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リアルRPG  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一ステージ 初めての冒険
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スライムと魔法の杖

「さて、落ち着いたところで雄一、どう思う?」


 野犬から数メートル離れた岩陰で休みながら、俺は雄一に話を振った。


「そ、そうだね、戦闘について思ったことを言うならば、経験値もお金も手に入らないってことだね。それと……」


 戦闘を終えて気づいたことを順々に出し合うことにする。

 現実的な問題として、経験値などといった目に見えないものは手に入るはずもなく、一定値溜まってレベルアップで強くなったりってことは現実問題ありえない。


 そりゃ、確かに戦闘の仕方は上達するかもしれないが、腕力を上げるには筋トレが必要だし、知力を上げるには勉強しなければならない。

 体力ゲージなどというものはないから攻撃箇所によっては一気に致命傷になるし、なったからといって突然に回復できるような魔法の薬などもない。


 失った体は補なえないし、敵を倒そうとすれば脈動感溢れる肉に刃を突きたてる感触を味わうことになる。

 どっちに転んでも、素人にはきつい経験だ。

 立ち直ることすら出来なくなる奴も出てくるかもしれない。


 違うのだ、ゲームとは。全くといっていいほど。

 ボタンを押すだけで相手が死んでくれるモノとはワケが違う。

 そして……


「HP0は即ち死亡」


 ゲームオーバーは自分の死。

 そうなればもう二度と生き返ることはない。

 本当にやり直しの効かないゲームというわけだ。


 司祭者側は俺達を出す気はない。

 メガネ男、亨の言っていたことがなんとなく理解できてきた。

 こんなゲームに招待した俺たちを、無事に戻したら自分たちが確実に捕まる。そんな愚を司祭者が行うはずはなかった。


 俺たちは、このゲームを行う実験動物として連れてこられたのだ。

 彼らが何を目的にしているかは分からないが、俺たちは、生き残る事だけを考えて行かないと……


 ゲームの中では野犬を倒せば牙やら毛皮を入手することが出来るのだが、さすがに死体を切り裂いて何かを得ようなどという気には全員なれなかった。

 三人で相談した結果。

 経験値よりも今はお金を溜めて何かを買おうという意見に落ち着き、まずは黒服にお金の溜め方を教えてもらうことにした。


「よし、町に戻ろう」


 二人に宣言して立ち上がる。

 バッタと雄一も立ち上がり、さあ行こうと歩き出した途端のことだった。

 目の前に居たそいつらを視界に納める。幸先の悪いスタートだ。


「こいつらは……」


 数は五体。緑色の粘液がぷよんぷよんと寄ってきていた。


「スライ……ム?」


 ゲームでは可愛らしくデフォルメされてはいるが、実際のスライムは透明の液体の中に消化器官が丸見えで、可愛さなどかけらもない。

 グロテスクさは何倍も上だった。

 幸いなのは動きが遅いことだ。


「こいつらなら……やれそうだな」


 先制攻撃とばかりに雄一が真後ろに向けた斧を思いっきり真上へ、半円を描くように振り下ろす。

 スライムの一匹にクリティカルヒット。真っ二つに割り裂いた。


「よし。こういうモンスターなら楽に……?」


 切り裂いたスライムはぶよんと斧先を包むように元に戻る。


「あ、あれ?」


 切れた程度では死なないらしい。

 しかも、包み込まれた斧の鉄部分が見る見る錆びていく。

 強力な酸で溶かされたようだった。


「雄一、武器を捨てろっ」


 思わず叫び、それと同時に雄一を後ろに引き飛ばす。

 バッタよりも軽い体重で、思った以上に後ろに飛んでいった。

 ぎゃあぁあぁあぁあっとか尾を引いて悲鳴を上げていたのでたぶん大丈夫だと思う。


 雄一よりも、問題は目の前のスライム五体。

 移動力は遅いが、あの斧を錆びさせる消化力は危険だ。

 おそらく人にまとわり付いたら数秒で骨すら残さず消化してしまうだろう。こんな奴らがうようよと居るのかこの島は。


 武器での攻撃はおそらく効果はない。

 ゲームだったらそういった敵は魔法を使えば楽に倒せる。

 しかしリアルに魔法など存在しな……ん?


 魔法の杖!?

 思わず引き抜くベルトに差していた杖。

 どれがどれだかもう分からないけど、手にしたものをスライム一体に向けてボタンを押した。

 杖先の丸い部分がパカリと開き、無数の穴の開いた銀色の筒が顔を出す。そして……


 ゴォッ


 勢いよく噴出した炎がスライム一体を溶かしだす。

 ライターでナメクジを焼いた時のように急激に体内水分を蒸発させ、スライムは溶けて小さくなっていく。

 最後にはゴムのような塊が残った。


『すごい……ぁっ』


 思わず洩らした言葉を慌てて口を塞ぐ動作で押し黙るバッタ。

 背中の羽から取りだした俺の火炎の杖と同じ形状をした杖をスライムに向け、ボタンを押す。


 同じように先端がパカリと開き、細長い噴射口から煙のような霧が噴射され、スライムの動きが緩慢になっていく。

 やがて動きを止めたスライムは、凍り付いていた。


 雷鳴の杖が物凄くショボかっただけに他の杖もあまり期待できないかと思っていたのだが、科学は結構馬鹿に出来ないようだ。

 なんとかスライムたちを撃退できそうだ。


 しかし……魔法系の武具を持たなかった奴らは、スライムみたいな奴に襲われて大丈夫なのだろうか?

 事実その通りだった。


 俺達の旅の始まりはそれなりに安定していたのだ。

 ちょっと、ただほんのちょっと変わっただけで地獄のようになってしまうなどと、俺には全く予想できてなかった。

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