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私はニセモノ白者/著者:異世界トリッパー  作者: Lv.99
第一章 白者の異世界珍道中
3/26

1 目覚めればシオシオ

初投稿です。感想はお手柔らかに……

『……めよ…………よ』


――うーん?


『……覚めよ…………よ』


――ウルサイなぁ


『目覚めよ、白者(はくじゃ)よ』


――うー、あともう五時間


「さっさと起きんか! このたわけ‼︎」

「んがぁあ⁉︎」

「よし、覚醒は成功じゃの」


 いや、なんか最後のほう耳元で叫ばれたような……?


 眉間にシワを寄せつつ、乱暴な起こし方をした主を見てビックリ。だって、真っ黒なローブを着た外国人っぽいお婆ちゃんが、横たわる私を見下ろしてるんだもの。

 真っ白なザンバラ髪で、灰色の眼は細く釣り上がり気味。加えて超ワシ鼻で、如何(いか)にも「色んな呪いかかってます!」な感じの気味悪い首飾りをジャラジャラ着けてるし、その容貌はまるで……


「ビッチ⁉︎ あ、違った。ウィッチだった。慣れない英語は使うもんじゃないね」

「びっち? 儂の名はサヴェンスヴォリィじゃ。一応この国では、最強の魔女として暮らしておる」

「さべす……魔女? ここ何処?」


 英語通じてないし。今気付いたけど日本語ペラペラだし、自分で最強とか言っちゃってるし。


「ふむ、言語変換も成功じゃな。おぬしの体を魔法で形成し、白者としてこの世界へ覚醒させたのはこの儂じゃ」


 いや、そんな気持ちが悪いことをドヤ顔で言われても。


「えーっと、さんべすぼ……もうウィッチィーって呼んで良いですか? ウィッチィーさん、電波乙! オヤスミ」


 うん、よく分からなことは、寝て忘れるに限る。絶対夢オチだコレ。


「勝手に変なあだ名を付けるな。そして寝るな! いい加減起き上がらんか!」

「どうせ夢なら、もっと楽しい夢見たいし。イケメンとかならまだしも、目が覚めたらシオシオの老人と対面とかしょっぱ過ぎだし。せめてフワフワで、きゃわゆーい喋る動物出てこないかなぁー」

「誰がシオシオじゃ! 心の声がダダ漏れじゃぞ」


 おっと失礼、つい本音が。


「さっきから夢がどうとか言っておるが、いくら夢でも自分の名や家族構成ぐらいは覚えておるじゃろ。試しに今ここで言ってみろ」

「もー、ワガママなお婆ちゃんだなぁ。名前ぐらい言――あれ⁇」


 私は誰だっけ? 職業は? 家族の名前は? 家の間取りは……?

 いやいや、変な夢見てるからチョット混乱してるだけだ、うん、順を追って思い出そう。

 まず私は地球人、オッケー。性別は女、オッケー。日本生まれ日本育ち、オッケー。年齢は、成人した永遠の6歳児、オッケー。名前は――やっぱ駄目か……。


「やはり思い出せぬか。まあ、これは時間が解決してくれるじゃろ」

「あのー、全く話が見えないんですけど」

「見た目は向こうの世界のおぬしを元に作ったんじゃがのう……ふむ、覚醒と同時に若干変化したようじゃ」

「人の話聞いてないだろ! ってか、はいぃぃぃ⁉︎ それって、目や腕の数が増えてたりする……とか?」


 慌てて上半身を起こしたところで、ふと違和感を感じる。私ってば、今までこんな硬い石のベッド――と言うか、祭壇で寝てたの? さっきから背中が痛いはずだ。

 寝ていた面は平らだけど、側面は何やら細かくて複雑な模様が彫り込まれてる。ほえぇー、これ彫るのにどんだけ時間かかったんだろ?

――って、そんな事はどうでもいい! 自分の体を確認しなきゃ。

 恐る恐る体を見下ろしてみる……良かった! 普通に人間だ……と思う。

 一瞬「人間の見た目って、どんなのだっけ?」と考えたけど、目の前のお婆ちゃんと腕と脚の数は同じだから、多分間違いないと思う。

……私、頭がどうかしちゃったのか? いや、まだ安心出来ない。だって、首から上はまだ確認していないもの。


「あのー、お婆ちゃん。鏡ってある?」


 まだ研究の必要があるとか何とか、ひとりでブツブツ言ってる自称最強の魔女さんは、上の空で部屋の奥の壁に掛かってる姿見を指差した。

 難しい顔しながら、まだブツブツ言ってるし。こりゃ、完全に自分の世界にイッちゃってるな。


 よっこいしょと硬い祭壇ベッドから降りて、ぐるりと部屋を軽く観察してみる。

 部屋自体は多分広い。何故多分なのかと言うと、物凄ぉーく物がごちゃついてるから。

 私が寝てた祭壇ベッドが部屋の真ん中にデンっとあって、棚やソファー、コーヒーテーブルなんかは普通にあるけど、如何(いかん)せん物が多過ぎる。

 棚という棚には、本や怪しげな薬や生き物(!)が詰まった瓶が、これでもかって位押し込まれてる。

 棚だけでは収まりきれないのか、それらの物はソファーやコーヒーテーブル、床の大部分も占領。

 ドアが幾つかあるので、寝室やキッチンは別の部屋にあるのだろう。他の部屋の惨状は、想像するまでも無いか……。


 しっかし、これぞザ・魔女の部屋って感じ。

 中でも一番目を引いたのは、天井からヒモで吊るされてる物体の数々。何かの内臓っぽい干物や、よく分からない動物の頭蓋骨、人の顔の大きさ程もある蜘蛛に似た生物……しかも、そいつ等全部動いてるぅ!

 内臓君はドクドク脈打ち、骸骨チャンはカタカタ歯を鳴らし、蜘蛛様に至っては脚をカサカサいわせながら時々「キシェェェーッ」って雄叫び上げてるし……うへぇ!


 ザッと部屋を観察してみて、気付いた事がひとつ。

 私が寝てた祭壇って、ベッドじゃなくて作業台じゃね? 明らかに「この上に置いてあった物を、そのまま床に下ろしました」って痕跡があるもん。

 って事は、普段はこの作業台であの不気味な生物達を切り刻んだり、すり潰し――イヤァァァァァァーッ


 これ以上部屋の観察するのは危険だ。精神衛生面的によろしくない。

 よし、そろそろ現実に向き合わなければ! ううっ、鏡の前に立つのが怖い。

 首から下が無事だったってことは、首から上に「若干の変化」とやらがあるってことだよね? 一通り触ってみたけど、目の数がおかしかったり、鼻の位置が変だったりって事は無いみたい。ホッ。


――恐る恐る姿見の前に立ってみる。そして固まった。


 今私はノースリーブの黒い膝丈ワンピースを着て、黒い編み上げロングブーツを履いている。恐らく、あの魔女が着せてくれたのだろう。胸下で切り替えがある、至ってシンプルな服だ。

 でも、このスースーする感じ……下着類は一切着けてないんだと思う。いや、百歩譲って、これは良いとしよう。素っ裸よりはマシだ。

 目線の高さに違和感が無いので、身長は同じだと思う。オッケー。

 顔の造作も見慣れてる感じがするので、元の私だと思う。オッケー。

……髪と眼の色がオッケーじゃない。真っ赤だ。

 鮮やか……と言うか、これは血の色だ。お尻の下辺りまである髪が、サラッサラのストレートなのがせめてもの救いだ。

 驚いたのが耳。流石にここは触らなかったから気付かなかったよ。

 先端が尖ってて、ニョーンと横に伸びたエルフ耳。さっきからやたら音を拾うなぁと思ったのは、耳が大きくなった所為か。


……取り敢えず私は叫んだ。


「なんじゃコリァァァァーーー‼︎」


 この台詞、いっぺん言ってみたかったんだよね。へへっ。





 あれから、私の叫び声で正気に戻った魔女が色々説明してくれた。


「髪と眼の色、そして耳の形はこちらの都合で変えておる。じゃが、おぬしの覚醒と同時に、髪の長さが若干変化したようじゃ」


 確かに。面倒臭がりの私が、ここまで髪を伸ばす事はあり得ないと思う。

……本当に『若干』の変化だな。寧ろ、どうでもいい。


 他にも沢山教えてくれたけど……どれも現実離れした話ばかりだったから、私には半分も理解出来なかった。

 おまけに彼女は研究者気質なのか、説明がとてつもなく長くてマニアック。「猿でも分かるように説明しろ!」ってキレたら「猿とは何じゃ?」となって、話が脱線しそうになったので、もう勝手に喋らせておいた。


 以下、婆ちゃんの話より抜粋。


 ここはセルフィーンという世界じゃ。この世界には小国も合わせると、百以上もの国がある。

 儂らが今おるのが三つある大国のひとつ、オズラルドという国じゃ。


 儂はこの国の国王から、今代の白者(はくじゃ)を探して欲しいと依頼を受けた。

 白者というのはこの世界の番人で、強力な力を持っておるが、権力と束縛を嫌い、何色にも染まらぬ白き者。

 ある白者は枯れた大地に恵みを与え、また別の白者は悪しき存在に裁きを与えたという。

――おい、コラ寝るな。


 不思議な事に、白者は同時に二人以上存在することが無く、代替わりをする。

 強大な力を持つ故に、彼等は寿命という概念が無い。それは、途方もない孤独を意味する。

 孤独に耐え切れなくなった、生きるのに疲れた、理由は様々じゃが、白者は自身の意思で役目を放棄した瞬間に消滅する。

 そして、その消滅直後に新たな白者がどこからともなく現れる。

――鼻クソほじりながら聞くな!


 そうして代替わりしつつ、今まで均衡(きんこう)を保っておったが、異変が起きた。

 五年前に先代の白者がその役目を終えた後、待てど暮らせど新たな白者を見た者が一向に現れん。

 世界中ありとあらゆる手を尽くして調べた結果、分かったのは現在この世界には白者が存在していないという事。

 その五年の間、天災によって滅ぶ国が続出した上、魔物の数が一気に膨れ上がり、人々の暮らしを脅かし始めた。


 儂は長年、白者の研究をしておっての。国王からの依頼を受けて思ったんじゃ。

 存在しない者は探せぬ。では、作れば良いのではないか、と。


 身体となる強靭な器と、それに耐えうる魂があれば白者は作れる。器の方は、長年研究した甲斐あって問題は無かったが、肝心の魂がこの世界に存在せなんだ。

 そこで儂は、魔法で精神だけ界渡りさせる方法を編み出し、そうして探し当てたのがおぬしの魂じゃった。

――ここまで言えば、何故おぬしが今此処におるのか分かるじゃろ?


 以上、抜粋終わり。


「ふぅーん」


 長話の感想を、この一言で済ませたのが悪かったのか、婆ちゃんがスゲー怒ってる。


「そもそも、それが人の話を聞く態度かっ!」


 今私は、再び石ベッドで寝そべりながら、片肘をついて(くつろ)いでいる。

 だって酷いんだよ? 自分はちゃっかり椅子(物に埋れてたのを引っ張り出してた)に座ってるクセに、私には無いんだから!


「あのさぁ婆ちゃん。今この世界がハクジャ?の所為で大変なのはわかったし、界渡りの魔法やら、この体を作ったのは確かに凄いと思うよ? でも私の中で、ここは夢って説が消えてな――いだっっ‼︎」


 くっそー、今本気でゲンコツ食らわせたな⁉︎


「痛いか? なら、これは夢でないのう? それからおぬし、段々呼び名が雑になってきておるぞ。儂は()わば、おぬしの産みの親じゃ。もっと(うやま)え!」


 へっ、やなこった。こんな凶暴な親は要らん。


「ってか、何故私なの? あんま思い出せないけど、向こうの生活はどうなっちゃうのさ?」

「選んだ理由は、おぬしの神経の図太さ加減じゃ。あとは、儂の独断と偏見かのう」

「絶対途中で魂探すの飽きたな⁉︎ どう考えても、理由がいい加減過ぎる!」

「向こうの生活なら心配は要らん。おぬしがこちらで睡眠をとっておる間、魂は自動的に向こうの体へ帰る。逆もまた(しか)りじゃ」

「んー、どゆコト?」

「つまり、おぬしは肉体を2つ持っておる事になる。じゃが、魂はひとつしかない故、あちら側とこちら側の体を行き来せねばならぬ」

「それって、私の魂が休まる暇が無いんじゃ……」

「それは鍛えてもらうしかないのう」

「無茶苦茶だ! 横暴過ぎる!」

「よって、今あちらの世界の体は眠っておる状態じゃ。ただし、どちらか一方が死ぬと、生きておる方の体に魂が居続ける」

「私の意思は聞き入れてもらえないのね……で、地球とこっちの時間の流れって、同じなの?」

「勿論違うのう。じゃが、儂の時魔法で調節しておるから安心せい」

「魔法って便利だ!」


 要は、こちら側で夜眠りについたら、地球では朝目が覚めた状態。つまり、朝起きて夜寝る規則正しい生活をしてれば両方の世界で昼間に活動出来る。

 逆に夜更かししてしまうと、片方は長時間睡眠を貪るダメ人間になってしまう。き、気を付けなきゃ。


「あと、どうして自分の名前や、向こうの生活を思い出せないの?」

「その白者の体が、あちらでの生活を夢として認識しておるからじゃ。ひとつの体に多過ぎる記憶を溜め込めば、精神の崩壊に繋がりかねんからの」

「確かに夢って、目が覚めて暫くしたら忘れちゃう事がほとんどだもんね。じゃあ、これは地球の私も同じって事だよね? あ、でも名前が思い出せないと何かと不便だし……夢日記でも付けようかなぁ」

「おお、名前で思い出したわい。おぬしにとって大切な事を思い出せぬのには、もうひとつ理由がある」

「まだあるのかよ!」

「いくら夢として認識してるとはいえ、今まで生きてきた記憶全てを忘れてしまうと、培った経験や知識まで失ってしまう」

「もしかして、それも魔法で解決ちゃったとか?」

「左様。流石に言葉や常識まで忘れてしまうと大変じゃからのう。試行錯誤して、どうにかその辺は繋ぐ事が出来た」

「ビバ魔法!」

「じゃが、この魔法が一番厄介でのう。名前や家族等、大切な事を忘れてしまうという副作用が出てしまったわい。気付いておらぬだけで、他にも色々忘れておる可能性が大いにあり得る」

「前言撤回、魔法コワイ」


 魔法も万能じゃないのね……。なんか、よく効く薬の副作用みたい。


「夢日記は良いが、おぬしの名だけはこちらで書いてはならん。もし思い出しても、頭の中だけに留めておけ」

「へ? なんで? そういえば、界渡りをして魂を見つけたって言ってたよね? 婆ちゃんは私の名前とか、その他諸々(もろもろ)知ってるんじゃないの?」

「儂が見る事が出来たのは、魂の性質と大まかな外見だけじゃから分からんの」

「ホント大雑把に決めたんだね……」

「おぬしにとって、向こうの世界での名は魂に刻まれた真名(まな)じゃ。真名はその世界との繋がりを深くする」

「そんな大事なもん忘れちゃって大丈夫なのか、私」

「儂がかけた魂の界渡りの魔法は、おぬしの魂と元の世界が深く繋がった状態でないと安定せん。下手にこちらで真名を名乗ると、この世界との繋がりは強くなるが、その分元の世界との繋がりが薄れる。そうなると元の世界に戻るのが難しくなるぞ」

「それって、少なくとも名前だけは思い出さない方が良いんじゃね?」

「もし思い出してしまったとしても、この世界だけで生きて行く覚悟が出来ぬうちは、迂闊(うかつ)に真名を使わぬことじゃな」


 何それコワイ。


「……うん、真名は使わない。白者って呼ばれるのは別にいいけど、私って作り物の白者でしょ? もしひょっこり本物が出てきたらどうするの?」

「その時はその時じゃ」

「適当だなオイ! 絶対簡単に消滅なんかしてやらんからなっ」

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