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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅲ 

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〈5〉彼の手腕

 ゼゼフとシュティマのそんなやり取りがあった、その少し前に遡る――。


 噂が微かに広がり出した頃から、リレスティの町を二人の青年が並んで歩くようになった。

 リレスティは上流階級の人間が多いため、服飾店や宝石店、少し値の張るような店が立ち並んでいる。そのショーウインドーの前には主を待つ馬車や従者も連なっていた。


 リトラは気楽なもので、物珍しげに辺りを見回している。ユーリを外へ出さないようにしたので、心配事がなくなったのだろう。

 こうしていると、最初に会った頃の突き刺さるような鋭さは、少し薄らいだように思う。それでも十分に謎めいていて、得体が知れないのは確かだけれど。それはユーリも同様なのだが。

 彼らに対し、もしかするとという仮説はある。ただ、それが信じがたいことのように思えて、未だに確かめることはできなかった。確かめた途端、多分二人は協力を拒む。そう思えた。



 そんなことを考えながらザルツは歩いていた。リトラは会話をするつもりもないようで、黙々と歩き続ける。かと思うと、町並みにもすでに飽きたのか、重々しく嘆息した。


「ただ歩いて待つのは時間の浪費だな」

「そうは言っても、あまり目立つ動きは困る」


 調査官を装うなら、まず人目を気にしてほしい。隠密調査と言いつつ、目立つ行動を取るなど論外だ。

 そんなザルツの心配を、リトラはまるで汲み取ろうとしない。どうでもいいからさっさと終わらせて去りたい。それだけのような気がした。


「とりあえず、貴族の家に転がり込めればいいんだろ」


 と、いとも容易く言う。それができたら苦労はない。

 ただ、リトラはザルツには到底真似のできないような手段を取った。


 彼がしたことといえば――一点を集中して見た。ただそれだけだったのだが。

 ザルツがその視線をたどると、その先には供を引き連れ、煌びやかなフリルのドレスに身を包んだ令嬢がいた。リトラは一言も発することなく、離れた位置で立ち止まると、ただ視線だけを彼女から外さずにいる。


 世間知らずな令嬢は、途端に白面を真っ赤に染め上げた。どこか謎めいた雰囲気のある男性からの熱い視線は、きっとしばらく忘れられずに残るだろう。リトラは、最後に少しだけ口の端を軽く持ち上げて笑った。令嬢はぼうっと虚ろな目でリトラの背を視線で追う。ザルツが歩きながら振り返ると、令嬢はお付のメイドに体を揺さぶられていた。


「さ、次」


 この男は、とザルツはあきれるしかなかった。



 これを繰り返すこと数回。ザルツはなんとも複雑な心境だった。


「……ユーリの前ではこんなことしないんだろう?」


 ため息混じりにつぶやくと、リトラは途端に鋭い眼を向け、牙をむくように言った。


「あいつに余計なことは言うな」

「…………」



 ただ、ザルツが思う以上にリトラのやり口は効果的だったのである。物思いにふける令嬢たちの口から、その家族へ、その謎めいた青年の存在が語られるのだった。

 

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