見つけちゃった!
次の日、早速理想の男子を探すことにした。
こんなに部活に行くのを待ち遠しく思ったことはないわね。
わたしはバドミントンを好きなわけでもなく、興味があるわけでもない。
ただ単に緋色がバドをやっているから、付き合っているに過ぎない。
外のトレーニングが終わり、わたしたち1年の女子部が体育館に入ると、男子達はすでに体育館の中にいた。
基本的に男女は別々に練習をするから、それほど接点があるわけではなく、練習中に話をする機会もめったにない。
特に1年生だから、いくら仲がよくてもそこはみんな遠慮があるみたいで。
入部早々、下手に目立って先輩から目をつけられても困るしね。
緋色のことにしても、話しかけてくる男子は何人もいたけれど、帰り際なので早く家に帰るという名目で適当にあしらっていた。
ちょうど女子の方は休憩時間に入ったところで、わたしは男子部のほうをじっと眺めた
まずはルックス。外見は大事よ。
これをクリアしないと次には進めない。
そう思い全体を眺めまわしてみる。
すると、ふっとある人物に目がとまった。
ラケットを手に持ち2人で何やら話をしている男子達。
一言でいうとかっこいい。それも2人とも。
1年生だよね? 体操服きているし。
2、3年生たちはバド用のTシャツとか着ていて、1年生はラケットを使うような練習はまだで、基礎トレーニングばかりなので、体操服なのだ。
そのうちに名前を呼ばれたらしくコートの中に入っていった。
「うわあ、あの2人試合をさせてもらえるんだぁ。いいなあ。あたしも早く試合をしたい」
横から羨ましそうな声が聞こえた。
同じ1年生の女子。口振りからして経験者なのだろう。
ここの中学校は3校の小学校が集まっていて、私たちの通っていた小学校にはバドミントン部はなかったけれど、ほかの2校にはバドミントン部がある。
「藤井君と佐々田君ならね、それも当然でしょう? なにせ全小3位だし。それよりもかっこいいよねぇ。2人とも」
「あっ! やっぱりそう思う? あたしもそう思ってたんだよね。どっちがタイプ?」
「あたしは、佐々田君かな」
「あたしは藤井君。やんちゃっぽいところがいいんだよねぇ」
「佐々田君の落ち着いた感じもいいじゃない。頭よさそうだし」
「あたしは、うーん。両方いいよねぇ。どっちがいいかなぁ」
いつの間にか、わたしの隣で1年の女子たちが集まり、どっちがかっこいいか、誰が好きか、恋バナっぽい話でわいわいと盛り上がっている。
何気に人気がある。
「ねぇ。どっちが藤井くんでどっちが佐々田くんなの?」
わたしは情報収集とばかりに隣の女子に話しかける。
「髪の短いほうが藤井君で、もう一人が佐々田君」
言われて彼らのほうを見れば、さっきの彼女達の表現通りの外見だった。
藤井賢哉という彼は、やんちゃって言われるような、はきはきとした元気そうなスポーツ少年って感じで、もう一人佐々田拓弥は幾分か長い髪と優等生っぽい落ち着いた顔立ちをしていて、どちらもまだ幼ささが残っているけれど、中学生らしいかっこよさがある。
こんな男子いたのね。今まで気づかなかったわ。
緋色に近づいてくる男子ばかりに注目していて、それ以外の男子はスルーしていたから―――
追い払うだけでもかなりの人数なので、緋色に声をかけない男子には特に警戒をしていなかったのよね。
ということは、あの2人は緋色に興味がない?
それとも、あるけど、近づいてこないだけ?
「性格は?」
「いいよ。2人とも話しやすいし、男子達の中心的存在って感じで好かれているし、頭もいいし、バドも上手だよ」
「さっき、全小3位って言っていたけど」
「うん、うちの学校から初めてで、全国大会に出場して、全国3位になったの。すごいんだよ。入部してきたときから上手だったから、小さいころからやっていたみたい」
「へえ。そうなんだ」
彼らは上級生と試合をしている。前後左右に軽快に動きながら次々とポイントを決めていく。息の合ったプレイだ。
ここにも亮さんみたいな人がいたのね。
バドミントン部も条件にしていたけど、実力までは期待はしていなかったから。
中学校の大通りに面するフェンスにはさまざまな看板が掛けられている。運動部・文化部を含めて、地区大会・全国大会出場の宣伝を兼ねた看板だ。その中にバドミントン部に関係するのは亮さんの全国優勝だけで、それ以降はかかっていない。亮さんの看板も今はなくなっていて別のものに変わっている。
亮さんだけが特別だと思っていたから。
この学校の生徒には、それほどの実力はないのだろうと思っていた。
ますますいいじゃない。
性格は実際付き合ってみないとわからないし、成績に関しても、頭がいいって言っていたからそれなりにあるのかもしれないけれど、中間テスト終わっているから、本人達に聞いてみないとね。
「川原さんも、2人に興味あるの?」
わたしが自分の世界に浸っていると、横から話しかけられた。それもみんなから思いっきり訝しげな表情で睨むように見られた。何でだろう?!
「いや、別に、みんなが楽しそうに話していたから聞いてみただけで」
確かに興味はあるけれど、それは別の意味でだから。
恋愛としては何の関心もないから、誤解されないようにしなくては。
「そお?」
まだ不信そうにジッと見られる。しつこいなあ。
「ないわよ。タイプじゃないし」
もう一度、興味ありませんアピール。きっぱりと言ったら彼女達は、今度は何やら考えるように黙った。
「・・・・・」
「まさか。桜木さん、どちらかを好きってことはないよね」
はっとしたように、驚愕に青ざめた表情で一人の女子が身を乗り出すように緋色を見た。
そう、きたのね
。
わたしより、緋色のことが心配になったらしい。
そりゃ、そうだよね。緋色じゃ、どう見ても勝ち目はないもんね。
周りがシーンとしてしまった中で、みんなの眼が緋色に集まる。
わたしの隣にいた緋色は突然話を振られ、注目されて、びっくりしたように目を瞬かせた。
「えっと、何の話? 聞いてなかった」
だよね。
彼女達が脱力したのがわかった。
あれだけみんなで盛り上がっていたのにね。
仕方ないよね。緋色だもん。亮さん以外興味ないし。
「もう一度、聞くけど、桜木さん、藤井君と佐々田君どっちが好き?」
ハッキリと聞いてきた。曖昧に濁すより、この際きちんと聞いておきたいのかも。最強のライバル。彼らの気持ちは無視しているけどね。
「誰? そんな人知らないから、わかんない」
あっけらかんと緋色が答えた。
そうよね。知らないわよね。亮さん以外興味ないもんね。わたしだって彼らのこと、今日初めて知ったし。
「・・・・・」
みんな目が点だ。一様に呆けてようにぽかんと口を開けている彼女達の様子は面白く、思わず吹き出しそうになった。
けど・・・寸でのところで堪えた。
「藤井君と佐々田君だよ? 知らない?」
「うん」
緋色は即答で頷いた。
知らないなら知らないで、誰なのか聞いてもよさそうなものなのに、それもしないし、男子のほうを見ることもしない。
何にも聞かない緋色に彼らに関して興味はないことが伝わったのか、緊張感が解け、ほっとしたような空気が流れる。
でも、それは一瞬で。
「今はそうかもしんないけど、ぬけがけ禁止だからね。特に、桜木さん、2人のこと絶対好きにならないでね」
『特に、桜木さん』と『絶対』のところ、すっごい強調したわね。
なんて理不尽な。
なに馬鹿げたことを考えてるの。私は思わず目を覆いたくなった。
「そう、そう」
何人かがその言葉に同意するように首肯した。
「わかった?」
緋色の目の前で凄むように確認している。
目が血走ってるよ。
みんな必死過ぎ、男子は彼らばかりじゃないのに。
緋色は相手の勢いに押されるように「はい」と返事をしていた。
意味わかっているのかなぁ。
まぁ、いっかぁ、亮さんいるしね。
と、そこで休憩時間が終わった。
女子たちの気持ちは関係ない。
彼らがどんなに人気があっても、不可侵条約突きつけられても。
見つけちゃったからね。
これからは行動あるのみ。
そのためには相手のことを知らなくては。