ぐっじょぶ!!
「ちょっと、どういうことよ」
放課後、部室に入ったらいきなりわたしと緋色は、待ってましたとばかりに1年生の女子達に取り囲まれた。
「どうしたの?」
理由はわかってるけどね。
わたしは何にも知りませんとした顔をしてみんなを眺めた。
憤怒の形相・・・みんな怒ってるよね。
昨日、彼らと一緒に帰ったことは、何人も見ていたから、今日は多少のうわさにはなるのかなとは思っていたけど。
教室でも、廊下でも、行く先々で昨日のことを聞かれた。
うざいくらいに。
だから、覚悟はしていた。まあ、予想通りだったけれど。
おとなしく静観しているわけないよね。こいつらが。
「どうしたの? じゃないでしょ? この前あれだけ言ったじゃない。好きにならないでって」
「そうよ。桜木さん、約束したじゃないの」
「それ、破る気?」
矛先が緋色に向く。わたしではないんだね。苦笑。
標的は緋色。まあ、いいけれど。
鬼のような形相でみんなから詰め寄られた緋色は、ビクッと体を震わせ、俯いた。
恐怖? を感じた?
体をこわばらせて自分の体を抱きしめている。
いつもの緋色じゃない。こんな緋色を見るのは初めて。
日頃、あんまり物事に動じない緋色も、人の悪意には弱いらしい。
これまで周りからたくさんの愛情をかけられて育ってきた彼女には、負の感情は耐え難いのかもしれない。
かわいそうに。
次々と矢継ぎ早に繰り出される暴言ともとれる言葉を聞きながら、心の中で大きくため息をつく。
完全な誤解。
一緒に帰ったからと言って好きになったとは限らないのに。
もうちょっと、理性的に考えましょうか?
まったく。
わたしは緋色をかばうように背中に隠した。
「ごめんなさい。誤解があるようなのだけど」
お互いに感情的になると、売り言葉に買い言葉になって収集がつかなくなるからね。冷静に対処しなくちゃね。
「どこが?」
言い方がすでにけんか腰。
一緒に帰る=付き合う、じゃないから。
2人とも緋色にもっていかれたんじゃねぇ。
女子達の立つ瀬がないわよね。わからなくはないけどね。
「緋色が誰を好きになったと思っているのかしら?」
「それを今から聞くんじゃないの」
ムッとした表情で返された。
うあ! 吊るし上げ? この調子じゃ、緋色泣かされるかも。
たかが12、3歳でも、女の嫉妬ってこわい。
まわりを見渡すと、1年生の半数くらいはかかわりたくないとばかりに隅の方でこちらを見ているし、上級生達もこちらを気にしながら顔をしかめている。だからといって止めに入る気配はない。逆にとばっちりを受けたくないのだろう。中にはニヤニヤと嗤って、それみたことかと面白そうに見ている上級生もいる。
性格わるっ!!
早々に切り上げなくちゃね。
緋色のためにも。
「だから誤解よ」
「何がよ」
女子達がさらに詰め寄ろうとするのを、わたしは体を張って柔らかにそれを制する。
みんな殺気だってるし。
そんな性格じゃあ、藤井や佐々田に嫌われるわよ。みんなには言わないけどね。
「昨日言われたのは、わたしたちを送っていくってことだけよ。そのほかは何にも言われていないし、わたしたちだって、女の子2人じゃ夜道は怖いしね」
「でも、送っていくってことは、桜木さんのこと好きってことじゃないの?」
告白されたわけでもなく、その思いに答えたわけでもない。
「もう一度言うわよ。藤井君と佐々田君はわたしたちを送っていくって言っただけよ。それだけ」
わたしは彼女達の顔を1人1人見ながら、ゆっくりと穏やかな口調で話した。
それは紛れもなく事実。それ以上でもそれ以下でもない。
「でも」
まだ納得がいかないのか、解せないのか。半信半疑の表情の女子達。
これだけ騒いだら、なかなか気持ちに折り合いをつけにくいのもわかる気もしないでもないけど、さっきより明らかに勢いがトーンダウンした。
「藤井君と佐々田君に聞いてみたら?」
「・・・」
彼らもそう答えるはず。それしかなかったのだから。
そう・・・彼らが誘って、わたしがそれに答えただけ。
緋色が答えたわけではない。
彼らが緋色への思いを少しでも口にしたのなら、いえなかったけれど。
「ところで、そろそろ部活にいかない? わたしたち以外、誰もいないわよ」
上級生も同級生もとっくにいない。それに気づいた女子達は慌てて部室を出ていく。
残されたのはわたしと緋色だけ。
みんな着替えたあとなんだもの。
せめてわたしたちが着替えてから話してほしかったわ。
なし崩し的に終わっちゃったけど、これでよかったのよね?
あれ以上続けても不毛だしね。
彼女達のほうが気まずいだろうから、適当に切り上げて正解よね。
「緋色。大丈夫?」
わたしは背後にいる緋色に話しかけた。
「うん」
彼女は仄かに笑顔を浮かべて頷いた。表情が落ち着いている。女子達がいなくなって安心したのだろう。体の力が抜けてホッとしたよう。
いつもの緋色に戻ったみたい。よかったわ。
「怖かったぁ!!」
緋色の漏らした一言にわたしは目を細める。
「ホント。怖いよね」
「里花ちゃんも怖かった?」
「もちろんよ。あんな経験二度としたくないわよね」
緋色と違う意味でだと思うけどね。
でも、怖かったことには変わりはない。
「里花ちゃん。庇ってくれてありがとう。うれしかった」
緋色はちょっと頬を染めて、はにかんだような表情でわたしを見た。
もう、そんな顔されたら、何も言えないじゃない? ていうか、もうちょっと頑張っちゃおうかなって思っちゃうじゃない。
惚れた弱みよね。ホントかわいいんだから。
わたしは思わず緋色を抱きしめていた。
それにしてもいい仕事したわよね。
ぐっじょぶ!
藤井君、佐々田君、ほめてあげるわ。
『送っていく』その言葉に恋愛感情を乗せていたかもしれないけれど。
言葉にはしなかったものね。
だから、堂々と言えたのよ。
そのままの意味でね。