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 葛城との会話を終えた後、楓はすぐにカウンセリングルームへと向かった。学校の設置されているカウンセリングルームは、カウンセリングルームと言っても楓たちが普段使っている部屋とは大きく違う。それは、室内が広く来たい人が来れるという所だ。カウンセリングルームの隣に、二人きりで相談を行う面接室が設置されてある。

 楓の主な仕事は、ここに尋ねてくる生徒への対応とカウンセリングの予約が担任やコーディネーターの先生を通じて入った時に、面接室にてカウンセリングを行う。

 だから、カウンセリングルームとは言っても実際にはそこではカウンセリングは行わない。ただ、スクールカウンセラーがいて、教室に行きにくい人などが集まる部屋になっている。

 今日も朝からカウンセリングルームには、3年生の大久保高志がいた。彼は、2年生の夏ごろから不登校になり、1年たった3年生の夏ごろから少しずつ学校に出てきている。教室にも少しはいけるようになった。

「おはよう!楓ちゃん!」

「おはよう!楓ちゃんじゃないでしょ、松島先生!」

「いいじゃん、楓ちゃん可愛いんだから!」

「もう!」

 このようにとても明るい性格の高志なのだが、授業中の発表などの緊張を強いられる場面や楽しいことをしている時になると、吃音の症状が出てしまうのだ。それを、クラスメイトにどう思われているのか高校2年になった時、急に気になり始めたという。そして、徐々に教室に行けなくなり、ついには不登校にまでなってしまった。

 吃音とは、いわゆる【どもり】である。多くの人の場合、か行やた行の舌を口腔の上にくっつけてはじくように発声する言葉が出にくくなる。緊張高い人や発達障がいにもみられるものであるが、練習していくことで徐々に改善できるものでもある。

 楓は高志がカウンセリングルームにやってくると、話す練習として高志が得意な将棋をするのであった。高志は、将棋が大好きでそれをしている時も吃音が出ていたらしい。本人もそれは自覚していた。

「じゃあ、大久保君!今日は負けない!」

楓は、自分自身に気合を入れる。楓も将棋は得意な方であったはずなのだが、高志と将棋をやり始めると勝率は1割程度でほとんど負けていた。

「無理無理!すぐに楓ちゃんは詰まれえちゃう」

 対局が始まると、楓はすぐに飛車を失いみるみるうちに劣勢に立たされた。

「ここで、け、桂馬を上手く使えば」

高志は、笑顔で楓を見た。

楓は笑顔で頷く。

「そうそう、落ち着いてゆっくり話せばあまりどもらないからね!」

高志は、喋りはこれを始めたころよりも大分どもることも少なくなったように感じられた。

「はい、詰み!」

対局の結果は、結局高志の圧勝であった。

「うわ~私のところなんもないわ…」

楓は、自分の王将の周りに駒が無くなっているのを見てただただ呆然とした。自分の弱さというよりも、頭がきれる高志に若干感心していた。

「でも、楓ちゃんも強くなったよ」

「どこが?」

楓が高志にそう聞くと、高志は将棋盤を指さししながら話しはじめた。

「ここらへんに、銀とか金もあったから邪魔でいつもより攻めにくかったし…」

その説明を聴いていても、楓は意味が分からなかった。おそらく高志は頭がいいのだろう。

「へ~なら私強くなってるんだ!なら、今度は負けないぞ!」

「よし!じゃあ今度は楽しみだ!」

高志がそう言ったときに、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

「俺、あんまりどもらなくなったし、というかクラスのみんなあんまり気にしてなかったみたいだし、2時間目から頑張ってくるね!」

「分かった!頑張らないように頑張ってね!」

楓がそう言うと、高志は笑い出した。

「だから、楓ちゃん、それいつも意味が分からないって!じゃあね!」

「無理するなってこと!はい、さよなら!」

楓がそう言うと、高志はカウンセリングルームの扉を開き、手を振りながらその場を後にした。

 高志が去った後、楓はボロボロに負けた対局が示された将棋盤を眺めていた。いったい何が悪くて、どこでミスをしたのか楓には分からなかった。高志はとても頭がいい。吃音の原因は、その頭の良さゆえ、話す言葉の思い付きに発声が追い付いてないのかもしれない。

 楓がそんなことを考えていると、カウンセリングルームの扉が開いた。

「失礼します」

「はい!おはようございます…」

楓は、そう言いながら扉の方向に目をやると、そこに立っていた人物に言葉を失った。そこには、ずっと部屋に閉じこもっていたはずの三島優良が立っていたのだ。

「優良ちゃん…来てくれたの?」

「だって…楓おねえちゃんが、約束っていうから…」


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