クラスチェンジと換金
ゲーム説明屋には未だに行列が出来ていた。
ただ説明を受けるだけだというのにこの込みようはなんだろう?
「こりゃ一時間待ち程度で空きそうにないな。どっかで時間潰すか」
「だったらクラスチェンジはどうだい」
雄一の言葉に気づく。俺はまだクラス決めてなかった。
まぁリアルだから決めたところで意味は無いとは思うのだが、暇だし行ってみるか。
クラスチェンジ屋はこの近くらしく、雄一に案内されるままに進む。
クラスチェンジ屋にはすでに列はなく、まだそれなりに人は居たが、大して待つこともなく順番が回ってきた。
まるでどこかの喫茶店のような内装だった。
カウンターが入り口と対面にあり、左のスペースにはいくつもの丸テーブルと椅子の列。
テーブルにはきちんとメニュー表が置かれていて、店員呼び出し用のボタンも設置されていた。床は一面フローリングだ。
カウンターの黒服の前に行くと、黒服は深々とお辞儀をして見せた。
「ようこそクラスチェンジ屋に。ここではプレイヤー様方のジョブクラスを指定することが出来ます。別に受けなくても冒険に支障はございませんが、ジョブを持つことによるメリットが存在します。例えば、マジシャンでしたら魔法協会への出入りが可能となりますし、シーフでしたらシーフギルド、ピッキングツールの無料進呈もございます。ジョブクラスの詳しいメリット、デメリットについてはそちらのジョブリストメニュー表をご覧ください」
と、流暢な日本語で示されたのは、丸テーブルに置かれたメニュー表。
バッタも雄一も当然とばかりにテーブルに向かっていくので、戸惑いながらそれに習うことにした。
メニューには、確かにジョブリストが載っていた。
軽食喫茶もついでにやっているようで、食事を楽しみながらジョブを選ぶことが出来るようだ。
メニュー表の一番後ろにジュースとかパンケーキの料金が書かれていた。
どうりで時間がかかるはずである。
折角だから頼んでみたくはあるが、金を無駄に使いたくはないな。
「まぁ、最初にできるクラスは騎士、魔術師、槍術師、冒険者、侍、弓術師、重戦士それから戦士。ぐらいかな?」
雄一の言葉にバッタが頷く。
俺はそれを聞きながらメニュー表に目を通した。
「お金を出してチェンジできるクラスは聖騎士、黒魔術師、探険者、忍者、そして勇者」
言うなれば上級職というヤツだ。
金を溜めてクラスチェンジできる以上、何らかの得点があるようで、例えばアサシン。
忍具一式と巻物をいくつかくれるそうだ。
しかし、お金でチェンジできる勇者って……
俺はまた隠しジョブに設定されてるもんだと思ってたよ。
手軽な勇者もあったものだ。
「おそらくこれ以外にも隠しジョブは存在すると思う。でもそれは今は置いておくとして、環架のお勧めは騎士かな? 上級職は勇者以外は40000Lもするし、勇者に関しては100000L。とてもじゃないけどクラスチェンジは出来ないよ」
と、俺の考えを見透かすように雄一が騎士を指差す。
俺としても戦士、侍、騎士のどれかにしようと思っていたので否定する必要の無いことだったが、戦士はバッタがいるのでわざわざカブる必要も無い。
侍はあの浩介と同じ職業だ。頼まれたってなってやるものか。
そういうわけで騎士は妥当な選択だった。ピッキングツールのあるシーフもちょっと興味深かったが、英雄を目指すならここは騎士だろう。
ただ、騎士にはコレといった得点が無かった。
ロングソードが付いてくるぐらいだ。剣ならショートソードがあるし、武器なんてどれでも持てる以上、無理して騎士になる必要などないだろう。
そういうわけで、俺はあえて魔術師を選んだ。
現実で魔法が使えるなんて剣士より役立ちそうだったからだ。
カウンターで書類を書くと、特典である魔法書と、杖。
そして魔法協会会員に自動登録されることになった。
「良かったのかよ魔法使いなんて……」
役に立つのか? と言いたそうな雄一。
断言してやる。お前よりは絶対に役に立つ!
店を出ながら本を開いてみる。始めの方は簡単な呪いが載っていた。
そこいらに売っているお呪いの本だ。
恋愛に関することだったり願いのかなうミサンガの作り方だったり。
中ほどのページはお経や賛美歌が載っていた。
役に立ちそうにないなと思いながらぱらぱらとめくった最後のページ。
思わず手を止め見入ってしまう。
俺の異変に気づいたバッタが後ろから覗き込んでくる。
先行していた雄一も、俺達が付いてこないことに気づいて振り返ってきた。
「どうしたんだよ?」
「エイシャント……古代魔法の在り処が書かれてる。この近くにも一つあるみたいだ」
イベント発生だ。本当に魔法が使えるとは思えないが、どんな魔法っぽい科学道具が使えるようになるのかはちょっと興味がある。
「恐らく魔術師クラスの最初のイベントだね」
「説明屋はまだ空かないだろうし、俺は行こうと思うんだ」
俺の言葉にバッタが頷く。
これはおそらく付いて来るという意味なのだろう。
「僕も行くよ。ここで暇してても意味ないしね」
じゃあ行こう。と出発しかけた俺と雄一を、バッタが首根っこ引っつかんで止めた。
どうしたのかと振り向くと、無言で換金屋を指し示す。
「換金屋?」
一応ここから近くではある。
大した時間はかからないので向かってもいいのだが、一体なんなん……待てよ。
そういえばバッタの奴、換金屋がどうのとさっき言ってたよな。
「もしかして金の集め方を換金屋で聞く気か?」
バッタはこくりと頷いた。
コイツのキャラは口を利けないことらしい。
バッタの考えをいちいち考えて返答してやらないといけないからちょっと面倒くさくはある。
でも……可愛い女の子が入っているって事実を知っている俺にとってはまだまだプラス要素満載だ。
こういうときは同意して好感度アップ……してくれりゃいいけどなゲームみたいに。
換金屋に寄り道をして、カウンターの黒服に尋ねてみると、バッタの予想通りIDに倒した魔物分の金額が入っていたらしい。
俺はスライム三匹分30Lとバッタが野犬20Lとスライム二匹20Lを受け取っていた。残念ながら雄一は何も倒していないので褒賞無しだ。
「バッタやるじゃん。これでお金の心配は無いね」
「らしいな。コレでまた一つ、予想が確信に変わっちまったな」
魔物を倒し換金屋でお金を換金。バッタの予想通りの最悪のシナリオだ。これでこの町には最大十日くらいしか居られないだろう。
できるだけ早く、周りの魔物が強く冒険者たちが滅多に近寄りそうに無い町に逃げなければ巻き込まれかねない。PKが現れないうちに……
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:980L
保科雄一
クラス:重戦士
装備:鉄の斧、皮の鎧
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:400L
バッタ
クラス:マルチウエポン
装備:ナイフ×2、ロングソード、小型のボウガン、ショートソード
所持アイテム:バッタのキグルミ、火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
組み立て式・鉄塊、ハリセン
所持金:3040L




