐待のことを伺いました」

店員が去った後に、楓が西田との会話のことを話そうと思いこう言った。亜紀は真っ直ぐに楓を見つめ、口は閉ざしたままであったので、楓は続けた。

「私は、優良さんの担当になった当初から、優良さんが虐待を受けていることは聞かされていました。あなたから、親戚の叔父さんから、そして父親であった西田さんから」

 楓がこう言うと、突然亜紀は、「違う!」という大きな声を上げた。亜紀の目は鋭くなり、顔は一瞬にして少し赤くなった。

「西田は、虐待なんかしていない…全部私がやったの、あの人はそんな私に懲りて出て行ったのよ」

「では、西田さんが懲りてなぜ、優良さんや子どもたちを置いて行くのでしょう?私は可笑しく思います。普通は虐待に疑問を感じているなら、西田さんの方が引き取りませんかね?」

 楓がこう言うと、亜紀は首を大きく横に振った。

「あなた基準の話じゃない…西田は、優良の本当の親じゃない、優良の本当の親は私よ!だから私が引き取ったの!」

亜紀は声を荒げた。しかし、楓は冷静さを保つように努力をする。

「そうですね、それはその通りでしょう、しかし親から虐待を受けていると、その子どもはその人に対してひどく怯えるものです。しかし、優良さんにはその兆候がありません」

「兆候?どうやってわかるのよ?あの子は、私を嫌っているのよ!」

「嫌ってません、それはあなたの思い込みです。優良さんはあなたのことが大好きです」

「だから、何で?」

亜紀は、手を大きく横に広げて疑問を呈していた。

「それは、優良さんが『Yesterday』を歌っているからです…あなたとの思い出を、あの歌で追いかけているからです」


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