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午後になり楓は、看護師を養成する短期大学の学生相談室に入った。勤務時間は、午後1時から、6時までの5時間である。楓は1週間で様々なところで仕事を行う。カウンセラーは、一つの場所で、一つの仕事だけに従事する人間はあまりいないと考えてもよいのだ。スクール―カウンセラーなどの業務は、週に1回程度で、しかも半日勤務で終わる。また、教師側にカウンセリングを嫌悪する見方や生徒側にも、カウンセリングは精神疾患になった人が受けるという先入観があるため、なかなか問題を抱える子どもを見つけることはできない。楓はそのことに関しては若干に疑問視を抱えてはいた。
そして、土曜日になると楓は病院勤務に移る。勤務内容は、精神疾患で通院している患者さんへのカウンセリングである。精神疾患の患者さんへの治療は、主に精神科医からの薬による治療と臨床心理士からのカウンセリングで行っている。しかし、これは重度な精神疾患の患者さんにはできないことだ。なぜなら、重度の精神疾患者は、はなすことなどできないから、カウンセリングができない。カウンセリングによって悪化させてしまうこともある。ここで、楓が一般の方に知ってほしいと訴えているのは、カウンセリングは精神疾患の方が受けるものではなく、その予防としてカウンセリングがあるということである。スクールカウンセリングなら、不登校や不適応になる前の予防、企業で行う産業カウンセリングや楓が本日行っている短期大学での学生相談では、疲れ果ててバーンアウトになる前の予防だ。
この日も、自分は看護師に向いてないんじゃないかという相談が楓のもとに舞い込んできた。楓は、どうして向いてないと思うのか、何があってそう言う考えに至ったのか、ポイントを絞って聴いて行く。カウンセリングは、カウンセラーとクライアントが、絡まった糸を協働でほどいて行く作業である。
「今日も怒られたし…向いてないって思うんです…」
このような、怒られたから向いてないと、クライアントさんが考えてしまう悩みは最も多いと言っても過言ではない。
「向いてないって、指導教員に言われたから思っているのですね…」
「はい、そうです」
「では、向いてないって誰かに言われたとかは?」
「それはないです…」
「自分で思っただけ?」
この流れで、楓は少し急ぎすぎてしまったのかもしれないが、大体は向いてないというのを言われている人は少ない。このまま、もう少しできる範囲で粘ると言って帰られるクライアントさんが多い。しかし、ここで楓はいつもこの言葉を残す。
「頑張ろうとはしないで、自分ができるだけのことをやってください、金曜日はいつでもここにいますから」
これだけで、少し安心したような表情を見せるのは楓の気のせいであろうか。




