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私はニセモノ白者/著者:異世界トリッパー  作者: Lv.99
第一章 白者の異世界珍道中
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4 偽物は歌う

 スパルタ教育のお蔭で、私は随分野生的になったと思う。刃物一本でひたすら狩りしてたからなっ!

 地球サイドの夢日記は、きっと愉快な事になってるだろう。ほぼ毎日新しい知識……と言うか技術を詰め込んでるからね。

 対するこっちサイドの夢日記も、順調っちゃあ順調。


「おお! 職業判明!」


 夢と認識してるから断片的にしか思い出せないけど、日記を繋ぎ合わせたら私の職業が分かったのだ。

 なのに何度読み返しても、自分や家族の名前の手掛かりが無いのが不思議。



「婆ちゃんオハヨー、私は弁護士だ!」

「……ベンゴシ?」


 この世界には、弁護士という職業が無いのかな?


「えーっと、法律に関わるお堅ぁーい職業だよ」

「随分大雑把な説明じゃの。法律に関わる……おぬしの国は大丈夫なのか?」


 失礼な! いっぱい勉強しないとなれない職だぞ。


「家庭の事情で、嫌々就いたんだよ! 向こうでは、この性格をかなり抑えてるみたい」

「フォッフォッフォ。こちらの生活が元の世界で良い方向に転ぶといいのう」



 その日の朝食後。


「ふむ、そろそろ頃合いかの。白者よ、今日から魔法の訓練を始めるぞ」


 イヤッホーーーーイ‼︎

 その言葉をずっと待ってたんだよ!


「私、状態保存の魔法を覚えたいっっ‼︎」


 目を血走らせながら、鼻息も荒く詰め寄る。婆ちゃんドン引き。

 この魔法さえ使えるようになれば、新鮮な肉を何日も保存しておけるのだ。ノーモア毎日狩り!


「ゴホン、まあ待て。いきなりそんな上級魔法が扱えるわけなかろう。先ずは基本からじゃ。ほれ、庭で始めるぞ」


 やっぱり基礎からなんですね、分かります。

 てか、状態保存って地味そうに見えるけど、上級魔法だったのか……。





 今日は良い天気だ。太陽が二個あるのも見慣れてきた。

 婆ちゃん家の庭には柵が無いので、背後に家がなければ森に囲まれた広い空き地にしか見えない。

 薪の山や藁の塊が置いてあったりするけど、魔法の練習をするスペースは充分ある。


「魔法の属性は大きく分けて光・火・水・風・土・闇・時・癒しの八つじゃ。得手不得手はあれど、白者は全ての属性を扱える。じゃが、おぬしは全くの初心者じゃからのう……先ずは基本中の基本、火起こしの魔法から始めるか」

「ほーい」

「そこに木屑の山がある。あれに火が付いた状態を思い浮かべながら、他のことは一切考えずに『燃えろ』と念じてみろ」

「へ? そんだけでいいの?」


 なんか拍子抜けだなぁ。でもこれが基本だしな、やってやろうじゃないの!

 えーっと、燃える木屑の山をイメージね――オッケー。

 んでもってー、燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ……


「「…………」」

「うんともすんとも言わないね」

「おぬしの集中力が足らんのじゃ。もう一度やってみろ」


 それから小一時間程粘ってみたけど、火どころか煙すら上がらなかった。


「ぐぬぬ……なーぜーだー!」

「ふむ、おぬしは邪念が多過ぎるのかもしれんの」

「失敬な! 真面目にやっとるわっ」

「まあそう睨むでない、本物の白者とは勝手が違うのやも知れぬ。火を思い浮かべながら、歌でもうたってみたらどうじゃ?」

「何故に歌⁉︎」

「呪文の代わりじゃ。音程があった方がより集中出来るじゃろ」

「そういうもんかねぇー?」


……歌かぁー。


「……フンフンフフフーン、フンフフ――あだっっ‼︎」


 っくぅー、また本気で鉄拳食らわせやがったな⁉︎ 星が見えるぅ。


「イテテテ……歌えっつったじゃんかっ」

「阿呆か、誰が鼻歌交じりで楽しめと言った。ちゃんと歌わんか!」

「始めっからそう言えよっ」


 こうなったらヤケクソだ。この木屑め、消し炭にしてくれる!


『あぁー 憎きぃー 木屑ぅよー

サッサとぉー 燃えやがれぇー

私はぁー そんなにぃー

暇じゃー ないぃー』


「……どういう歌詞じゃ!」

「うー、本気で歌ったのに何も起こらない……」


 また何も起こらなかったと落ち込んでいると、地鳴りと共に地面が大きく揺れだした。


「ん? 地震?」


 揺れは収まるどころか、どんどん大きくなっている。


「――いかん! 白者、後ろに下がれ‼︎」

「えぇ⁉︎」


 慌てて婆ちゃんの側まで駆け寄ると、結界魔法をかけられた。

 その直後、木屑の山があった場所から噴水の様にマグマが噴き出した。しかもその一箇所だけでは終わらず、別の場所からも次々と噴出していく……。


「ぎゃーー! 最強の魔女がご乱心な「おぬしの魔法じゃろーが!」」


 これ以上被害が広がる前に、婆ちゃんが魔法で速やかに()つ迅速にマグマ地獄を消し去った。

 辺り一面穴だらけの焼け野原になってしまったけど心配ご無用、魔法であっという間に元通り。

……もう婆ちゃんが白者でよくね?


 その後も訓練は続行されたが、日が暮れるまでに少なくとも六回はご乱心なさった。





「ふはぁー、今日はエライ目にあったぁー」


 訓練が終わる頃には、もうフラフラだった。帰宅するなり、歌い過ぎでイガイガする喉に冷たい水を流し込む。


「それはこっちの台詞じゃ! おぬしはさじ加減というものを知らんのか」


 あれから、十回以上再挑戦して二回は成功したけど、六回は例のマグマ地獄で残りは不発......婆ちゃんがこう言うのも無理はない。


「ねえ婆ちゃん。この体、燃費が異常に悪いような気がする。魔法を使う度に凄ぉーくお腹が減るんだけど!」


 この空腹が集中の邪魔をするんだよねぇ(言い訳)

 婆ちゃんは何も食べずにジャンジャン魔法使ってるのに対して、私は数回使っただけで異常にお腹が減る。


「おぬしが無駄に魔力を使うからじゃ。あれだけ大きな魔法を六回も放てば、腹も減るじゃろうて。

普通の人間であれば、魔力切れを起こしてひっくり返っとったところを、空腹で済むとは……ブツブツ……」


 いかん、また自分の世界へ旅立たせてしまった。

 でも、さっき婆ちゃんが言ってた事で何となく分かった。スパルタ教育の賜物だね!

 以下、私なりの見解。


 通常魔法を使う人は、睡眠や魔力切れで気を失う事で自然に魔力が回復する。

 でも私の場合、眠っている間の体は魂の無いただの器だから、自然に回復する事は出来ない。

 なので、魔力切れでひっくり返っても何のメリットも無いから、この体は食べた物の大半を普通より多く魔力に変換して回復してるんじゃないかな。

 そう考えれば、異世界初日に感じたあの異常な空腹感も説明がつくし。

 でもこれ、事情を知らない人から見ればゲテモノ&大飯食らいだと思われるな……。

 あれ? 目から水が……


 夕飯が終わっても婆ちゃんが帰還する気配が無かったので、この日は早々に小屋へ引き上げた。





 今朝はどんより曇り空だ。

 雨が降り始める前に今日の分の狩りを済ませ、庭で魔法の訓練に取り掛かる。


「おぬしは魔法のさじ加減を学ぶ必要がある。昨日の教訓を活かし、ここにある芋を使って焼き芋を作る練習でもしておれ」


 そう言って渡されたのは山盛りの芋。成功した分は、婆ちゃんのご飯になるらしい。

 しかし凄い色した芋だな。皮が水色という、野菜にはあり得ない色だ。試しに切ってみたら、中は濃いブルーだった……これ、食べられるの?



『貴方は美味しい焼き芋さぁーん

ホックホクのぉー フワッフワぁー』


――また炭になってしまった。これで十一回目の失敗。今のところ0勝11敗かぁー。はぁー……。

 昨日みたいにマグマが噴き出す事はなくなったけど、何が駄目なんだろう?

 半分自暴自棄になりながら考え込んでいると、足元から弱々しい声が聞こえるのに気付いた。


「ピィー……ピィーピィー……」

「……ん? 鳴き声?」


 見下ろすと、オレンジ色の小鳥が地面でグッタリしている。因みに、この小鳥は脚が四本、翼が四枚ある。

 そう言えば、前に似た様な鳥を狩った事があるなぁ。小さいけど、今夜のおかずにしてしまおうか? と思ったけど、やっぱ辞めた。

 四枚ある翼のうちの一枚が、真っ黒に焼け焦げていたのだ。……もしかしなくても、私の魔法のとばっちりを受けたんだね……。やば。



 小鳥を優しく抱えつつ、家のドアを勢い良く蹴り開ける。


「婆ちゃん大変っ、鳥に怪我させちゃった」


「おぬしは扉を破壊する気か!……どれ、見せてみろ」


 作業台の上に、小鳥をそっと寝かせる。うわぁー、改めて見るとかなり酷い火傷だ。い、痛そう……。


「自分でやっといて何だけど、この火傷治せる?」

「ふむ、丁度雨も降ってきたことじゃし、ここいらで癒し魔法の訓練でもやろうかの」


 見れば、窓の外は生憎の雨模様だ。これじゃあ外で火起こしの練習は出来ないな。


「でもさ、もし失敗しちゃったらどうするのさ? 治そうとしてるのに、逆に止めを刺す事になったら……」

「儂が補助する故、死んでしまう事は無いじゃろう。癒し魔法も基本は一緒じゃ。成功すれば健康な時の状態に戻る」


 婆ちゃん曰く、外傷を治す魔法は癒し魔法の基本なんだそうな。

 でも、重い病気や命に関わる大きな怪我は専門知識を必要とするので、その治療魔法は主に医者の仕事らしい。この世界の医者は知識だけじゃなくて、癒し魔法の素質も必要なのかぁ。


「その鳥が元気に飛翔する姿を思い浮かべながら歌ってみろ」

「ほーい」


『小鳥さぁーん ごめんねぇー

治すからぁー 慰謝料の請求はぁー

無しの方向でぇー お願いねぇー』


――おお! 小鳥の体が淡いエメラルドグリーンに輝きだした……と思ったら


「うわっ、眩しい!」

「おぬし……またさじ加減を誤ったの?」


 眩しかったのは一瞬だけで、光は直ぐに収まった。小さい生き物だったからかな?

 が、作業台の上を見てゲンナリした。


「……健康な状態に戻し過ぎちゃったかもー」


 そこには、オレンジ色の小さな卵が鎮座していた……。


「はぁー……。物はついでじゃ、次は時魔法の訓練にしようかの。その卵を元の鳥の姿まで成長させてみろ」

「任せろ!」

「良いか? 間違っても、老衰するまで成長させるでないぞ? 死んでしまっては、流石の儂でも生き返らせる事は出来ぬ」

「……ほーい」


 今度はやり過ぎないように、卵に向かって歌で語り掛ける。


『小鳥さぁーん 卵からぁー 出ておいでぇー

早く大きくぅー ならないとぉー

卵のままぁー 食べちゃうぞぉー』


――お、今度は赤い光だ。光のシルエットが鳥の形になり、どんどん大きく成長していく。

 どんどん大きくなる……まだ大きくなる……


「ギエェェー、ギェッギェェー」

「「…………」」


 結局小鳥さんは、作業台がいっぱいになる位成長した。どう見ても怪鳥だ。


「まあ……なんて立派な赤ちゃんなのかしらっ」

「どこがじゃ! 立派な大人じゃ!」


 あの小鳥って、こんなに成長するんだ……。

 作業台が狭過ぎたのか、暴れて羽毛を撒き散らせ始めたので、玄関を開けてやったら雨の中元気に飛び立って行った。


「達者で暮らせよぉー! そのうち狩ってやるからなぁー」


……婆ちゃんの呆れ顔が心に沁みる。

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