初めての仲間たち
※あとがきの雄一の装備と所持金を変更。
「変な奴だろあいつ」
呆然と佇んでいた俺に、今度はガリガリの男が声をかけてくる。
青のジーンズと揃えたようなヨレヨレのデニムジャケットに、片方の肩のみに掛ける三角形のカバンをしょっていた。
「僕も同じようなこと言われたんだ。んで同じように杖渡されたんだよ」
今にもポキリと逝きそうな手で持った杖を見せてくる。
しかし、なんなんだろうこいつらは? 何故俺にわざわざ話しかけてくるのだ?
「僕は保科雄一。重戦士なんだ。君一人みたいだし、よかったら一緒に冒険しない?」
……ああ、なるほど。すでに自分でキャラクターになりきって仲間集めって奴か。
戦力にはなりそうにないな。
ひ弱な重戦士なんて役に立ちそうにないぞ。
しかし、まぁ盾役にくらいはなるだろう。
「ま、いいか。ところで保し……」
「おいおい、気分萎えるなぁ。こういうときは仲間も敵も呼び捨てだろ?」
何か拘りがあるらしい。ケンカするのも面倒くさい。
ひとまず彼の望みどおりに呼ぶことにする。
「ええと、雄一?」
「ああ、なんだい?」
すげえ。名前で呼んだだけで物凄くキリッとした顔で返してきやがった。
「重戦士とかってクラス分けできたりするのか?」
すると、意外そうな顔をする。
「クラスチェンジできるクラスチェンジ屋、換金所に隣接してただろ」
そういえば、お金を貰っている時横の店に行列が出来ていたような……
「僕は一番最初に並んだからね。君もクラスを決めてくるといいよ」
なるほど、つまり武器屋に人が居なかったのはクラス屋に大多数が並んでいたせいか。
となるとしばらくはクラス屋は賑わうだろうから昼過ぎにでもいくことにしよう。
「クラスチェンジは午後にするよ。さっき言われた防具屋とか寄って町を探索しようと思うんだけど」
「いいね」
店でショートソード350Lを買い、外に出た俺たちは、すぐ隣の防具屋に向かう。
雄一の話では、防御力の高い防具を買うのは、馬鹿のすることらしい。
鎧は思いの他重く、重戦士用防具などその場から動くことすらできないほど重いそうだ。
かといって皮の服などは普通の服とあまり変わらず、下手な防具なら買わない方がいいとの事。
それでも一応覗いてみようと中に入ると、防具屋はやはりガランとしていた。
当然といえば当然か。
ゲーム知識のあるヤツは防具が現実にあっても無駄だと確信し、むしろそれなら武具を重点的に買うはずで、余程のバカでもない限りはクラスチェンジ屋などに向っているらしい。
防具屋に真っ先に向うようなのは……
ああ。一人いるよ……というか、一匹?
客はたった一人だけ、それも顔が物凄くリアルな、バッタのキグルミを着ていた。
とりあえずバッタは変な人と決め付け無視する方向で防具を見て周り、比較的軽かった皮の鎧1350Lと三本の杖を刺すためのベルト350Lを購入。
さっさと外へ出ようとすると、バッタに呼び止められた。
いや、むしろ入り口に立たれていたので無視することも出来なかった。
スチャッと片手を挙げて挨拶。どうやらしゃべる気はないようだ。
お辞儀をしたかと思うと、ドアから一歩横にずれ、俺たちを外に促す。
無視して外に出ると、何故かバッタは後ろから付いてきた。
ゲーム風に言い直すと、バッタが強引に仲間になった! といったところだろうか?
現実のはずなのに現実とは思えないパーティー構成だ。
人知れず泣きたくなった。
しかし、こうやって強引についてくる方法もあるんだな……と、一人納得しながら広場へ向かう。
三人でしばらく町を見て回ると、いろいろな店を発見することが出来た。
まず、食事所は各所に点在してる。
西洋系スパゲッティ専門料理店があれば、女性受けしそうな甘味処があったり、果物が売っていたりする場所があれば基本中の基本である酒場もあった。
雄一の薦めもあり酒場で情報を聞くことにした俺たちは、町の入り口手前に設置された酒場『bomb』に入る。
流石にこの時間帯になるとクラスチェンジし終わった人数も多くなるのだろう。
すでにちらほらと数人のコスプレイヤーが酒場に屯っていた。
普通なら変人たちの集まりだが、今この場ではバッタのキグルミすら風景の一部に溶け込んでいる。
カウンターにはやはり黒服の男がいて、グラスを拭いていた。
バーテンダーらしいその黒服は、思いの他年がいっているのか、白髪交じりの髪と髭を持っていた。
彼の後ろにはさまざまなボトルが並んでいて、中年プレイヤーの頼みで葉巻を取り出したりもしていた。
酒場に入ってまず俺が行ったこと。所持金の確認。
すでに剣やベルト、服を買って残りが950L。
お昼までは時間があるし、ここで酒代として使うのはちょっと勿体無い。
それに未成年なので、こんなところで飲酒して捕まったら悲しすぎる。
席に座り、水だけを頼む。幸い水はタダだったので、雄一とバッタも同じものを頼む。
被りものしたバッタがどうやって水を飲むのかと期待したのだが、バッタ自身も気づいたらしい。
コップに手を伸ばしかけ、残念そうに引っ込めた。
雄一はというと、これが意外と頼りになっていた。
進んで他人と話し合い、情報を集めている。
俺はそれを横目に見ながら水を飲む。
未だに戸惑っているバッタに視線を移す。
人に見られている前では脱ぎたくないのか、飲みたそうにしながらも全く脱ぐ気配がない。
今はまだいいが中は相当暑いはず。
戦闘なんてすればすぐに熱中症で気絶するんじゃないだろうか?
「変な噂がでてる」
あん? と声のした方に顔を向けると、雄一が背後に立っていた。
亡霊かと思って思わず大声で驚きそうになったが、何とか踏みとどまった。
なまじ身体が細い分咄嗟に見つけると怖い。まるでゾンビの様だ。
「このゲーム……魔物が出るらしい」
一瞬、何言ってんのこいつ? と思った。
なぜならRPGゲームに魔物、つまり倒すべき敵が出てくるのは当然のことだ。
だから、雄一の言っている意味が分からなかった。
でも、すぐに思い直す。
ここは現実世界。魔物などというものがいるはずがないのだ。
「さっきフィールドに出ていたチームからの情報だから、確かだと思う。彼らは思わず逃げ帰ってきたらしいけど……」
「魔物……か」
先ほどメガネ少年亨の言っていたことが思い出された。
雄一も同じなのだろう、少し不安そうな顔をしている。
体つきが体つきなだけに青い顔をされるとそのまま倒れてしまいそうで二重に心配だった。
まるで不安を打ち消すように、突然バッタが立ち上がる。
バッタは乱暴にコップを手に持つと、トイレの方へ消えていく。
なるほど、そう来たか。
「どっかいっちゃったけど、いいのか?」
「トイレで飲む気か? そんなに姿見られるの嫌なのか?」
「人見知り激しいんだよきっと」
バッタが出てくるまで雄一と話し合った結果、一度フィールドに出て魔物を見てみようという結論になった。
なんにせよ一ヶ月は船が来ないのだ。
街中で嘘か本当か分からない噂に怯えているよりも、実際に確かめておいてからでも遅くない。
危険なら逃げればいいのだから。
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:950L
保科雄一
クラス:重戦士
装備:鉄の斧、皮の胸当て
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:400L
バッタ
クラス:???
装備:???
所持アイテム:バッタのキグルミ、???
所持金:3000L