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 楓の前に立つ優良は、以前見た時よりも髪が長くなっているような印象を受けた。そして、楓には優良を直に見るのが久しぶりのような印象を受けた。それは、水曜日からずっと優良の姿を見たいと思ってきたからかもしれない。実際に楓が優良の姿を見るのは、一週間前の月曜日にこの高校で見た以来である。

「約束…聴いてくれてたの?」

「そりゃ、あんなにでかい声で、言われたら嫌でも聞くって…」

 楓が優良の顔を見るに、少しだけいつもより暗い印象を受けたが、特別暗いというわけではなかった。

「まあ、ゆっくり二人で話しましょう!」

楓がそう言うと、優良は小さく表情を変えずに頷いた。楓はその仕草を見て、【只今面接中】と書かれた板を取り出した。

「面接室に…」

楓が優良を促すと、優良は楓について行き、隣の面接室にやってきた。

楓は、持ってきた板をついてあった糸を利用して、面接室のドアノブにひっかけた。そして、優良をまずは面接室の中に入れ、遅れて自分も入った。


 楓は優良が座ったところの机を挟んだ前方に座ると、優良に対して「ご飯は食べた?」と聞いた。

「ご飯は…今朝は、麻奈が作った奴を食べた」

「毎日食べてる?食べれてる?」

楓がそう聞くと、優良は少し遅れて「毎日は…食べてないかな」と言った。

 この質問は、楓が優良に対して行う恒例の質問であった。それは、親からの育児放棄等が考えられるからである。しかし、優良の場合は妹がご飯をしっかりと作っているためか、朝ご飯を食べていないというのはあまりなかった。食べれない時はたまにあるが、その時は優良の心身の状態に関わっているようだ。

「毎日は、食べてないのね?」

「うん…気分がよくない時は食べない…」

楓は優良のその言葉を聴くと、大きく相槌を打ち、メモを取った。

「優良ちゃん、どうしてまた部屋の中に閉じこもっちゃったのか、気になるんだ…話せたらでいいけど、どうしてか教えてくれない?」

 楓は、ここから今優良に一番聞きたいことを聞いた。しかし、優良はずっと黙っていた。しばらくの沈黙が続く。

「答えにくいかな…」

楓は少し焦りすぎたかと思ったその時、優良の口が動いた。

「分からない…でもね、楓おねえちゃん」

「何?」

「楓おねえちゃんが、一生懸命話しかけてくれたのは、嬉しかった…」

「そう、ありがとう…」

楓は、なんだか自分が救われたような気持になった。自然と笑みがこぼれる。

 優良も楓の笑顔を見たのか、少しずつ、つられるように笑顔になった。

「楓おねえちゃん…」

「何?」

しかし、優良の顔はすぐに真剣な表情に戻ってしまった。何か、違う話題に入りそうな予感がした。

「学校のみんなもさ、私のこと気遣ってくれてるけどさ、中には、何であんなことであんなにやんでるんだろう?とか思ってる人はいるよね」

「それは…」

「本当に思ってること言っていいよ…」

優良はその時、楓の顔をまっすぐ見た。

「なんで、そんなこと思うの?」

「だって、一番近くにいる人だって、私のこと分かってない…」

楓は、優良が話した“一番近くにいる人”は優良のお母さんだろうと予測した。

「一番近くにいる人って…お」

「何でこんなこと考えるのかな?」

楓の言葉は、遮られた。

「なんでか分からない?」

「でも、自分が体験していることは自分が分かるのは当たり前じゃん…他人は、自分とは違う脳みそ持ってるから分からないかって…考えるかな?」

優良が言ったことは、楓がいじめの研究を通して、ずっと考えていることと全く同じことだった。優良の場合はどこからきているのかと考えた場合、楓の頭で結論付けができるのは、“人間不信”ということであった。

「優良ちゃん…それは私も同じこと考えてるけど…でも、」

「分かってる、楓ちゃんには私の気持ちとか、伝わるって!」

優良は再びそう言いながら笑顔を見せた。

「楓おねえちゃん、今日、長い時間カウンセリングルームに居てもいい?」

「いいよ!」

こうして、優良は今日一日、とりあえずカウンセリングルームで過ごすことになった。


分かりにくくなった場合は、第6章の一部に戻ってみてください!

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