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午後15時前になって、楓と野久保の二人は、優良の1つ前の父と会うため、その父が勤める会社の近くのカフェに行った。高山によると、この場所での待ち合わせに応じてくれたみたいだ。
カフェの中は、比較的人が少なかった。このカフェは平日であるなら、サラリーマンなどが休み時間を利用してよく訪れているらしいが、今日は休日の日曜日だ。カフェの内装はなんとなく昭和の雰囲気を醸し出している。店内で流れるBGMは、間違いなく昭和に大ヒットしたフォークソングだ。楓はこのような音楽を聴くと、優良の部屋から聞こえた『Yesterday』を思い出してしまう。あの曲は、優良にとってどのような意味を持つのであろうか。
「今から会う人って、日曜日なのに仕事してるんですかね?」
野久保が目を丸くして楓に聴いてきた。
「なんか、商船会社の重役らしいけど…」
「忙しんすかね…」
楓は、野久保の問いかけに「どうなんだろ?」とつぶやき首を横に傾けた。
その時、店の出入り口付近で小さな鈴が鳴る音が聞こえた。誰かが入店してきたという合図である。楓がその方向に視線を向けると、1人の男性が入店してきた。そして、その男は楓たちが座っている席に近づいてくる。
楓と野久保は、その人が優良の1つ前の父親だった男性だと思い立ち上がって深々と頭を下げた。それに遅れる形でその男も、楓と野久保に深々と頭を下げる。
「これは、これは、スクールカウンセラーの先生…もう父親ではなくなってしまったんですが…いつも優良がお世話になってます」
男は頭を下げながらそう言った。
「こちらこそ、今日は貴重なお時間を頂き嬉しく思います」
楓も丁重に挨拶をする。
「まあ席に座ってください…」
野久保が男を席に座るように促した。
男は、それにつられるように楓と野久保が座っていた席の反対側に腰かける。
「私は、こういうものです」
そう言って男は、二枚名刺を出してくる。名刺には、西田昭雄と名前が書かれてあった。楓と野久保も自分が持っている名刺を西田に渡した。
「何かお飲物でもまずは飲みましょう!」
楓は本題に入る前に、少し落ちつけようと思ってそう言った。
「では、コーヒーを頼みますか」
そう言って、西田は店員にコーヒーを注文する。
その後、珈琲が来るまでの間、「今日はいい天気ですね」や「お仕事は忙しんですか?」など世間的な話を続けた。
少し打ち解けてきたところで、楓が本題に入る。
「今日は、優良さんについてお伺いしたいなと思いまして…」
優良の名前を聴くと、西田は目を真っ赤にして泣き始めた。
「西田さん…」
楓はこの光景に少し驚いたようであった。
「私はあの子にはひどいことをした」
西田は声を振り絞るように話しはじめた。
「あの子とその母親である亜紀は、見るからに貧しい生活をしていた。表情は暗く、ほってはおけなかった。だから、私は亜紀を嫁にして、一軒家を買い与えた。亜紀と優良はだんだんと幸せそうな表情になって行った。でも、それが物足りなかった。私は、もう一度彼女の苦しむ顔が見たいがために優良を…」
楓はまさかと思った。噂には聞いたことがあるが、まさかこんな人が本当にいるとは思わなかった。これも精神病の一種であり、傷ついた人を見るやその人を過剰に世話し、その対象が元気になると次に対象を探しに消える。または、自分でその人を傷つけるようになることもある。
これは、世話型依存症ではないだろうか。
普通は、母親が子どもに対して表す依存症であるが、他人にも表すことが本当にあるのか。いや、まさに楓は今、その人と対峙しているかもしれないのだ。




