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~優良失踪3日前、土曜日~

 土曜日の早朝、楓の携帯に一本の電話が入った。その電話は、中川誠司である。2日前、誠司と若い女性が一緒に歩くのを目撃して以降、ひどく怒っていた楓であったが、そのことをこの電話がかかってくるまでは忘れていた。

 楓は今さらと思いながら電話に出る。

「楓…こないだの大事な話なんだけど…」

「今日の夜、今日の夜会いましょ…」

楓は即答で、今日の夜にあることを指定した。

「分かった、じゃあ今日の夜」

 楓の本日の予定は、朝9時から港第三病院で臨床心理士として約7時間の労働。内容は、治りかけや軽度精神疾患者、発達障がいをもつ子どもへのカウンセリング、計7本、その後夜から憎い彼氏、中川誠司から振られる。

 誠司とは2年間付き合ったきたが、気持ちが冷めるのがこんなにすんなり行くとは思ってもいなかった。


 楓は誠司との電話が終わり、自分の今日の予定を確認した後、やっぱり優良のことが気になり始めた。優良が夢にまで出てくるほどだ。

 優良のことを色々と考えでいたが、優良と関わる以前の情報をもう一度洗っていたのだ。優良会う前に、楓は吉田との情報交換で優良の生まれてからのいきさつを聴いていた。その中で、優良と出会って、優良からの話に上がらなかったことが一つだけある。

優良の母親、亜紀の最後の旦那からの虐待と母親からの虐待、そして親戚からの性的虐待である。

 楓はこの話を聴いたとき、亜紀の度重なる離婚と再婚、またネグレクト的な育児というよりも、物理的な虐待から人を信頼することができなくなったと思っていた。しかし、亜紀からの虐待の情報には元から信憑性が薄かったのと、優良と会ってみると虐待を受けている子どもの兆候は出ていなかった。

 それで、昨日の夜、楓は養護教諭の高山に一つのお願いをした。

それは、亜紀のひとつ前の旦那に会って、優良とどのように接していたか聴いてもらうことであった。そして、亜紀から優良への物理的な虐待はあったのか、親戚の家のこと。優良が通っていた小学校の先生からの情報では、比較的外面はいい男性であったらしい。しかし、その男の話になると優良が少しおびえた表情を見せていたことや体にあったアザから虐待を推測したという。

 つまり、虐待があったというのは三島家の家族から、直接聞いているということではなく、全て憶測の話にすぎないのだ。だから楓は、引きこもった原因と考えられる人間不信に影響を与えたものとして、物理的虐待の可能性を考えることができなかった。

 ここにきて何から何まで分からなくなってしまった楓であるが、優良に少しでも近づこうする努力はしているつもりであった。

 病院でのカウンセリングは、いつも自分は一人のためのカウンセラーではないと考えさせられるいい機会になる。優しすぎて、1人の個室しやすい楓のことを考えて、前任の先輩カウンセラーがここを譲ってくれた。楓を知るカウンセラーの多くは、楓のことをカウンセラーには不向きだというが、なぜかやめた方がいいとは言わなかった。

「今日は、カウンセリングがあると思ったら、楽しくなっちゃって」

「あら、ありがとうございます!」

カウンセリングを希望する人は、ほとんどが日ごろ自分の意見をため込んでしまう性格傾向にある。うつ病になりやすい人の特徴としては、真面目で頑張りすぎてしまう人があげられる。真面目で上司に陰口でも文句を言えない、仕事を押し付けられると頑張りすぎてしまう、疲れると自分には力がないと思ってしまう、こういった人が最もうつ病になりやすいのだ。

 だから、そのようなため込みやすい人へのカウンセリングは、その人にとってはうつ病を予防する薬になる。

 今回、楓が病院で行っているカウンセリングにはすでにうつ病を発症し、治りかけている人がもうひどくならないように来るのであるが、治りがけのカウンセリングというのも必要なのである。

 そんな楓が、必ず病院で患者さんにする質問がある。

「一番悪い時が0%の状態だとしたら、今何%ですか?最高は100%でお願いします」

「そうですね…60%ですかね」

その時、楓は患者さんの前向きな変化を捉えるように笑顔で答える。

「60%ですか!かなりよくなりましたね!」

こうやって%で状態を示すことにより、患者さんに自分の変化に気付いてもらうことが必要だ。


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