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リアルRPG  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一ステージ 初めての冒険
3/44

佐川亨のウンチク

 彼らと顔を合わせない様に遅れて換金所へ辿り着く。

 換金所でIDを見せ、3000Lを受け取った俺は、人垣掻き分け、人の居なくなった広場に戻りようやく周りを見回した。


 さっきは流し見てただけだったので気づかなかったが、建物一つ一つに店の名が書かれていた。

 噴水から右斜めに位置する建物にはweaponと看板があり、その横にはarmorの看板がある。


 武器屋と防具屋だ。

 建物自体は似たような作りだが、剣や防具の絵が入った看板もついていて、よく見れば一目で分かる親切設計。

 ちょうどいいので装備を整えておこう。


 武器屋に入ると、薄暗い店内にはほとんど人は居なかった。

 カウンターには黒服を着た女性が立っている。

 客は俺を除けば三人程。全員男性。


 しかもメガネをかけたいかにも家でずっとゲームしてました。

 といった細っこい体の男や、でっぷり太っていて、コイツ走ったりできるのか? とこっちが心配してしまうほどに肉達磨な男。

 残りの一人は立っているのもやっととしか思えないほどガリガリに痩せた男。


 間取りとしては入り口と対を成すカウンター。

 入り口から右には剣が数種類置かれていて、横にずれるごとに杖、槍、斧と種類ごとに置かれていた。

 入り口から左には刀やチャクラムなどといった一風変わった武具が店頭に並び、中央にはガラスケースに入れられたナイフや暗器といったものが売られていた。


 メガネ男は杖を見ている。太い男は刀。痩せた男は斧を見ているようだ。

 持ってても役に立たないだろお前ら……なんて思いながら、剣の置かれた場所に行く。


 やはりゲームで勇者といえば剣だろう。

 剣だけでも数種類ある。長さは短いが扱いやすそうなショートソード。

 街中を引っさげて歩く護身用のマイン・ゴーシュ、鎧を貫くエストック、刑罰用の電撃棒ガリアンソードなども普通に売られていた。


 中でも目を引くのはゴージャスソード。天井近くの壁に掛けられた黄金色に光る剣で、刀身はプラチナ製、柄はゴールドに宝石を散りばめ、柄の中央には20カラット以上の巨大なブルーダイヤモンド。ただし刀身に切っ先はなく、本当にただの飾り用の剣らしい。

 値段はお安く30000000000L……買えるかっ!


「ほほぅ、ソードですか」


 手ごろな値段のショートソードを手に取った俺に、メガネ男が声をかけてきた。

 ヒョロヒョロとした体躯に、無地のシャツとジーンズ。背中には青のリュックサックを持ち、手には三本の杖を持っていた。


「オーソドックスといえば基本中の基本ですね。ですが剣は結構扱いが難しいのですよ。素人は相手を斬ることができても戦闘は出来ませんからね」


 なんだ……この変なヤツは?


「ゲームキャラクターは初めての武器でも楽々扱っていますが、現実ではそうはいかないのですよ。ほら、剣道とか普段やってるわけじゃないでしょう? 戦争があった時代の人間ならともかく今の日本人に本物のソードが扱えるかどうか疑問ですね。とくに西洋の剣は腕力にモノを言わせて断ち切る剣ですから」


 ケンカ売ってくれてんだろうか?


「あなたはロングソードとショートソードの違いを知っていますか?」


「え? いや……」


 俺が戸惑うと、メガネ男はキランとメガネを光らせた。


「実はロングソードは馬上で扱うために刀身を長くした剣なのですよ。つまり歩兵や白兵に使う剣は基本ショートソードなのです。つまり、ゲームでロングソードがショートソードより強いからと選んでも、用途が違うので扱いにくくなるわけですね。ようするに、剣を選ぶなら片手のショートソードか、ハンド・アンド・ア・ハーフと呼ばれるバスタードソードがお勧めです。ちなみに、トゥーハンデッドソード系は両手で扱う大剣ですが、これは余程訓練された軍人でもそうそう扱えるものではありません。ツヴァイハンターとか格好良いからとかいう理由で買うなら護身剣用のスモール・ソードあるいはタウン・ソードと呼ばれるマイン・ゴーシュあたりを買うのがベストです」


 謎のウンチクを聞かされた。

 余りに早口だったのでだいぶ聞き逃したけど。


「しかしこのゲームは面白いですね」


「はぁ?」


 まだ始めてもいないのに何言ってんだ?

 何か面白いことなんてあったか?

 黒服の話聞いて金貰ったぐらいだろ?


「見てください、この杖」


 と、手にしていた三つの杖を見せてくる。

 木でできた簡素な作りの魔法使いが持ってそうな杖。

 肘くらいまでの長さの柄と、膨らんだ先端部。

 造りはどれも同じように見える。


「右から火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖です。この持ち手についているボタンが発射装置みたいですね」


 言われて気づいた。確かにボタンが杖についている。


「ってことは何か? それ押せば火の玉が敵に飛んでくとでも?」


「火の玉はでませんけど、ほら」


 雷鳴の杖のボタンを押して、先端を俺の手に当てる。


「ぬおわっ!?」


 とたん体を駆け抜ける刺激的な感覚。

 い、今ビリッと来た!?


「な、なんだ今の!?」


「電撃魔法……ってところですかね。先端部に電気が流れるみたいです。杖型スタンガンといったところでしょうか」


 なるほど。魔法を表現するために最先端科学を取り入れたわけか。


「安物ですから大した威力はないようですが、これが強力なものになれば……すごいと思いません?」


 そりゃあ確かに高威力の魔法の杖ならすごいことになるだろう。

 人なんて軽く殺せるくらい……まぁさすがにそこまで危険な武器はないか。

 が、まるで俺の思いを見透かすようにメガネは嫌な笑みを見せている。


「よく考えてください。普通、いくらリアルといったって本物の刀をほいほい人に売りますか? 銃刀法違反で捕まりますよ? まかり間違って買った人物が人を斬れば売った側も危険です。言ってる意味……分かります?」


「いや……よく分からないんだが」


「ようするに、ここで起こることは外部に絶対漏れないということですよ」


 何だ? こいつは何が言いたい?


「このゲームに入った時点で僕たちはゲームオーバーを言い渡されたも同然なんですよ」


「ちょ、ちょっと待て。お前、それどういう意味だよ?」


「いや、実に面白いですよね。これから阿鼻叫喚になると思うと血が騒ぎません? 僕、佐川亨です。お互い生きていたらまた会いましょう。ああ、お近づきの印にこの三つの杖差し上げます。それと、防具屋に向かうのがお勧めですよ。あなたに女神の加護があらんことを」


 不吉な言葉と笑みを残し、亨は武器屋を出て行った。

 久我山環架

装備:なし

所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖

所持金:3000L

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