表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はニセモノ白者/著者:異世界トリッパー  作者: Lv.99
第一章 白者の異世界珍道中
4/26

2 空腹は最高のスパイス

 やあ、私白者。只今空腹と格闘中。


「おーなーかーすーいーたー!」


 お腹の虫が、怪鳥の様な悲鳴をあげている。婆ちゃん話長いんだもん。軽く三時間は喋ってたと思う。


「ほら出来たぞ。こら! まだ食うでない! 合わぬ物を食せば、体が拒否反応を起こす。説明を聞いとかんと痛い目を見るぞ」


 ぐっ、まだ喋るのかこの婆さん。食べ物を前にして、空腹を我慢しつつ長話とか何この生殺し。


 例の作業台の上に並べられた料理の数々。

 あのー、そこ、さっきまで私が寝てた所なんですケド。しかも立ち食いデスカ、そうデスカ。

 まあ、一脚しかない椅子は、婆ちゃんが占領してるしね。


「白者が食せる物はかなり限られるが、一人ひとり異なる場合が多い。野菜しか食べられぬ者、肉しか食べられぬ者、中にはナップしか受け付けん者もおったそうじゃ」

「ナップ?」

拳大(こぶしだい)の果実じゃ。赤い皮に、中身は白くて甘酸っぱい味と言えば分かるかの?」

「ふぅーん、林檎みたいなもんか。でも、それ一種類だけとかキツイわぁー」

「本物の白者は、本能で自分が食せる食物を知るらしいが、この世界の常識が無いおぬしには、その本能が備わっておらん。取り敢えず思い付く食物を揃えてみた故、一通り試してみろ」

「なんか凄く怖いんですけど」


 確かによく見たら野菜、肉、果物といった感じでカテゴリー別に皿に盛られてる。

 初めて見る食べ物ばかりだし、色も変にカラフル。これ、ホントに食べられるの?


「こんなに沢山あるのに、食べられるのはどれか一種類だけなのか……。でも背に腹は変えられないし空腹は最高のスパイス、片っ端から試してやる!」



――結果、全滅でした。


 いや、もう、壮絶な戦いだった。

 合わない食べ物は体が受け付けないとは聞いたけど、ここまで拒絶反応を起こすとは思わなかったよ。


 口に含んだ瞬間に全身に湿疹が出たり、急激にお腹が痛くなったりetc……。

 体の異変は速攻で婆ちゃんが魔法で治してくれたけど、結局どれもこれも飲み込む前に吐き出す始末。よって、空腹は満たされず……。

 この結果が何故か婆ちゃんの研究魂に火をつけたらしく、


「ふむ、普通の食物ではないのかもしれん、次はこれを試してみろ!」


 と、石ころとか木屑を持ってきやがった。


「んなモン食えるかーー‼︎」


 って思わず家を飛び出したものの……お腹空いたぁぁぁぁ……。

 てか、婆ちゃん家って森の中にあったんだね。森の中にポツンと古い家って、魔女のテンプレだよね。レンガ造りの家に、モスグリーンのペイントは頂けないけど。

 よく考えたら、森って食べ物の宝庫だ。

 足元には美味しそうなキノコ――これは唇がビックリする位腫れ上がったヤツだ。

 すぐ側にある木を見上げれば、たわわに実った甘そうな果物――鼻血が噴き出るヤツだ。


「うぅっ、こんなに沢山食べ物が転がってるのに、何ひとつ口に出来ないなんて!」


 お腹の音をBGMに、森の中をフラフラ彷徨うこと数十分。


「――ん? なんか凄くいい匂いがする?」


 香ばしいと言うか、食欲をそそる匂い。こんなにいい匂いがする物、さっき試した食べ物の中には無かったぞ? 遂に食べられる物の発見か⁉︎

 そりゃあもう、死に物狂いで匂いの元を辿りましたよ。きっとこの時の私の顔は恐ろしいことになってたと思う。


「ハァー……ハァー……ハァー、み……見つけた‼︎ でも……どうしよう?」


 こんな事なら見つけない方が良かったかもしれない。そう思う位ショッキングな現実だった。

 ソレは大木の根元にあった。いや、居た。


 大きさは掌サイズで……(うごめ)いてる――虫‼︎


 イモムシっぽいのも居れば昆虫っぽいのも居て、それぞれが食欲をそそる匂いを発している。


「はははっ。いや、まさかねー」


 現実逃避を試みる――どう転んでも匂いの発信源はコイツ達だ。でも虫、まごうことなき虫!

 私は今空腹だ。凄く空腹だ。恐らくこの体は一度も物を食べた事が無いのだろう、今まで生きてきた中で、こんなにお腹が空いた事は無いと思う。異常な程の空腹感だ。

 だがしかし! この目の前のご馳走を食べた瞬間に女として、否、人としての何かが終わる気がする。

――あ、今の私は人間じゃないんだっけ。そりゃそうだ。でなきゃ、こんなグロテスクなもん、美味しそうだなんて思うはずが無い。


「うぐぐっ、お腹は空いてるけど、これは幾らなんでも……」


 延々と30秒程考えた結果……



……食べましたよ。ええ、食べましたとも!……文句あるか⁉︎

 でも、ちゃんと近くの小川で綺麗にしてから食べたよ?

 ちゃんとトドメを刺して、昆虫っぽいのは脚を()いでから頂きましたよ?

 ほら、人としての(たしな)みを忘れてないでしょ? 忘れてないって言えやあぁぁぁぁ‼︎


――で、肝心のお味は……大変美味で御座いました。

 初めての味と食感だったけど、この世の物とは思えない位美味で御座いました。三匹程美味しく頂きました。


 食べ終わった後で、ちょっと泣いた。





「眼と髪の色はちょっとアレだけど、折角見た目がエルフっぽくなってラッキーとか思ってたのに。おまけにチート並の力も使えますよ、なんて言われたら普通浮かれもするっしょ。そんな中でのこの仕打ち。テンションガタ落ちだ、もうガッタガタだぁ! 主食が虫とか! イモムシとか!……美味しかったけどな! ちくしょー」


 ひとりでブツブツ言いながら思い悩んでても(らち)が明かないので、家に戻って婆ちゃんに一通り報告。


「なんと、そうか虫だったのか! これは歴代の白者の中では初めてじゃ。ということは、若しやアレも――」

「まあ、どーせ私は本物の白者じゃないし? これからもきっと新たな発見が目白押しだと思うよ」


 私のやさぐれて棒読みの台詞も、彼女の耳には入らなかったらしい。

 どうやら食べ物の件がまた婆ちゃんの研究魂に火をつけてしまったらしく、再び自分の世界へ旅立ってしまった。

 ところで婆ちゃん、その作業台の上に乗っかてる石ころと木屑はさっき見たけど、紙やらガラスの破片やらが追加されてるのは気の所為か? こんなモン食わせようとしとったんかい!


 特にやる事が無いので、部屋に所狭しと置かれてる不気味なグッズを暫く眺めてたら、漸く婆ちゃんが自分の世界から帰還した。

 そしてキッチンで何やらゴソゴソしてたと思ったら、皿を片手に戻ってきた。

――嫌な予感がする。


「白者よ、次はこれを試してみろ」


 皿の上には、多種多様な生肉が少量ずつ盛られていた。


「……喧嘩売っとんのかゴルァーーーー‼︎」



――結論から言おう、普通に全部食べれた。


「何故⁉︎ どうして⁉︎ こんな物が美味しいなんて……この世界には、神も仏もないのかぁー!」


 中でも、血が滴る様な生肉が一番好みだという余計な新発見までしてしまった。

 じゃあ、私は肉食タイプの白者なのか? でも肉料理は最初に食べたけど、強烈な拒否反応があったぞ?


「どうやらおぬしは、調理前の新鮮な肉が主食のようじゃ。今のところ虫と獣、鳥類は大丈夫そうじゃな。おお、魔物の肉も問題無いぞ」

「こら待て! 最後の魔物は問題大アリだろ。……生肉の時点で、全体的に満遍なく問題だらけだけど」

「ふむ、生肉でも味付けしてある物、若しくは少しでも焼いてあると食せぬらしいの」

「それって、人間らしい食べ物は一切食べられないって事?……マジか!」

「ほれ、次は飲料を調べるぞ」


 飲料系も色々試した結果、水とアルコール類はオッケーだったけど残りは全滅。でも血が滴る肉が食べられるので、血液もイケるクチだと思われる。全然嬉しくない。

 不思議なのが、果実や穀物から作られたお酒でも大丈夫だった事。試しにアルコール漬けの果物を食べてみたけど、案の定ダメ。液体限定なのね......。


「飲み物も変に偏ってる気がする……水とアルコールと血液って……」

「中々に興味深い結果じゃのう……」


 婆ちゃんもこの法則には首を傾げてたけど、やっぱりマイ・ワールドへ旅立つオチで終わった。



 余談だが、生魚もオッケーだと後日判明する。


「この理論でいくと、おぬしは人の肉も食えるぞ!」


 と、細い目をキラキラさせながら、研究バカが何やらほざいてた。


「試す気も、研究に付き合ってやる気も全く無いからな‼︎」


 もしどうしても食うに困ったら、私は迷う事無く虫を食すだろう。





 食べ物の件がひと段落した頃には、もうすっかり日が暮れていた。

……月がピンクで星が緑だ。


「今日はここまでが限界かの。続きはまた明日じゃ」


 ああそうだ、早く寝ないと地球の私がダメ人間になるんだった。

 でも、ここでふと疑問が浮かんだ。


「ねえ、私は何処で寝ればいいの? 婆ちゃんと同室?」


 この部屋は、物が溢れかえり過ぎてて論外。用途が判明した以上、石ベッドはもう嫌だ。

 他の部屋は婆ちゃん用の狭い寝室(意外と片付いてて驚いた)が一部屋のみ。

 部屋の主曰く、


「人が増えると、狭くて落ち着いて眠れん!」


 と、相部屋を断固拒否。

 言い分は分からなくもない。何故なら、この婆さんは縦に結構デカイのだ。

 身長170センチの私が見上げる位だから、180センチはあると思う。でも若干腰が曲がってるので、若かりし頃はもっと高かったのだろう。

 これが普通の身長だと言ってたから、この国、若しくはこの世界の平均身長はかなり高いのかも。


――話を戻そう。


「おぬしの寝床はこっちじゃ。ついて来い」


 実のところ、婆ちゃんは前もって私の寝床を用意してくれてたらしい。早く言えよ。

 あんま時間も無いし、大人しく婆ちゃんの後をついて外に出る。

……外?

 そして、家の裏手にある小さな馬小屋らしき建物の前で立ち止まり……

――も……もしや?

 奴はこう言った。


「今日からここがおぬしの寝床じゃ」


 まさかの家畜扱いキターーーー‼︎


「ゴルァ、このクソババア。私に何か恨みでもあんのか⁉︎」


 自然と口が悪くなるのは当然だと思う。


「誰がクソババアじゃ! 最強の魔女であるこの儂の魔法を甘く見るでないわっ」

「うわぁ、また出たよ。中二病発言がまた出たよ!」

「この小屋は、儂とおぬし以外の生物には見えぬ上に触れもせぬ」

「随分と過保護だねぇ」

「幾ら強い力を持った白者とはいえ、魂が無ければただの肉の塊じゃ。全くの無防備時に外敵から襲われると、白者の肉体でも死んでしまう可能性が高い」

「過保護にして頂いて、本当にアリガトウゴザイマス」


 最強の魔女だって睡眠や休息は必要だから、四六時中見張るのは不可能。

 そこで活躍するのが、結界やらその他様々な守護魔法がかかったこの家畜小屋ってワケ。

 狭くて簡素な分、ググッと魔法が凝縮されるので、家全体に術をかけるよりずっと効果が高いそうな。

 小屋の中も本当に簡素で、ベットがひとつ置いてあるだけ。でも狭いので、他に何も置けそうにない。

 はぁー、もう色々諦めて受け入れよう。あの婆ちゃんに期待するだけ無駄だ。


「明日も覚えてもらう事が沢山あるでの。向こうで夜更かしをするでないぞ」

「……ほーい」


 気の無い返事でも満足したのか、婆ちゃんは家へと帰って行った。

 (わら)で作ったマットレスに、シーツを被せただけのベッドに横たわる。


「お? 意外と柔らかい。しかもこれ……低反発? 何これスーパー藁じゃん!」


 掛け布団は無いけど、室内は暑くもなく寒くもないから必要なさそう。外は肌寒い位だったのに……これも魔法?

 見た目に反して快適な寝床にほんの少ぉーし、ホントちょびっと、鼻クソ程度の感謝を婆ちゃんにしつつ、異世界第一日目を終えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ