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渡りに船って・・・このことよね

 男子達の誘いを心の中でうんざりしながら、程よい理由をつけて断り、緋色と2人で校門を出ようとしていた時だった。


「桜木さん、川原さん」


 不意に背後から名前を呼ばれた。振り返ると、藤井賢哉と佐々田拓弥。

 二人が立っていた。

 振り向いたわたしたちに、


「桜木さんたち、おれたちが送っていくよ」


 そう声をかけられた。

 彼らはクラスメートにでも話しかけるような自然な口調と表情。

 しかも断定的。 


 初対面なはずなのに、緋色を前にしても緊張感とか見惚れるような素振りも感じられない。

 真近で見たらあまりのかわいさに、みんな一様に声をなくすのに。


 わたしは彼らを頭のてっぺんから足の先まで、まるで値踏に見回してしまった。 

 にこやかな顔で佇む彼らは堂々としていて、どこかしら自信が窺えた。

 たぶんモテるであろう自分に対しての自信。でもそれは自意識過剰的な厭味のあるものではなく、それすらも武器にしてしまえるような、そんな自信。


 育ちの良さとでもいうのだろうか、ひねくれたところのない真っ直ぐな素直な性格な感じがする。2人とも同じような雰囲気を持っている。

 だから、その自信も厭味にならず、彼らの魅力として容認してしまえる。


 顔だけでなく、性格も好みとなるとなかなかいないから。 


 第一印象だけで決めるのも危険かもしれないけれど。付き合ってみると全然性格が違うということも、まま、あるらしいからね。


 その時はその時で、切り捨てればいいか。


 それにしても、よく声をかけてきたわよね。

 しかも、このタイミングで。


 今まで緋色に気がある素振りなんて見せたこともなかったのに。

 結局は気になってたってことよね。

 なんせ、最初に緋色の名前を呼ぶあたり絶対そうでしょう?


 だまされたわ。


 こちらがどうやって近づこうか、話しかけようか、散々悩んでいたのに。

 それをあっさりと飛び越えてしまったのだから。



 でも、そのほうがこちらとしては都合がいい。

 けど。

 送っていくよって。


 緋色のほうをちらりと見やれば、驚いたように目をぱちくりさせている。

 送っていくということは、当然緋色んちまで行くということで。


「藤井くんと佐々田くんだっけ? 確か校区違うから、反対方向じゃないの?」


 わたしは優しく気遣うようにいってみる。だから無理でしょうと、薄らと拒絶も込めて、できれば別の方向で仲良くなりたい。


「そんなの構わないよ。だってお姫さまたちを送るのはナイトの役目でしょ。おれたち適任だと思うけど」


 わたしは佐々田のそのセリフに一瞬、目が点になってしまった。


 お姫さまとかナイトってファンタジー小説の中でだけで、現実にそんなセリフを吐くやつがいるとは、驚きすぎて言葉に詰まってしまった。


 案の定、隣にいる藤井もビックリ顔だ。

 結構笑えるけど。

 これが普通の男子だったら、思い切り笑ってやるところ。

 ただ、くやしいことに似合ってはいるんだよね。

 顔がいいと、そんなクサいセリフでさえもサマになっているのだから。


 それにしても、なぜこうも核心をついてくるのだろう。


 ナイトって守る役目よね。欲しかったのは彼氏ではなく、そういう男子。

 緋色を他の男子達から遠ざけてくれて、わたしが静かで普通の学校生活を送るために必要な役割の男子。

 1人っていうより、2人っていうのが、またいいのよね。

 どんなふうに見られるにしろ、かなりの牽制にはなるだろうから。


 しかも、この2人、緋色のことを好きだといっているわけではないしね。

 今のところ。

 だから充分に言質は取れる。 


 ただねぇ、送るというのがね、どうしようか。


 最初から反対方向だということは、百も承知の上でのことだろうから、彼ら的には何の問題もないのだろうけど。


 せっかく彼らから声をかけてくれたのだから無にはしたくない。

 全面的に拒否しているわけではないことを滲ませる。


「でも、あなたたちが帰るのがずいぶん遅くなるんじゃない?それもなんか悪いな」 


「少し遠回りするだけだから、気にするほどもないと思うよ」


 今度は藤井がそんなことを言ってくれた。にこにこと穏やかな表情で。


 少しね、反対方向に送るのだから、少しでは済まないと思うのだけど、それは彼らのやさしさで、わかっていたことだけどね。


 でも、ごめんね?


 それって緋色には伝わっていないと思うから。

 私たちのやり取りを黙ってみているだけで、今だって、この状況をよくわかっていないだろうし、緋色って基本、受け身だからね。

 

 ごめんね。

 もう一度、わたしは心の中で彼らに謝った。


 それに彼らにとっては、距離よりも、緋色のそばにいられることのほうが重大なことなのだろうから、遠回りしてでも送っていきたいのだろうしね。

 そのために声をかけてきて。


 送ってもらうってことは、亮さんに会う可能性もあるわけで。


 もしも、あのいちゃいちゃぶりを見せられたら、この2人はどうするのだろうか。

 まさか、彼らの前で抱きしめあったりはしないだろうけど。


 仲がいいことはすぐにわかるはずだからね。

 緋色が亮さんしか見ていないこともね。


 そうなった場合、もしかしたら引くかも。

 いろんな意味で。



 緋色と亮さんのことがバレることも考えられる。

 その可能性があるから、即座にOKできない。

 最高の条件がそろっているのに。


 でも、だからといって断ったら、どうなるか。


 送ってもらうこと以外で、仲良くするか。


 送るのはダメだけどそれ以外だったらいいよって、それもちょっと。

 条件付きで、こちらが従わせるっていうのは、わたしとしては都合が悪い。


 

 ある程度仲良くなって送ろうかってパターンなら、なくもない。

 部活の男子からは言われたこともあるからね。

 それは何度か話をする中でだったから、初対面でいきなりというのはなかったのよね。


 断っても、何度も誘ってくれる可能性もどうかしら?


 彼らにとっては、この誘いは賭けみたいなものだろうし、そうだった場合、何度もあるわけではないだろうしね。

 これをきっかけに仲良くなるパターンもあるかもだけど、気まずさは多少なりとも残りそうだし。


 そうなると、こちらの方からいろいろ働きかけないといけないだろうし。

 こちらが下手に出るのも得策ではないし。不利になるのは避けたい。


 どのくらいの時間がかかったのだろうか。

 考えて、考えて、わたしは答えを出した。


「わたしたちを送ってくれるんだって。よかったね」


 わたしは心の中の葛藤など顔に出さずに、にっこりと微笑んだ。 

 OKしたとたん、彼らの表情が変わった。

 かすかに頬がゆるんで、安心したようなうれしい顔に。


 わたしにとっては賭けだった。

 吉と出るか凶と出るか、分からないけれど。


 どうしても、どうしてもの時には、亮さんにご登場願おう。


 男子達を一発で黙らせる最強のカード。使わないに限るけどもね。



 わたしは緋色と藤井と佐々田と4人で歩き出した。


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