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 楓の話を聴いていた野久保は黙り込んでいた。しかし野久保は、何とか楓に言葉を発しようとしていたことは、見るからに明らかだった。

「ごめん…どうしたんだろ、誰にもこのこと言ってなかったのに」

楓は、あわててそう言った。

「楓さん、壮絶ですね…なんて言っていいか分からないっす」

「ごめん、でも…聴いてくれてありがとう」

楓は、不思議と涙をこぼさずにいた。いつも明るい野久保に話したことがよかったのかもしれない。

「楓さん…」

「何?」

「俺、でも嬉しいです!」

「は?」

「楓さんに頼りにされて、嬉しいです!」

それを聴いた楓は、思わず笑ってしまう。

「何言ってんの?」

「何言ってるか、何言ってるんでしょ?俺」

野久保の不思議な明るさで、車内は一気に明るくなった。


 横浜の市街地に着くと、優良の1つ前の父親と会うまで時間があったので、野久保がよく知っている中華を食べに行った。

 楓は、野久保が「中華が上手いっす」と言った瞬間、“またこいつと中華か”と思ったが、野久保=中華というイメージも悪くないと思い、中華を食べに行くことにした。

「横浜、人多いっすね!」

「東京も多いでしょ」

いつも通りの野久保が一方的に話して、楓が突っ込みを入れる展開になった。しかし、なぜか楓はこれが一番話しやすく、心地がよかったのだ。

「楓さんは、あまり遊びに来ないんですか?」

「さあ、この仕事についてから、なかなかね…」

野久保は、頭をかきながら「そうっすよね…俺もっす!」とご機嫌に話していた。

「楓さんは、まだ領域決めてないんですか?」

「そうだね…」

野久保が、領域の話を持ち出してきた。領域というのは、心理学というより、カウンセラーが仕事をする領域をさす。大きく分けて、医療領域、警察・司法領域、福祉領域、産業領域、そして教育領域だ。この通り、カウンセラーの仕事は幅広く、それぞれで専門性も違ってくる。教育であるなら、スクールカウンセラーをしたり、警察・司法であるなら、警察の捜査に協力したり、犯人の精神鑑定を行ったり、産業なら職場でうつ病を防止するため、社員にカウンセリングをする。楓は、この通り病院に行ったり、学校に行ったりでまだしっかりとした専門は定まってない。

「やっぱり、楓さんは教育っすか?」

「そうだね、いずれは…野久保くんは?」

野久保は、しばらく考えてこう言った。

「教育っすかね」

「へ~そうなんだ、まあ野久保くんは子どもに好かれるしね!」

初めて、野久保が進みたい領域を聴いた楓は、笑顔で答えた。

「まあ、楓さんが教育って言ってるんで!」

楓は、それを聴いたときに吹きそうになる。

「おい、お前ストーカーはするなよ…」

楓はそう言って野久保を睨みつけた。


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