2
吉田との電話を切った後、楓は優良の自宅の電話を入れようかどうか悩んだ。楓は一応、優良の自宅の電話番号は知っている。しかし、基本的には優良と直接会う以外では、担任の吉田を仲介して連絡を取り合うようになっているので、楓が直接電話をかけてもいいものなのであろうか。
「死にたいか…」
楓はその言葉の本気度を知りたかった。死にたいとはいっても、本当に死にたいかどうかは、その時々で違う。死ぬのには一定の体力がいるので、精神が重度にやんでいる場合は、なかなか自殺を実行に移すことはできない。
現在の優良はどうであろうか。楓と優良が初めて会ったとき、優良はうつ病ではなかったが、重度の抑うつ状態ではあったのだ。あのくらいの精神レベルであれば、自殺なんて到底できない。しかし、優良は徐々に回復し、少しずつではあるが前に進み始めていた。
そしてまた、何かが起きて部屋の中に閉じこもっていしまったのだ。最初の状態にまで戻っているのなら、楓と口も利いてくれないはずであったが、優良は一言だけ楓に対して言葉を発している。自殺ができる精神状態にまであるのか。
そんなことを考えていると、楓はますます不安になり、気が付けば自宅の電話で優良の自宅に電話をかけていた。
「もしもし…三島です…」
電話に出たのは、妹の三島麻奈であった。
「麻奈ちゃん…松島です…」
「楓さん!」
麻奈は、楓の声を聴き、少し安心したのか、そのまま泣き出してしまった。
「麻奈ちゃん、大丈夫…、何があったか話して…」
楓は、泣いている麻奈にこう言って問いかける。
「姉ちゃんが、死にたいって…朝、私に言ったの…死にたい、ごめんって」
麻奈はその言葉にショックを受けたみたいで、姉の優良が心配になり、学校にも行けていない様子であった。
「お母さんは?いる?」
「あんな奴、母さんじゃない!“どうせ、かまってほしいためのでまかせでしょう”とか言って、仕事から帰ってきてから寝てる…」
楓は、何か手だてがないかを考える。他のカウンセラーを頼ることはできないし、誰かに話して注意を向けさせることもできない。これは守秘義務の問題である。昨日、楓が心理センターで優良のことを相談していたが、あれも本当は避けた方がいいことである。
考えていると、楓は思いついた。それは、優良が通っている高校の養護教諭の先生である。養護教諭は二人いて、確か一人は、臨床心理士の資格を持っていたはずだ。先生たちは仕事で忙しいなら、暇があるのは、養護教諭くらいであろう。
「麻奈ちゃん、姉ちゃんの学校の先生と少し話してみるから…私ね…今日、仕事が終わったら絶対に行くからね…」
そう言って、楓は電話を切る。そしてすぐに優良が通う学校に電話をして、養護教諭、高山千穂につないでもらった。
「確かに、私は臨床心理士の資格を持ってますが、養護教諭も忙しんですよね…二人いるからってのは、あなたの偏見ではないですか?」
楓は、優良の自宅に行ってくれないか、高山に頼んだが、開口一番にこの言葉が返ってきた。確かに優良が通う高校の養護教諭は二人いて、けっこう暇があると思いこんでいた。
「すいません…ただ、冷静に対応できる人、あなたしか思いつかなくて…」
楓の言葉に、高山は少し考え込むような声を上げる。
「まあ、頼まれなくても行くつもりでしたけどね、吉田先生からも頼まれましたから…」
なんと、吉田が楓より先に頼んできたみたいだ。
「よろしくお願いします!」
「分かったわ…臨床心理士としては、こっちの方がキャリアあるから!」
高山のその声を聴いた、楓は少し自分の中で安心することができた。




