表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はニセモノ白者/著者:異世界トリッパー  作者: Lv.99
第一章 白者の異世界珍道中
9/26

7 国王と王妃

「そろそろ到着しますよ」


 厳重だけど、モスグリーンとサーモンピンクの縞模様という悪趣味な色彩の門をくぐり、やがて馬車が止まった。

 壮年の執事っぽい人(皆ローブを着てるからよく分かんない)が馬車の扉を開けてくれる。


「白者様、魔女様、オズラルド城へようこそ。私は執事長のリーベンソラルキー・クラムハウドと申します。ご滞在中、何かお困りの事が御座いましたら、私やこちらの者達に何なりとお申し付け下さいませ」


 と、全く覚えられそうにない名前の執事長から、にこやかに示された方を見てドン引きした。

 お城の入り口まで結構な距離があるが、その道のりにズラーっとメイドさん(よく見たらメイド服っぽいローブだった)と、執事っぽいローブを着た人達が並んで頭を下げている。

 右一列に執事、左一列にメイド……このど真ん中を通って行かなきゃいけないの?


「先ずは、それぞれのお部屋にご案内致します。さあサヴェンスヴォリィ、参りましょうか」

「おいコラ変畜、お前私を案内する気が全く無いだろ⁉︎」

「白者様、僕が荷をお持ちします!」

「はあ、どうも……」


 変畜と坊の先導で、靴音を響かせながら磨き抜かれたタイル張りの廊下を歩く。年代物らしき立派な絵画や大きな花瓶が飾られているけど、こういった物に(うと)い私には全部同じに見える。

 やっぱどこの世界も、お城の中って複雑な造りしてんだねぇ。ひとりで部屋に戻れって言われても無理だわこりゃ。

 案内された部屋は婆ちゃんの隣の客室で、壁はサーモンピンクで絨毯は紺色という痛い色彩。でも、家具は木造で統一されていたので、少し安心した。

 部屋の中を見て回ってる時に、トイレだと思ってドアを開けたら老女がコンニチワして驚いた。続き部屋だったらしい。

 うん、ここは開かずの扉にしよう。ウッカリ開けたら変畜とヨロシクやってましたなんて、そんな汚いシチュエーションは真っ平ごめんだ。

 そうそう、お城なだけあってトイレは水洗式だった。ヒャッホーイ!

 便器の近くに水魔法が込められた魔石があって、用を足し終わったら石に触れて魔力を少量注げば流れるらしい。

 試しにやってみたら便器が噴水になった。

 掃除に来てくれたメイドさん達、ゴメン。天井を突き破らなかっただけラッキーだったと思ってくれ。



「白者よ、荷解きは終わったか? そろそろ国王と王妃のところへ挨拶に行くぞ」

「うへぇー、メンドクサー」

「まあそう言うでない。王妃はおぬしと話が合うと思うぞ? それに、国王にも挨拶ぐらいしておけ。なんせおぬしの生活費は、あやつの個人的な資産から(まかな)っておるでの」

「は? 生活費って、婆ちゃん持ちじゃなかったの?」


 聞けば今まで私にかかった費用は、白者の捜索依頼(結局作ったけど)の報酬も含めて全て国王のポケットマネー持ちだったらしい。

 婆ちゃんが私に安価な服しか買って来なかったのは、生活費用に貰ったお金を少しでも浮かせて自分の金にするため。辛い自炊生活を強いたのも同じ理由っぽい……叩いていいですか?

 金にがめつい最強の魔女ってどうよ?


「ほれ、グダグダ言わずにサッサと行くぞ」

「……ほーい」


 私達は……と言うか、私は重ぉーい足取りで謁見の間へ向かうのだった。

 道すがら、ずっと疑問に思ってた事をぶつけてみる。


「ねえ婆ちゃん、本物の白者ってどういう仕組みで生まれるの?」

「ここセルフィーンには、聖域と呼ばれる場所が至る所にある。聖域には穢れのない魔力が密集しており、この魔力が魔物や自然災害を退ける。白者はこの魔力を各地から大量に消費して生まれると()われておるな」

「へぇー。聖域がお母さんみたいなもんなのかー」

「歴代の白者は一番多く魔力消費した聖域付近に誕生し、消費し過ぎた魔力が他の聖域と同じ位に回復するまで、その地に留まっておったのう」

「聖域の魔力が足らないと、魔物や災害のパラダイスになっちゃうもんねぇ……」

「じゃが五年前の代替わりの時、聖域から魔力を消費したにもかかわらず、白者は誕生せなんだ」

「何か理由がありそうだね。面倒な事にならなきゃいいケド……」

「現在の被害状況から察するに、本来なら今代の白者は、一番魔力の消費が激しかった最果ての大国シンクルード辺りに生まれるはずじゃったと思われるな」

「その消費された魔力って、何処行っちゃったの?」

「それが分かれば苦労は無いのう……。この問題が解決せぬ限り、次代の白者が生まれる事は無いと儂は予想しておる」


 じゃあ、どうにかして本物の白者が生まれるように、このシステムを元に戻さないとダメなワケね。

 因みに、聖域の魔力は放置するか、白者がその地に留まる事で自然に回復するらしい。勿論、後者の方が回復速度が早くなる。

 うわー。コレ、絶対その最果ての国に行かなきゃダメなパターンだ。そんな災害と魔物だらけの場所なんか行きたくねぇー。



 あれこれ考えてるうちに、謁見の間に着いてしまった。あー、気が重い。

 ローブを着てるくせに帯剣してる兵士達が、私達を見るなり(うやうや)しくお辞儀をし、重厚な扉を開けてくれた。

 中は客室と同じ色彩だけど、広さと天井の高さが圧倒的に違う。

 気が遠くなるような高さの天井付近には、六つの大きなシャンデリアが浮遊していて、それらが動く度にキラキラ輝いてとても綺麗だ。

 そして正面にある二つの玉座には、国王と王妃がそれぞれ腰掛けてる……と思ったら、サーモンピンクの豪奢なドレスローブを着た王妃がガバっと立ち上がった。


……ん?


 見た目の年齢は、20代中頃かな。低めの身長に、ボブカットのこの世界ではあり得ない黒髪。遠目だけど、クリクリした大きな目は多分ダークブラウン。

 そして何より懐かしい感じのする、この彫りの浅い顔立ちはもしや……


「白者さん、話を聞いた時からずっと会いたかったんです! 私はエリカ・オズラルドで旧姓は笠原、笠原(かさはら)恵梨香(えりか)です!」


 彼女はそう言いながら私に駆け寄ってきて、思いっ切り抱き付いてきた。


「に……日本人⁉︎」

「こらエリカ、初対面なのに失礼だろう?」


 苦笑いしながらモスグリーンのローブを着た国王がそう言ったが、恵梨香ちゃんはまだ私に抱き付いてスリスリしてる。きゃわいー!

 王族が気軽にそんな事していいのかと思ったけど、人払いをしてくれたのか、謁見の間には私を含めた四人しか居ない。


「白者殿に魔女殿、此度は無理を言ってすまなかった。詳細はマバレンより聞いている。本当は私が出向かねばならなたったが、今は城を離れる事が出来ぬ故……取り敢えず話をしたいので掛けてくれ」


 国王が、私に抱き付いていた恵梨香ちゃんをベリっと引き剥がす。ははーん、ヤキモチだな?

 その引き剥がし作業が終わると同時に、いきなり目の前にテーブルと椅子が現れた。彼の魔法なんだろうけど、こういうのって心臓に悪い。

 全員が席に着いたのを見計らったかのように、メイドさんがお茶と茶菓子を持ってきてくれた。どーせなら、そこも魔法にしようよ。まあ、紅茶も茶菓子も食べられない私にはあんま関係ないけどな! ケッ。

 こうして、国王夫妻とのお茶会が勝手に始まった。


「私はオズラルド国王、ダフゲトシュ・オズラルド。お察しの通り、妃のエリカは白者殿と同じ異世界から召喚された」


 グレーの短髪に薄いピンクの眼をした国王は、ヨーロッパ系の爽やかイケメンって感じ。

 ちっちゃくて可愛らしい顔立ちの恵梨香ちゃんと並ぶと、お似合いのカップルだ。ここにもリア充が居たよ。嫌がらせか?


「エリカは私の妃となるべく、夜の神子として六年前に召喚したのだ」

「それも随分勝手な話だよね。恵梨香ちゃんは納得してるの?」

「最初は戸惑いましたけど、ダフゲトシュやこの国の人達に(ほだ)されてしまったというか……」

「とっても正直な意見だね……」

「多少強引な召喚であった事は認めるが、私達は一年間の恋愛期間を経た上で婚姻を結んだのだぞ?」


 強引だったのは認めるんだね……。

 まあ、本人達が納得して結婚したのなら、私が口出しする必要は無いか。


「だが婚姻して早々、丁度白者不在の五年間と重なってしまい、国の為に翻弄(ほんろう)される日々が続いていたのだ」

「慣れない異世界でのハードな生活は、私にとっても凄く辛かったんです。それで見かねたダフゲトシュが、魔女さんに何としてでも白者を探して欲しいって依頼してくれたんです」


 まあ要はアレだ、彼女は典型的な異世界トリッパーだ。

 いきなり見知らぬ城に飛ばされて、イケメン陛下と擦った揉んだした挙句、めでたく結婚とか何その王道。

 こちとら来て早々、生きるために虫や獣にかぶり付いてたんだぞ!


「白者さんが居てくれるお蔭で、徐々に魔物や自然災害の被害が減ってきてるんですよ。今ではダフゲトシュと二人の時間も少し取れるようになってきて……本当に感謝してますっ!」


 照れながらも、ちゃっかり惚気(のろけ)る恵梨香ちゃんはやっぱりきゅわいー。何処ぞの老人と変態の気持ち悪りぃ惚気(のろけ)話とは雲泥の差だ。

 前に婆ちゃんが言ってた「白者が存在するだけで災害や魔物はある程度抑えられる」って、本当だったんだねぇ。私、何もしていないのに感謝されちゃったよ。


「だが、まだ深刻な被害を受け続けている国もある。今回の夜会で、彼らを少しでも安心させてやって欲しい」

「安心ねぇ……そう上手く行くかなぁ?」


 ってボヤいたら、


「白者殿はこの先、被害が大きな国に(おもむ)くのだろう?」


 と、さも当然のように言われてしまった。うぅ、やっぱ行かなきゃダメ?


「因みに一番被害が大きな国って……えーっと、シルクロードだっけ? その国って遠いの?」

「……北の最果ての大国、シンクルードだ。オズラルドから通常なら、転移術を使いながら進めば一週間、馬車だとひと月程だな。かの国は、今回の夜会を欠席せねばならぬ程深刻な状況にある故、通常よりも時間が掛かる可能性がある」

「げっ、そんなにかかるの? ますます行く気が萎えるわぁぁぁぁ」

「私も影ながらお手伝いしますっ。これでも癒し魔法は得意なんですよ? 沢山魔石を作るので、是非使ってください!」


 君は健気だなぁ。こーんな可愛い子に言われちゃったら、もう行かなきゃダメじゃん。


「そういえば、この国は代々異世界から花嫁を召喚してるんだよね? 寿命の違いとかどうしてるの?」


 化け物以上の寿命を持ったこの世界の人達にとって、地球人の一生なんて一瞬だよね。


「代々婚姻式の際、白者殿に魔法でこちらの寿命に変換してもらっていたのだが……今回は間が悪い事に、消滅日と重なってしまってな。かと言って挙式当日に延期など出来ぬし、最強の魔女も遠方に滞在していた故、私の魔法でどうにかするしかなかった」

「自分の魔法で何とかなるなら、最初から白者とか要らないじゃん」

「それはそうなのだが、伝統というのもあるのでな」

「色々面倒臭いなぁ」

「それに、この魔法は膨大な力を必要とする。幾ら魔力の多い王族とはいえ、私一人ではどうにもならなかった。そこで、世界中の魔力をかき集めて、やっとどうにか成功させる事が出来たのだ」

「あの魔法が下手だった小童が、ここまで大きな魔法を成功させるとはのう。愛の力とは偉大じゃな」

「ま……魔女さん、あ……愛の力とか恥ずかしいですぅー!」


……おいコラちょっとマテ。


「ねえ、さっき『世界中の魔力をかき集めた』って言ったよね?」

「? ああ言ったが?」

「その魔力って、どう考えても消滅日に聖域から貰ったって事だよね? 次代の白者が生まれなかったのは、あんたの所為じゃね?」

「「「……‼︎」」」

「お前等、気付かんかったんかいっ!」


 事の元凶が、まさかこんなに近くにいたとは。結婚式なんて、見栄を張らずに延期すれば良かったのに。

 恋は盲目も、度を過ぎれば公害にしかならないね!


「あーあ、そのシルクロードとかいう国も、誰かさんの所為で可哀想に。――チラ

私はこれから、その誰かさんの尻拭いをしに行かなきゃいけないのかぁ。――チラ」

「っぐ……シンクルードへの旅費等、かかる費用は全て私が持とう。どうかこの件は内密に……」


 よっしゃ、経費確保成功! 国王の目が、水泳選手並に泳ぎまくってて面白かった。

 居心地が悪くなったのだろう、「私達はこれから公務がある故……」とか言いながら、未だ混乱している恵梨香ちゃんを連れて、そそくさと部屋を出て行ってしまった。ヘタレ国王め!





 明後日の夜会までは自由行動だ。

 手始めに、王宮内にある温泉大浴場(王族用らしい)を思う存分堪能。湯上りには、美人メイドさん達のマッサージ付きで大満足だ。

 何より嬉しかったのは、ただ待ってるだけで生肉にありつける事! おまけに、婆ちゃん家では滅多に飲ませてもらえなかったお酒も飲み放題だった。

 でも、幾ら飲んでも全く酔わなかったのは何故だろう。この体はアルコールに耐性でもあるのか?

 多少引っ掛かる出来事はあったものの、こうして滞在一日目が無事に終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ