手土産
執事頭のハモンドさんは、六十歳を越えた初老の紳士だ。
日々ユージーの言動に悩まされ、引退を考え中だとかなんとか、屋敷内では噂になっている。
そんなハモンドさんの好物は、実は甘いもの。とくにチョコレートがお気に入りで、寝る前にチョコを一口食べるのが日課らしいのだ。甘いものでも食べて心身ともに疲れを癒したいのかもしれない。
そんなわけで、庭掃除が終わると、私は早速、厨房へと交渉に向かう。
厨房にもお菓子を作るために、ブロック状の大量のチョコレートが置いてあったはずだ。
ちなみに、私が持っていた高級チョコレートはすでに仲間内で分けてしまってもうないから、仕方なく私は厨房でチョコレートを分けてもらい、トリュフチョコを作ることにした。
なぜトリュフチョコなのかは、ご察しの通り。目的のついでに、ネルにも食べさせようと思ったからだね。
実際、ネルがチョコレートを食べて人に変身――じゃなかった、人の姿に戻ったと言うのは、にわかには信じがたい現象でしょ?
だからもう一度、確認するためにチョコを食べさせたいのよ。私は。
と言っても、ネルのことは今のところ『ついで』だ。本来の目的は、老紳士に賄賂、じゃなくて手土産を持参すること。
話を聞くなら、一番苦労してそうな執事頭がいい。
ネルのことでも許可をくれた人だし、私たち侍女も、結局のところ執事頭の言葉には逆らえないのだ。つまり、この屋敷で言えば、主に次ぐ権力者と言ってしまっても過言ではない。
奥様はどうしたって? あれは別だ。本気でケンカ売ってきたら確実に泣かす。腐っても姉である。妹に負けるわけにはいかないでしょーが。
まあ、それは置いといて。
癒しブタとセットでチョコも付ければ、お疲れモードのハモンドさんの口を開かせるのは、さほど難しくはないと私は読んでいる。後は私の聞き方次第だと思う。
厨房へとたどり着き、夕食の仕込みをしている見習いたちを横目に、私は恰幅の良いシェフの姿を探す。
広い厨房は昼の忙しさが嘘のように静かなものだった。聞こえるのは談笑する声や、仕込み中の金属どうしがこすれる音。でも厨房内に料理長の姿は見えなかった。ということは。
私は厨房の奥へと進み、厨房の裏口へ向かった。
厨房の裏口は直接外とつながっていて、食材の仕入れの際にはこの裏口がよくつかわれる。ちなみに、料理人たちが休憩するのもこの裏口を出たあたりだ。
裏口の扉を開き、料理長の姿を探せば、大きな木箱に腰を下ろして休憩している料理長の姿が目に留まる。
四十代の貫録がある料理長、セレンスさんは私に気が付くと、軽く手をあげて「おつかれ」と笑って見せた。
私も笑顔を返してセレンスさんへと近づいて。
「お疲れ様です。あの、突然ですが、お願いがあるんですけど」
そう聞くと、セレンスさんは首を横に倒して見せる。
「なんだ。あらたまって」
「はい。実は、ハモンドさんにネルの件でお礼がしたくて、厨房を使わせてもらいたいんですけど、ついでにチョコレートも分けてください」
私の言葉に、セレンスさんは私の足元に居る仔ブタに視線を向けて、何やら一人納得しているようだった。
「ああ、お礼な。何作りたいんだ? 簡単なものなら俺が作ってやるぞ?」
「いえ、休憩中なのに悪いですよ。それに、私のお礼なんでできれば自分で作って渡したいんです」
私がそう答えれば、セレンスさんはニコニコと顔に笑みを浮かべ。
「お前は若いのにえらいなぁ。そう言うことなら、厨房は好きに使っていいぞ。チョコは奥の倉庫にあるから、好きなだけ使っていいからな」
と、快く許可をくれた。
ネルを連れて早速倉庫へ行き、ブロック状のチョコレートをステンレスボールにたくさん入れてから厨房へ戻ると、シェフ見習いたちが何やら楽しそうに私を眺めている視線を脇目に、私は早速お菓子作りを始める。
足元にネルがいると邪魔――いや、溶けたチョコでもかかったら大変なので、クッションを入れた小さな麻の篭にしまい、脇にある台の上に乗せておく。
てか、篭に入れたらなんか、さらにかわいくなった気がする。篭にリボンでも結んでやりたい気分になるわ。
ああ、いや、ブタさんに癒されてないで、私はさっさと作業を始めなければ。
私は気合を入れ直し、早速トリュフチョコ作りを始めれば、仔ブタはしきりに私の行動を追いかけはじめ、しまいには篭に両方の前足を乗せて、少し身を乗り出しながら興味津々なキラキラした瞳で私の作業を眺めていた。
こういうのを見るのは初めてなんだろうか? やっぱりいいところのお坊ちゃんなのかもしれないなぁ。まあ、興奮するのはかまわないが、興奮しすぎて篭から落ちるなよぅ。と、思いつつ、私は作業を続ける。
トリュフチョコと言えば、手作りチョコのお菓子の中でも、とりわけ簡単に作れるものだ。
ガナッシュを作り、それを丸めてココアパウダーなどでコーティングすれば出来上がり。何も難しいことはない。
これにひと工夫加えるなら、コーティングをホワイトチョコやシュガーパウダーにかえたり、ガナッシュの中にアーモンドやクルミを入れたりするだけ。
お手軽で簡単な、ちょっと贅沢おやつの出来上がりだ。
まあ、今回は普通にココアパウダーを使うつもりだが、色々工夫して作るのも楽しそうだ。って、別にお菓子作りが目的じゃなかったわ。
でも甘い物って癒しよねぇ。作ってる最中でさえ、甘い匂いに包まれて、なんだか幸せな気分になる。
ネルは若干匂いで顔が青ざめているようではあるが……。
そして、順調にチョコを作り終え、大量のトリュフチョコが大皿に山の如くつみ上がる。
もちろん、これだけ大量に作ったわけはご察しだ。
厨房を借りたのだから、厨房の皆さんへのお礼と、執事頭だけじゃなく、侍女長にも持って行かなければいけないし。
私は小さなガラスの器を開いている台の上に三つ並べて、五つチョコを入れる。
「これがハモンドさんに持っていく分と、これが侍女長の分でしょ。で、こっちがセレンスさんの分」
ネルと私のために二つだけ小さなお皿にチョコを避けたら、私は見習いさんたちに顔を向け。
「よかったら、残りのチョコは皆さんで召し上がってください」
と、笑顔を見せれば。
「まじでっ!? 女の子の手作りチョコっ!!」
「よっしゃーっ!」
「アンバー愛してるぞっ!!」
見習いさんたちが何やら興奮気味に騒ぎだし、厨房がなんか嫌な熱気に包まれた……。
(よし、見なかったことにしよう)
無事に出来上がったチョコをセレンスさんに渡し、侍女長にも渡しに行けば、二人は笑顔で受け取ってくれて、その場で一つ口に入れると、とても美味しいと私に伝えてくれた。
そいうところが、またステキすぎる。
そして、本来の目的。
私はネルを連れて、チョコを持参しつつハモンドさんのお部屋に向かった。
ハモンドさんの部屋は屋敷の一階にある。場所で言うなら使用人用の家が、部屋から入って正面の窓から見え、右側の窓から中庭が見える位置だ。
屋敷の左側の奥。と言えば伝わるだろうか。そこがハモンドさんの部屋になっている。
私のような下っ端の使用人とは違い、ハモンドさんの部屋はかなり広い。
もちろん主の部屋ほどではないが、それでも、寝室が別にあるだけ広い作りなのだ。
私はハモンドさんの部屋の前にたどり着くと、ドアをノックしてしばらく待った。すると、すぐに「どうぞ」という、壮年の優しく落ち着いた声が聞こえてきて、私は失礼のないように静かにドアを開けると部屋にお邪魔させてもらう。
私の部屋と違って広々とした室内。正面の窓際にはアンティークな机があり、その机に向かいあって下を向いていたハモンドさんが、ゆっくりと顔を私のほうへと向けた。
ハモンドさんの後ろのお窓からは、使用人用の家の出入り口がよく見える。
「おや、アンバー。どうしたのですか?」
ハモンドさんはそう言って微かに笑みを形作るが、眼鏡の奥の瞳は暗く、疲労が色濃く出ている顔には、なんだか可愛そうにさえ思えてしまう。
主に呼ばれない限り、ハモンドさんはほぼ自室にこもりがちだ。なかなか自由な時間が作れず、大体自室で書類仕事ばかりに追われている。
本来なら、ハモンドさんの仕事の三分の二はユージーの仕事のはずなんだけどね。
「お仕事中にすみません。少しだけ、お時間いただいてもいいですか?」
私がそう聞けば、ハモンドさんは笑顔でペン立てにペンを戻し、眼鏡を外して椅子から立ち上がった。
「もちろんかまいませんよ。私も少し休憩しようと思っていたところです。お茶でもいかがですか?」
そう言って、この部屋に備え付けられている小さなキッチンへ向かおうとするハモンドさんを、私は慌てて止めた。
「私がやりますっ! ハモンドさんは休憩してくださいっ!」
本当に頼むからっ! 疲労がピーク寸前のご老体にこれ以上ムチなど打てるわけがないっ。そう思ってハモンドさんを座らせようとする私だが。
「かまいませんよ。私の気分転換のついでですから、少し待っていてください」
ハモンドさんはこれでもかと言うほどの優しい笑顔でそう答えて、優雅な身のこなしでさっとキッチンへと消えてしまった。
動きに無駄がなさすぎるんだよ。あのご老体ってものは……。
手伝いますと言っても、笑顔で座って待っているように。と、ハモンドさんに言われてしまい、私は仕方なく部屋に置かれた革張りのソファーに腰を下ろし、ネルを抱き上げて自分の膝の上にのせ、大人しくハモンドさんを持つこと五分。
「お待たせしました」
そう言って、執事らしい完璧な身のこなしで、音もなく私の前に紅茶の入ったカップを置くと、自分用に用意したカップにも紅茶を注ぎ、私の向かいに腰を下ろして一息ついていた。
「ありがとうございます」
やってもらってしまったことに申し訳なく思うも、ハモンドさんの入れる紅茶は本当においしくて、私は思わず気が抜けてしまう。
幸せなため息が口からふぅっとこぼれてしまう私に、ハモンドさんは終始微笑んでいた。
「ネルくん、でしたね。熱い紅茶は飲めないでしょうから、冷たいハーブティーを用意しましたよ」
ハモンドさんはそう言うと、どこからともなく平皿に入れた液体をネルの前においた。
いや、いつ用意したんですかそれ。てか、この五分で何してたんですかハモンドさん。なんだこの執事、ただ者じゃないぞ。おい。
ネルも一瞬、驚いたような顔を見せて私の顔を見上げるが、私がネルの背中を押してやれば、彼は申し訳なさそうにテーブルに乗ると、お皿の液体に口を付けた。と思えば、ネルは平皿の液体をあっという間に飲み干してしまう。きっとおいしかったんだろうなぁ。
綺麗に飲み終わり、ネルの目が興奮と尊敬の輝きでハモンドさんを見つめている。うん。よかったね。
でだ。美味しい紅茶をごちそうになってる場合じゃないぞ私。目的があるんだから、まず本題に入らなくてはいけない。
私はカップをいったんテーブルに置いて、ハモンドさんのために持ってきたトリュフチョコをテーブルに置いた。
「ハモンドさん、あの。よかったらこれ……」
私がそう言って小さなガラスの器をハモンドさんの前に押し出せば、ハモンドさんはその中身を見つめて。
「これは、トリュフチョコですね。手作りですか? これを私に?」
ハモンドさんはそう言って、少し驚いたような顔で私を見つめ返してくる。
ここからが勝負だ。私はしっかり頷いて見せると、ネルをハモンドさんのほうに向け直し。
「この子を飼うことができるのも、ハモンドさんや皆さんが許してくださったおかげですから、どうしてもお礼がしたくて、ハモンドさんはチョコがお好きだと聞いたので、ささやかながら……本当にありがとうございます」
私がそう言って頭を下げて見せると、ネルも私と同じように、小さな頭を頑張って下げて見せた。
そんな私たちの様子に、ハモンドさんは「それは、それは」と口を開くと。
「なんとありがたいことでしょうか。私のために作ってきてくださるなんて。ええ、私はチョコレートが大好物なのです。折角ですのでひとつ、ここでいただいても?」
そう言って、目じりがこれでもかと言うほどに下がり、幸せそうにチョコを口に入れて見せる。
「ああ、ほど良い口どけですね。とても美味しいです。ありがとうアンバー」
ハモンドさんは嬉しそうにそう言うと、ほんのり頬に赤みが差していて、こちらから見ても本当に幸せそうで私としては一安心だ。どうやら気に入ってもらえたらしい。
それにしても、ハモンドさんは本当にチョコがお好きなようだ。
「喜んでいただけたら、それで十分ですから」
私がそう言って笑顔を見せれば、ハモンドさんは急に悲しそうに眉を下げ、悲壮感漂う雰囲気で溜息を吐き出して見せる。
って、いきなりどうしたんですかハモンドさんっ!?
「本来なら、私はあなたのお世話をする立場になれたはずですのに、当家の主があのような仕打ちを……それだと言うのに、あなたは私のために、こうして好物までご用意くださって……なぜ、当家の主はことごとく人を見る目がないのか……嘆かわしい限りです」
ハモンドさんは首を横にゆっくり振りながら、なんだか悲痛な面持ちでまた深く息を吐き出す。
ハモンドさんも思うところがあるのだろうが、別にハモンドさんは何一つ私に対して失礼なことも、悪いこともしてはいない。
だからハモンドさんが私に対して罪悪感を持つ必要なんてどこにもないのに、彼の老紳士は見た目以上に心も紳士なのかもしれない。
だけどこれは、私にとってはチャンスと言える。
「私は別に、もう気にしてませんよ? それに、もともとはうちの親が無理矢理、約束をむしり取ったようなものだって聞いてますし、ユージー様のお父上様も、仕方なくって感じだったんじゃないですか?」
このチャンスを生かさずして、何のためにここに来たと言うのか。
私は笑顔で気にしてない体を装い――てか、いまだにユージーは殴り飛ばしたい気持ちがあるので仕方ない――ながら、それとなくユージーの父親のことを言葉に絡めてみた。
そもそも、私の両親が金の工面をしたことと、ユージーの父親が魔道具を手に入れることができたのは決して無関係ではないはずなのだ。
そして私の読み通り、私の言葉でハモンドさんは疲れたように両肩を落として見せると、紅茶を一口飲み込んでからぽつりと話し始めた。
「とんでもない話でございます。ここだけの話ですが、アンバーとユージー様の婚約の件は、こちらからそう仕向けたと言うのが正しく思います」
それは初耳なんですが。
「仕向けたと言うのは?」
ハモンドさんの言葉に首をかしげて見せる私。
私の聞いていた話とは違うんだけど、どういうことなのかと、言葉の続きを促してみる。
「ご本人様を前に失礼とは思いますが、前当主はサイノス商会の財産に目を付けていらしたのです。当時から、その噂は社交界でも耳に挟むようになっていたころでした。人脈もあり類稀なる商才で財を築いた有力者であると。なれば、当家の持つ爵位は魅力だろうと……」
「なるほど……ね」
そこまで聞いて、ハモンドさんの言う『仕向けた』の意味がやっと分かった。
そもそも、家に近づいてきたのはユージーの父親からなんだろう。
私の両親と知り合って、ちょっと話をすれば金と権力が大好きなことは一目瞭然だ。そこで、ユージーの父親は自分の持つ『爵位』を餌に、ユージーと私かセイラの結婚を約束させる代わりに、家の両親の人脈やら金を使わせることにした。
それらしくうちの両親をその気にさせて、婚約を取りつけたと、こちらが思うように。
そうすれば、少なくとも伯爵家としての威厳は保てるわけで、私の両親も関係を切られないためには催促されるままにお金も人脈も使ったことだろう。
どうやら、ユージーの父親であるミスロイは、ユージーと違ってそれなりに狡猾な人間だったのかもしれない。
「でも、ミスロイ様も無茶なことを考えましたよね。家みたいなただの商人の娘をお嫁さんにするなんて、親戚の人たちとかに反対されなかったんですか?」
私がそう聞き返せば、ハモンドさんはやはりため息を吐き出して。
「反対する声はあったのですが、ミスロイ様がほとんどお一人で決めてしまわれたのです。私としましては、主の意向に逆らうつもりはございませんでしたが、主の独断を快く思わない親戚筋の方々からは、絶縁に近い状態の処置をとられてしまいました。おかげで、当家は財政難に陥ろうといしていたのですが、追い詰められたからなのか、ユージー様の商才がここに来て開花されたのです」
ハモンドさんは少しだけ不思議そうな顔を見せる。
「確かにユージー様のお仕事はうまくいってるらしいですよね。でも、ハモンドさんは気になることでもあるんですか?」
「気になることと言いますか、ここだけの話ですが、ユージー様は昔からあまり勉強のお好きな方ではなかったので、ここに来て才能を開花させるのも、また不思議なことだと……他の者たちには内緒ですよ」
ハモンドさんの言葉に頷いて見せる私に、ハモンドさんは紅茶を一口飲み込んでから。
「こう言っては不敬にあたりますが、私の目から見ましても、ユージー様はあまり商才があるようには見受けられませんので、もしや、何かよからぬことに手を出しておいでなのかと心配したものです。まあ、お父上様と違って、ユージー様はおおらかな方でございますからね。悪事に手を染めるようなことはないと思いますが……」
うん。ハモンドさんって、今だいぶ遠まわしに表現したけど、率直に言っちゃえば、ユージーが、父親のように狡猾に動けるはずない。っていいたいんだろうな、これ。
「もしかしたら、ユージー様はミスロイ様が書き残した商売をうまく回すコツとか、そう言うのを参考にしてるかもしれないですね」
なんて笑顔で言ってみる。と、ハモンドさんは「ミスロイ様の残した……」と小さくつぶやき、ふと何かを思い出したように顔をあげた。
「ミスロイ様がユージー様に手紙や何かを残したことはございませんが、ミスロイ様がご趣味で集めた道具の中に、何か商売がうまくいくコツのようなメモか何かを残したのかもしれませんね」
それなら納得できる。という顔で、ハモンドさんは何度か頷いて見せた。けど、私の興味はユージーの商才よりも、ミスロイの趣味で集めた道具のほうだ。
「ミスロイ様は何かのコレクターだったんですか?」
私はとくに興味がないふうを装い首をかしげて見せると、ハモンドさんは苦笑い気味にしっかり頷いてくれた。
「実は、お亡くなりになる三年ほど前から、様々な怪しい道具や、何に使うかもよくわからないような物を集めていらしたようです。私には価値などさっぱりですが、ミスロイ様がユージー様に唯一残されたものですからね。きっとユージー様の商才の秘密がそこに在るやもしれません」
ハモンドさんはそう言っておかしそうに笑うと、興味無さげに紅茶を一口飲み込んでから、次の話題へ早々と切り替えてしまった。
お菓子作りは好きなのかとか、そんな話をされたけど、好きというか、普通に作れる程度のことだ。私はもっぱら食べるほうが好きです。なんて、ハモンドさんととしばらく談笑しながら、欲しい情報が手に入ったことに、私は内心ほくそ笑んだ。
一先ず出来上がっている分をアップしました。
残りは書き上がり次第ということで。