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リアルRPG  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一ステージ 初めての冒険
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体験型RPGの世界へようこそ

 7月25日の日曜日、俺は日本の日常とはかけ離れた場所に居た。

 一応日本国土ではあるらしいのだが、俺は日本にこんな場所があると初めて知った。

 本土の南にできた日本の新たな観光名所となる人工島、ルミナ島。

 この島はマーダサヴァイバル専用に作られた島で、日本のアニメ、ゲームを他国へもっとよく知ってもらうためというのが目的らしいのだ。


「なんだ、結構参加者いるんだな」


 隣の男が声をかけてきた。リアルなRPGと聞いて、付いてくると名乗りを上げたクラスメイトの一人だ。

 開催担当者に問い合わせてみたところ、友人、家族などで同時参加可能とのことで、学校で洩らした言葉に、三人ほど食いついてきたのだ。


 さっき話しかけてきた奴は大島和則。

 ゲーム好きで話好きのいわゆるお調子者という人種だ。

 オタク族に片足突っ込んでるはずなのに妙に人当たりがいい。


 当然友好関係も男女共に広く、和則の参加で興味を覚えた女子、美織早百合と和則のゲーム仲間の木之元浩介が付いてきた。

 他にも何人か興味を示していたが、すでに遊ぶ約束や家族旅行が入っていたためこの三人だけがやってきた。


 三人とも格好は少し特殊だ。休みの日というだけあって、和則はハーフジーンズに野戦服を思わせるジャケット。

 何故か胸ポケットから見えている小型ナイフの束は、司会者側からは何も言われることなく素通りできた。乗船の時に荷物チェックされなかったので多分持ってきていいのだろう。


 美織早百合は学生を思わせる青のセーラー服と短めのスカート。

 決して俺たちの学校の制服ではないので何かのコスプレだろう。

 たれ目気味の目を必死にきつく細めていることから、どうやらキャラクターになりきろうとしているようだ。

 そのキャラクターを知らない俺にとってはただの美織早百合以外の何者でもないのだが。


 木之元浩介については説明すら省きたい。

 何が嬉しくて戦国武将の甲冑なんぞを着てきているのだろう?

 これはもはやラフな服装と呼べるものではないが、敢えて目をつぶって素通りさせることにしていた。


 額には日の丸の鉢巻が巻かれ、好青年な角刈りには確かに似合ってはいるものの……周囲からは白い目が遠慮なしに突き刺さっていた。

 この三人、どうもコスプレなどの仲間らしい。よくコミュケとかに行くとか異世界の単語を口にしていた。


 三人とも俺はあまり話さない。

 一応和則にはよく話しかけられるので仲間内には入れられているようだが、他の二人は完全に赤の他人だった。

 和則に誘われたから付いてきたといった感じで、俺には話しかけようとすらしない。


 この船に乗ってからも和則君和則君。

 和則に会話を振って盛り上がるばかりで、俺に来た招待状のはずなのに、俺は蚊帳の外だった。

 だから、和則が振ってくる会話に適当に相槌を入れつつ乗船と同時にパンフレットや景色を見続けていた。


 海の上は日差しがよく照りつけ、水面に反射して日焼け具合が増す。

 日焼け止めクリーム持ってくればよかったかな? とどうでもいいことを思っていると、ようやく目的のルミナ島が見えてきた。


 ボォォと汽笛のような音が船から漏れる。空にはカモメだろうか? 何種類かの鳥たちが先導するように飛び交っていた。

 やがて船用に作られた丸太の橋横に着くと、船は停船。俺はパンフレットを見ながら船を下りる。


 参加人数はかなりの数に上るようだ。俺たち以外にも見た感じ四、五百名以上は船から下りてきていた。

 自分たちより後に下船した人数は見ていないので予想だと千人はいくかもしれない。

 降り立ったのは海岸で、切り立った崖に囲まれた小さな入り江だった。

 このため、長く伸びた丸太の橋は砂浜に隠され、何処まで続いているかはわからなかった。


 係員らしき黒服に案内されるまま、入り江唯一の出口、町の入り口へと向かう。

 切り立った崖は町の外壁に当たったところで不自然に削られていた。

 まるでゲームの進入禁止地帯のように、そこに上って反対側に行ったり出来ないように、また、町に崖の一部が入ってしまわないように、フィールドと町を完全に区切っているようだった。


 外壁は、西洋をイメージしてあるのか褐色のレンガで出来ていて、巨大な鉄の扉で町と外とを区切っていた。

 開かれた城門を潜り抜け、広場に向かう。

 西洋風の建物が立ち並ぶ町並みは、確かに自分がゲームの世界にいるような気分になってくる。

 周囲からも感嘆の声がいくつも漏れていた。


 目の前にいる親子連れは、男の子にせがまれて来たんだろうか?

 乗り気じゃない父親とせっかく来たんだから楽しもうという母親とが険悪な雰囲気で歩いていた。

 男の子は妹と二人周囲の景色をしきりに眺め笑い合っている。両親の諍いは完全に無視だ。


 俺達の後ろにはカップルだろう。

 ちょっと怖そうな背の高い男と、派手な服装のお姉さんがやる気なさそうに歩いていた。

 正直何しに来たんだお前らはとツッコミを入れてやりたいが、男の方はケンカも出来そうなので指摘はしないほうがいいだろう。


 俺達と同じように仲間内で来たらしい学生っぽい顔立ちの女の子集団や、野郎ばかりのオタク系集団も存在している。

 浩介のようにコスプレしているヤツもいくらかいたが、浩介の甲冑姿に比べると、まだマシな部類だった。むしろ浩介が一番目立ってる。

 通路は石畳。広場には噴水が設置され、きれいな虹のアーチを描いていた。


「えー、本日はお日柄もよく……」


 噴水を背後に、噴水の淵に上がった黒服の男が立った。


「初めまして、我々はマーダサヴァイバルを円滑に行うためのサポート役を勤めさせていただきます。ミッションの説明や買い物など、何か必要なことがあればいつでも話しかけてください」


「うっわ、ありゃ確かに区別付きやすいけど、話しにくそうじゃね?」


 侍男、浩介の言うとおり、黒い服とサングラス。

 確かに他の参加者と比べると物凄く分かりやすい違いだった。

 ただ、自分の格好見てから言えよと突っ込んでやりたい。


「さて、それではさっそくですが、ゲームの説明をさせていただきます。マーダサヴァイバルはリアル型ロールプレイングゲームです。この島を使い、皆さんは勇者となり出現した魔王を倒していただきます」


 なるほど、本当にゲームをリアル体験できるらしい。

 和則たちのコスプレ衣装も理にかなっているといえば適っているのかもしれない。

 しかし、魔王ってやっぱり開催者側の人が演じるんだろうか?


「通貨はこのゲーム特有の呼び名でライフ。通常はLで表示されます。換金所を探してIDカードをお見せいただければ初期資金をお渡しいたします。それでは、勇者たちに女神の加護があらんことを」


 IDカードというのは参加するに当たって手渡されたもので、参加者を認識するためのものだ。

 このゲームでの存在証明であり、失くすといろいろとサービスを受けられなくなるので困るものだった。

 どうやら初めは換金所に行けば良いらしい。


 黒服は言いたい事を言い終えたのか、さっさと噴水から降りて去ってしまう。

 後には困惑する俺たち一般客が残されただけだった。

 これで説明が終わりなのだ。具体的に何をすればいいのか、どこに行けばいいのかはわからない。


 自由形RPGにしても説明がお粗末すぎる。

 といっても、初めに行くべき場所は提示されてはいるので、そちらで質問受け付けを行っているのかもしれない。

 もしくはそういった初心者向けの説明施設があるのかも。


「どうする和則?」


「そうだな……」


「ね、ね、早くお金貰ってこよ」


 まず和則に聞いている浩介。

 彼にとっては和則がリーダー役らしい。

 早百合は何か買いたい物を見つけたようで、二人を引っ張ってさっさと換金所へと向かっていく。

 周囲の人が思い思いにその場を後にするのを見ながら、一人取り残された俺は換金所へと足を向けた。


 ゲームなら結構やりこんでいるし、こういったRPGはオンラインゲームでよく聞いたことがある。

 オンラインゲーム自体はやったことは無いけれど。

 お金を手に入れたら剣を買ったりして冒険に出よう。


 仲間を集めるのも基本ではあるが、なんとなくあの面子で冒険に出る気にはなれなかった。

 むしろ自分がリーダーとなって仲間を集める方が面白そうだ。

 集められればの話だけれど……まぁリーダーじゃなくても仲良くできる奴ならいいかな。

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