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 友紀奈が担当する子どもの母親は、恐らくネグレクトとかで育児が十分に行えていないのではない。このケースは、社会が子どもから大人を奪っているケースである。水曜日の夜に楓は国会の前で叫んだ。なぜ、子どもから大人を奪う社会になってしまったのかは、政治のせいだとも思ったからだ。

 優良の担任吉田は、国の施策で研修会が増え、十分に生徒指導を行う機会が少なくなったと言っていた。教師も子どもと過ごす機会を奪われている。それなのに、世間は子どもが荒れだすと、すべてを学校のせいにしてしまうのだ。これを考えれば、日本の教師に精神疾患を発病する人が多いというのも頷ける。そして、子どもから大人を徐々に奪っていく。


 12時になってから楓は、同じ港区ある野久保の自宅に向かった。優良の1つ前の父に会うために、同伴をお願いしていたが、どうやら野久保は自らの運転で、楓を横浜まで運んでくれるらしい。

 野久保の自宅に着くと、すでに野久保は自分の車に乗り込んでスタンバイを完了させていた。楓は、野久保が自分を助手席に座るように指示するジェスチャーを見せたので、車の助手席側のドアに回り、それを引いた。

「野久保くん!おつ!」

「おつかれっす楓さん!」

野久保は日よけのためなのか、サングラスをかけていていつもと雰囲気が違った。

「野久保くんサングラスかけるんだ」

「いや、これはあれっす…ちょっとしたやつですよ」

楓が意外そうに尋ねると、野久保は頭をかきながらそう言った。

「約束は3時っすよね」

「そうだけど」

「なら、着いたら一緒に飯しましょ」

「オケ」

そう言って野久保はサイドブレーキを下して、車を発進させた。

 車中は、優良について二人で話していた。野久保もかなり真剣に優良の話を聴いてくれている。なぜか野久保は楓の心配ばかりしているのであった。

「大丈夫っすか?これ部会とかにばれたりしたら、楓さんやばいっすよ…たぶん」

「私の心配はしなくていいの」

 野久保は「でも…」と言い、心配を強めている印象にも思えた。表情はサングラスのせいでなかなか分からない。

「楓さんは、どうしてカウンセラーになろうって思ったんですか?」

いきなり野久保は話を変更した。そういえば、野久保とは長い付き合いにはなるが、そのような話はしたことがなかったような気がする。

「カウンセラーになろうって思った理由?」

「はい…僕は、大学に入って、心理学にはまったら、こうなっちゃったわけっすけど…」

「そうね…自殺かな、友達の…」


 それは、楓が今でも忘れない中学生の時であった。1人の少女が自殺した。その少女の親は大蔵省、現財務省で働いている官僚であった。官僚であるからには、その少女の父親は忙しく、母親も忙しかったらしい。少女は親がいないも同然の生活を余儀なくさえることとなった。親が官僚というのは、少女を孤独にしただけではなく、少女は学校でもそれが理由でいじめの標的となった。その理由は、消費税に増税などであった記憶がある。

 彼女は中学生になるまでずっと一人だったが、中学生になったから一人の友達ができた。それが、松島楓だったのだ。楓は、幼いころから誰に対しても分け隔てなく仲良くできる子どもであった。それはその少女に対しても一緒であったが、彼女に対するいじめを止めることはできなかった。気づけば楓もいじめを受けていたのだと思う。楓の名前がその少女の名前と一緒に中学校の裏掲示板に乗る。

 楓は、「大丈夫、大丈夫」と言いながらそれに耐えていたが、ある日少女は学校に来なくなった。それから、もともとそんなに激しくはなかった楓へのいじめは日に日に収まっていき、楓もその少女のことを忘れかけていた。楓にとって、その少女はただの友達の一人でしかなかったのかもしれない。

 楓は、中学3年のある日から罪悪感を激しく感じるようになる。少女が自殺したという一報が耳に入ったのだ。少女の自宅からは、大量のドラックが発見されていたらしい。最後は自殺というより訳が分からなくなり死んでしまったという形だったそうだ。

 その少女が残した日記には、“楓へのいじめがひどくなっているから、私はもう学校へはいけない。私が行かなかったら、友達が多い楓へのいじめは少なくなるだろう”と書かれてあったらしい。それは、その少女の親から、楓も耳に入った。楓は責められ、楓も自分を責めた。

 それからずっと、高校を卒業するまで、楓は死ぬことばかりを考えていた。それを救ってくれたのは、高校3年生の時に出会ったカウンセラーだったが、それがきっかけでくんセラーを目指すようになった。

これが松島楓の過去である。


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