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 午後4時過ぎに病院での最後のカウンセリングを終えた楓は、恋人である中川誠司と会う約束があるため、台場方面に向かった。台場近くの海が見えるレストランで、楓は誠司に振られる予定だ。

 その場所は、誠司と合コンで初めて出会った場所でもある。そして、楓が誠司にお付き合いを申し込まれた記念すべき場所だ。そんな記念すべき場所で、出会って丸2年という記念すべき月に、記念すべき風景を見ながら振られるというのもドラマチックでいいではないか。そんなことを楓は考えながら台場へと向かっていた。

 港第三病院を出て、台場に向かうりんかい線に乗るため品川シーサイドへと向かう。誠司との約束の時間は、午後6時であったため少し時間がある。楓は、品川シーサイドまで歩いて行くことに決めた。

 週末ということもあり、やけに人でにぎわい、そして恋人に振られそうな時に限って、カップルの様な雰囲気を出している男女二人組が目についた。しかし、これは今日に限って多いということではないであろうと楓は考えた。楓の気持ちがそうさせているのだ。

 足取りが重い中、何とか品川シーサイドにたどり着き、電車に乗り込んだ。りんかい線は向かい合わせの座席になっている。ここでも、楓の前方に座っていたカップルが目についてしまう。楓は“これがながつづきすればいいな、心理学的には恋愛感情は持って3年だ”と心の中で嫌味をつぶやいた。楓が気付くと、電車は東京テレポートについており、楓はその場で電車を降りた。

 楓は、そこからレストランまでも重い足取りで歩き、すでに暗くなった午後6時ちょうどに目的地のレストランに着いた。

 まだ、誠司はこの場についていなかった。楓は店員に予約を入れたいたことを伝え、誠司の名字である、“中川”という名前を伝えた。そして、楓は店員にエスコートされて予約席に着いた。すでに暗くなり、明かりが灯ったレインボーブリッジが見える。この風景が見えるこの場で楓は誠司と出会い、この風景を見ながら楓は誠司に告白された。そして今日、楓はこの風景を見ながら誠司に振られる。

 楓がついて3分ぐらいたったころ、誠司がようやくレストランにやってきた。

「ごめん、待った?」

「ううん、そんなに…」

楓は、そう伝えたが、気持ちの上ではすごく待っていたような感じだった。

「乾杯!」

久しぶりに会った二人は、初めは本題に入らず、近況などを話しながら、二人でお酒を酌み交わした。しかし、振られることを確信している楓にとって、この時間は苦痛で仕方なかった。本題を切り出したのは、楓だった。

「話って何?」

「話…」

誠司は少し戸惑ったように、顔を赤らめた。

「あのさ…最近、楓とあまり会えなくなってさ、それで」

“別れるなら、別れるっていえよ”楓は心の中そう思う。

「私と別れたい?」

別れるという言葉を言ったのも楓だった。誠司は申し訳なさそうに頷く。

はっきり言わない、誠司の態度が楓は気に食わなかった。それで、こないだ楓の自宅付近で見たことを話してやろうと思い、楓は話しはじめた。

「別れたい理由ってさ、私以外に好きな人ができたからだよね、私見ちゃったんだ、誠司がかわいい女の子と一緒に歩いている所、腕も組んでた」

楓がそう言うと、誠司は顔を上げて楓の顔をまっすぐ見た。

「いつだ、いつ見たんだ」

誠司は楓に聞いた。

「いつだったけ、私忙しくって忘れちゃった」

楓は吐き捨てるように話す。

「ほら、すぐに忙しいだよ…クライアント、クライアント、俺はその二の次かよ」

「仕方がないじゃない、あんたは私がいなくても、死ぬことないじゃん…」

そう言うと、楓の心の中に優良の姿が浮かぶ。

「俺は、ずっと…それが嫌だった、でもお前は、今日は仕事で疲れたとか、全然…」

「なら、会いたいとか言えばいいじゃん…」

「心理学やってんだったら、分かるだろう、言わなくても!」

その瞬間、楓の頭の奥でお移りと何かが切れた音がした。それは、楓たちカウンセラーが最も腹が立つことを言われたからだ。楓は、前にあったグラスを持ち、誠司に向かってその中身を投げ捨てた。それは、誠司の顔面にかかる。

「何しやがるんだよ!」

「心理学、カウンセラーだから話さなくても分かれだ?こっちはな、話を聴いて初めてわかる…話を聴きだすことに命を懸けて仕事してんだよ…話さなくても分かれ?私ら、カウンセラーがやってることは、エスパーじゃねんだよ!」

そう言うと、楓は着てきた羽織を取り上げ、バッグを持った。驚いて何も言えない誠司を見おろし、「さよなら」と言ってレストランの出口に向かって歩き出す。

 店員は少し驚いた様子で、店内の客もざわついていた。

「すいません、子どもみたいなこと…」

楓はそう言い残し、その店を後にした。


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